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平成16年神審第33号
件名

貨物船みつひろ2防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月14日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一,中井 勤,橋本 學)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:みつひろ2船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
球状船岸部に亀裂を伴う曲損,船橋左舷側外壁に凹損

原因
船位確認不十分

主文

 本件防波堤衝突は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月16日00時20分
 大阪港堺泉北区
 (北緯34度36.2分 東経135度23.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船みつひろ2
総トン数 748トン
全長 86.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
(2)設備及び性能等
 みつひろ2は,平成6年1月に竣工し,専ら鋼材の輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で,レーダー2基及びGPSを装備し,最大速力は,機関回転数毎分260の約12ノットであった。

3 事実の経過
 みつひろ2は,A受審人ほか4人が乗り組み,空倉で海水バラストを張り,同人が1人で船橋配置に就いてレーダーを作動させ,他の乗組員を船首尾の出港配置に就かせたのち,船首1.70メートル船尾4.00メートルの喫水をもって,平成15年11月15日23時55分大阪港堺泉北区第2区岸壁を発し,大分港に向かった。
 ところで,A受審人は,製鉄所が所在する国内各港間を頻繁に往来し,大阪港堺泉北区第2区には多数の出入港経験があり,堺航路周辺における港内の状況及び航路標識の設置模様をよく知っていた。
 堺航路は,航路長約3.7海里,航路幅250ないし300メートルで,堺泉北区第2区から,大和川南防波堤東方に延び,同防波堤北端から西方に屈曲して同防波堤西方の同第7区に達し,同航路には,左舷及び右舷灯浮標が,0.2海里ないし0.8海里おきにそれぞれ7基設置され,夜間は毎3秒若しくは毎6秒の緑色若しくは赤色の閃光を発し,第1号から第8号までの各標識は,それぞれの標識番号が,付設の電光板で電光表示されていた。
 また,堺航路第8号灯浮標(以下,灯浮標の名称については「堺航路」を省略する。)は,航路の屈曲部に設置されていることから,転針目標となっていたところ,同灯浮標の南東方0.5海里の地点には,第10号灯浮標があって,両灯火は,ともに毎3秒の赤色閃光を発していたので,夜間は取り違えやすい状況であった。
 翌16日A受審人は,堺信号所を左舷に見て航過したのち,出港配置を解いて単独の船橋当直に就き,00時10分少し過ぎ,大阪港大和川南防波堤北灯台(以下「北灯台」という。)から113度(真方位,以下同じ)1.9海里の地点で,針路を堺航路に沿う300度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,11.0ノットの対地速力で進行した。
 定針したのち,A受審人は,レーダー映像を確認したところ,航行の支障となる他船を認めなかったので,次直の二等航海士が昇橋するまでの間に書類の整理をすることとし,船橋後部左舷側の海図台に赴き,身体を船尾方に向けた姿勢で作業を始めた。
 00時17分A受審人は,北灯台から099度0.7海里の地点に達し,海図台横の窓から,左舷側に第10号灯浮標の赤色閃光灯を認めたものの,同灯火を一瞥しただけで,第8号灯浮標と判断して転針地点に達したものと思い,レーダー映像を確認して防波堤や航路標識との位置関係を把握するなど,船位の確認を十分に行うことなく,灯浮標を取り違えたことに気付かなかった。
 A受審人は,直ちに操舵スタンドに戻って手動操舵に切り替え,港口に向けて針路を270度に転じ,大和川南防波堤に向首する態勢で接近することとなったものの,依然として船位の確認を行わないで灯浮標を取り違えたことに気付かないまま続航中,00時20分少し前船首方至近に,黒色に浮かび上がった同防波堤を認めて驚き,直ちに右舵一杯としたものの,機関を中立とする間もなく,00時20分みつひろ2は,原針路,原速力のまま,北灯台から120度440メートルの地点において同防波堤に衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 衝突の結果,球状船首部に亀裂を伴う曲損及び船橋左舷側外壁に凹損を生じ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 第8号灯浮標と第10号灯浮標の両灯火は,灯質が同じであったこと。
2 定針したのち,A受審人が船橋左舷側後部にある海図台に向かって書類の整理をしていたこと。
3 A受審人が転針するにあたり,船位の確認を行わなかったこと。
4 A受審人が海図台横から,左舷側に見えた第10号灯浮標の赤色閃光灯を第8号灯浮標のものと取り違えたこと。

(原因の考察)
 A受審人が,単独で船橋当直について堺航路を北上して出港中,海図台に向かって書類の整理をし,海図台横から左舷側に赤色閃光灯を認めた際,第8号灯浮標と第10号灯浮標の両灯火の灯質が同じであり,第10号灯浮標の赤色閃光灯を第8号灯浮標と取り違えたとしても,レーダー映像を確認して防波堤や航路標識との位置関係を十分に把握するなど,船位の確認を十分に行っていれば,左舷側に大和川南防波堤が存在し,転針目標である第8号灯浮標は,まだ0.5海里ほど先であることを容易に知り得たことから,防波堤との衝突を避けることは可能であったものと認められる。
 したがって,A受審人が,転針するにあたって,船位の確認を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 A受審人が,海図台に向かって書類の整理をしていたこと及び海図台横から左舷側に見えた第10号灯浮標の赤色閃光灯を灯質が同じである第8号灯浮標と取り違えたことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,船位の確認を十分に行っていたならば,防波堤との衝突を避けることは可能であったのであるから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件防波堤衝突は,夜間,大阪港堺泉北区において,堺航路を北上して出港中,港口に向けて転針する際,船位の確認が不十分で,転針目標である灯浮標を取り違えたことに気付かないまま,防波堤に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,大阪港堺泉北区において,堺航路を北上して出港中,港口に向けて転針する場合,同航路の第8号及び第10号灯浮標は,灯質が同じだったのであるから,取り違えないようレーダー映像を確認して防波堤や航路標識との位置関係を十分に把握するなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,海図台横の窓から,左舷側に第10号灯浮標の赤色閃光灯を認めたものの,同灯火を一瞥しただけで,第8号灯浮標と判断して転針地点に達したものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,転針目標である灯浮標を取り違えたことに気付かないまま,直ちに針路を転じて大和川南防波堤に向けて進行し,同防波堤との衝突を招き,球状船首部に亀裂を伴う曲損及び船橋左舷側外壁に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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