(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年12月6日23時40分
紀伊水道
(北緯34度02.3分 東経134度50.9分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船日山丸 |
貨物船海宝丸 |
総トン数 |
199トン |
184トン |
全長 |
55.73メートル |
53.27メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
551キロワット |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 日山丸
日山丸は,平成元年11月に進水した全通二層甲板船尾船橋型の鋼製貨物船で,概ね紙製品の輸送に従事していた。
上部船橋には,エアホーンが1台,探照灯1台が装備されており,船橋内には,電気関係パネル,機関操作パネル,操舵パネル及びカラーレーダーが一体化した,操作卓とGPS表示装置が設置されていた。
海上公試運転成績表の旋回力試験では,右旋回において,開始から針路を90度変更するのに43秒を要し,旋回径は168メートルで,左旋回でも同様の結果であった。
イ 海宝丸
海宝丸は,平成5年5月に進水した全通二層甲板船尾船橋型の鋼製貨物船で,主に鋼材の輸送に従事していた。
上部船橋には,モーターホーンとエアホーンがそれぞれ1台ずつ装備され,船橋内には,日山丸と同様の操作卓とGPS表示装置が設置されていた。
海上公試運転成績書の旋回力試験では,右旋回において,開始から針路を90度変更するのに28秒を要し,左旋回でも同様の結果であった。旋回径は船丈の約3倍で,日山丸と同様であった。
3 事実の経過
日山丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,紙製品400トン及び空コンテナ60個を積載し,船首2.5メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,平成15年12月6日22時20分徳島県富岡港を発し,大阪港に向かった。
A受審人は,発航から大阪港着岸までを,自らの単独船橋当直とすることとして法定灯火を表示し,富岡港西方沖合に出たあと,兵庫県由良港の方向に船首を向けて北上を開始した。
23時00分A受審人は,沼島灯台から186度(真方位,以下同じ。)13.7海里の地点で,針路を020度に定め,機関を全速力前進にかけ,9.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵により進行した。
23時11分A受審人は,沼島灯台から184度12.0海里の地点に達したとき,12海里レンジとしたレーダー画面の,左舷前方30度くらい8海里の距離に,ほぼ並航して南東行する海宝丸と,第三船の映像を認めたので,これらの監視を始めた。
やがてA受審人は,前示両船の白,白,緑3灯をそれぞれ認めることができるようになり,レーダー画面上で両船の方位に顕著な変化は認めなかったものの,いずれ自船の進路を避けるものと予想して監視しながら続航した。
23時36分半少し前A受審人は,沼島灯台から176度8.2海里の地点に至って,3海里レンジとしたレーダー画面上で,海宝丸と第三船の間隔がほぼ300メートルであることと,距離の近い第三船と自船の距離が1海里を切って方位に顕著な変化のないまま接近することを認めたので,先ず第三船を避ける目的で右転して針路を045度として進行した。
このとき,海宝丸が自船の左舷船首48度1,600メートルのところに存在し,その後自船の進路を右方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近していたが,A受審人は,第三船が自船の後方を替わして行けば,海宝丸も第三船に続いて避航するものと思い,第三船の動静のみに集中し,海宝丸の動静監視を十分に行わず,避航動作をとらずに衝突のおそれのある態勢で接近する同船に気付かないで,警告信号も行わないまま続航した。
23時39分半第三船が自船の後方を替わって行くのを確認したA受審人が,前方を振り返ったとき,左舷船首200メートルのところに,海宝丸を認めたものの,直ちに激右転とするなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく,自船の船橋内の照明を2,3回点滅させてから,機関を全速力後進として右舵一杯としたが効なく,23時40分沼島灯台から173度7.75海里の地点において,日山丸は,原針路,原速力のまま,左舷中央部外板に海宝丸の船首が前方から87度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力3の北西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
また,海宝丸は,船長E及びC受審人ほか1人が乗り組み,鋼材600トンを積載し,船首3.1メートル船尾3.7メートルの喫水をもって,同月5日16時10分ごろ関門港戸畑を静岡県清水港に向けて発し,翌6日06時ごろ鳴門海峡の潮待ちと休憩のため,愛媛県伯方島木江地区の岸壁に着岸したのち,14時ごろ同地区を離れた。
E船長は,航海船橋当直を原則として,C受審人,機関長及び自身の3人での単独3時間交代制としていたが,木江地区を離れたのち,鳴門海峡の通過を自身の当直に当たるよう調整して瀬戸内海を東行したのち,日没時に法定灯火を点灯し,自らの操船で鳴門海峡を通過した。
23時05分E船長は,沼島南西方沖合で交代時間に少し遅れて昇橋してきたC受審人と船橋当直を交代して自室に下がった。
ところで,C受審人は,木江地区を離れたのち,14時から17時までの船橋当直を終えてから,夕食をとって睡眠をとろうとしたが,なかなか寝付かれないまま時間を過ごして,睡眠が不十分で頭がぼんやりしたまま昇橋したものであった。
23時08分C受審人は,沼島灯台から215度4.5海里の地点で,自動操舵のまま針路を日ノ御埼付近に向く138度に定め,機関を全速力前進にかけ10.0ノットの速力で進行した。
23時11分C受審人は,沼島灯台から208度4.6海里の地点に達したとき,右舷船首方に300メートルの船間距離で同航する第三船の灯火と右舷船首33度8海里のところに自船の進路を左方に横切る態勢で接近する日山丸の灯火を視認できたが,睡眠不足で頭がぼんやりとした状態で,何度か左舷の窓を開けて冷風に当たったりしたものの,概ね操舵室中央部にある操舵輪後方の椅子に腰をかけ,右舷方に他船はいないものと思い,前方を眺めたまま右舷方の見張りを十分に行わなかったので,両船に気付かなかった。
