(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月1日15時20分
和歌山県千田漁港
(北緯34度03.9分 東経135度08.1分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船高友丸 |
モーターボート白波 |
総トン数 |
2.40トン |
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全長 |
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6.06メートル |
登録長 |
8.54メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
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62キロワット |
漁船法馬力数 |
50 |
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3 事実の経過
高友丸は,FRP製漁船で,刺網漁に従事したのち,平成16年2月1日06時30分に帰港し,和歌山県有田市大字千田の178.6メートル頂所在の千田三角点(以下「基点」という。)から303度(真方位,以下同じ。)710メートルの,千田漁港B防波堤南端から約5メートル北方の地点に,025度に向首して無人で係留していたところ,同日15時20分同船の右舷船首部と出港のために左回頭中の白波の右舷船首部とが,前方から10度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で,風はほとんどなく,潮候は下げ潮の初期であった。
また,白波は,後部中央に操縦席を設けた最大搭載人員4人のFRP製モーターボートで,平成11年9月交付の四級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が,1人で乗り組み,友人1人を同乗させ,釣りの目的で,平成16年2月1日同漁港南方沖合200メートルの釣り場に向かうこととした。
ところで,A受審人は,平成16年1月30日に知人から白波を購入して受け取り,2月1日午前同船を初めて自ら操縦して和歌山県初島漁港から45分ほどかけて千田漁港まで回航したのみで,同船の操縦性能を十分に把握していなかった。
A受審人は,白波を前示防波堤屈曲部から5メートル東方の地点に,船首を護岸に向けて係留索を係留リングに,船尾を係留ブイに係止していたところ,15時19分30秒両係留索を離し,同乗者を左舷後部に座らせ,自らは舵輪後方に立ち,微速力後進で10メートル後退した。
15時19分55秒A受審人は,基点から304度700メートルの地点で,船首を332度に向けて左舵15度をとり,機関を半速力前進にかけ,8.0ノットの対地速力で港口に向かった。
発進したとき,A受審人は,左舷船尾88度20メートルの千田漁港B防波堤に高友丸が係留されているのを認め,そのまま回頭を続けると同船と衝突するおそれがあったが,高友丸までの距離は,十分にあるので,安全に替わせるものと思い,後退したのち,前路に操船水域を十分に確保して発進するなど,操船を適切に行わなかった。
こうしてA受審人は,係留中の高友丸が間近に迫ったものの,依然操船を適切に行わないで,左舵15度としたまま,回頭中,15時20分前示衝突地点において,白波は,その船首が215度に向首したとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
A受審人は,衝突の衝撃で海中に,同乗者は,高友丸の甲板上にそれぞれ転落したところ,白波はその後も左回頭を続け,千田漁港B防波堤南東方の物揚場の付け根に船首を衝突させて停止した。
衝突の結果,高友丸は,右舷側前部外板に軽微な損傷を,白波は,船首部に小破口をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。また,白波の同乗者が,左足関節内果骨折等を負った。
(原因)
本件衝突は,白波が,出港操船にあたり,後退したのち,左回頭して港口に向かう際,操船が不適切で,前路に操船水域を確保しないまま左回頭し,係留中の高友丸を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,和歌山県千田漁港において,岸壁に漁船が係留されている状況下,出港操船するにあたり,後退したのち,左回頭して港口に向かう場合,白波の操縦性能を十分に把握していなかったのであるから,後退して前路に操船水域を十分に確保するなど,操船を適切に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,係留中の高友丸までの距離は十分にあるので,安全に替わせるものと思い,操船を適切に行わなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,高友丸の右舷側前部外板に軽微な損傷を,白波の船首部に小破口をそれぞれ生じさせ,白波の同乗者に左足関節内果骨折等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。