23時36分半少し前C受審人は,沼島灯台から175度7.2海里の地点に至って,右舷船首39度1,600メートルのところに右転した日山丸が表示する白,白,紅3灯を視認でき,その後方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近したが,依然として右舷方の見張りを十分に行わなかったのでこのことに気付かず,速やかに減速して右転するなど,日山丸の進路を避けることなく進行し,23時40分海宝丸は,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果,日山丸は左舷外板に破口を生じて転覆し,積荷の紙製品と空コンテナが海没したが,のち船体は復原されて曳航されたものの解撤され,海宝丸は船首部を圧壊するとともに,左舷錨を喪失したがのち修理された。また,日山丸のA受審人及び機関長は,救命ボートで脱出して海宝丸に救助された。
(航法の適用)
本件衝突は,兵庫県沼島南方海域で,北上する日山丸と南東行する海宝丸が衝突したものであり,同海域は海上交通安全法が適用される海域ではあるが,適用すべき同法の航法規定はないので,海上衝突予防法の規定が適用されることになる。
本件では,海宝丸と第三船が300メートルの船間距離をもって並航して南東行し,日山丸と両船がそれぞれ同時に互いに進路を横切って接近していて,衝突の3分半少し前に日山丸が第三船との衝突を避けるために右転しているのでこれらについて検討する。
先ず,日山丸が第三船を避けるために右転したとき,日山丸と海宝丸の距離は1,600メートルであり,衝突までの時間は3分半少しあり,衝突のおそれを判断するための時間的余裕があった。
当時は,夜間であったものの,視界は良好で,日山丸と海宝丸は,それぞれ相手船の航海灯を視認でき,同灯の変化から相手船の動静を知ることが可能であった。
日山丸と海宝丸は,それぞれ199型の小型内航船で,両船の旋回能力等の運動性能は良好であった。
第三船が海宝丸の右舷前方に並航していたものの,減速して右転するなど,海宝丸が日山丸を避航するために制約とはならなかった。
日山丸は,第三船が船尾を替わすことが判明してから,海宝丸が適切な動作をとっていないことが明らかになったとき,直ちに激右転するなどして衝突を避けるための動作や最善の協力動作をとることは可能であった。
以上の状況を考慮すると,日山丸と海宝丸には,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用して律することとなる。
(本件発生に至る事由)
1 日山丸
(1)A受審人が,第三船の動静のみに集中して,海宝丸の動静を監視していなかったこと
(2)A受審人が,警告信号を行わなかったこと
(3)A受審人が,協力動作をとらなかったこと
2 海宝丸
(1)C受審人が,頭がぼんやりしたまま船橋当直に当たったこと
(2)C受審人が,前方を眺めたまま右舷方の見張りを十分に行わなかったこと
(3)C受審人が,日山丸の進路を避けなかったこと
(原因の考察)
本件衝突は,海宝丸が見張りを十分に行っておれば,右舷方から接近する日山丸に気付くことができて同船の進路を避けることができ,一方日山丸は,海宝丸の動静監視を十分に行っておれば,同船が自船の進路を避けないまま接近することに気付くことができ,警告信号を吹鳴して,衝突を避けるための協力動作をとることができた。
したがって,C受審人が見張り不十分で,前路を左方に横切る日山丸の進路を避けなかったことと,A受審人が動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは本件発生の原因となる。
C受審人が,睡眠が不十分で頭がぼんやりとしたまま船橋当直に当たったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,紀伊水道において,南東行中の海宝丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る日山丸の進路を避けなかったことによって発生したが,北上中の日山丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
C受審人は,夜間,紀伊水道において,日ノ御埼に向け南東行する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,睡眠不足のため頭がぼんやりした状態で,右方に他船はいないものと思い,前方のみを眺めて,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を左方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近する日山丸に気付かず,同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き,海宝丸の船首部を圧壊させるとともに左舷錨を喪失させ,日山丸の左舷外板に破口を生じて転覆のうえ解撤させ,積荷の紙製品と空コンテナを海没させるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
A受審人は,夜間,紀伊水道において,海宝丸と第三船を認めたのち第三船を避けるため右転して進行する場合,継続して海宝丸の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,第三船が自船の後方を替わして行けば,海宝丸も第三船に続いて避航動作をとるものと思い,第三船の動静のみに集中し,海宝丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,避航動作をとらずに衝突のおそれのある態勢で接近する海宝丸に気付かないで,警告信号を行わず,激右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して,海宝丸との衝突を招き,前示の損傷等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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