(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月27日14時50分
大阪湾
(北緯34度24.5分 東経135度16.2分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船住吉丸 |
モーターボートしのぶ |
総トン数 |
9.7トン |
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全長 |
19.10メートル |
6.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
46キロワット |
44キロワット |
3 事実の経過
住吉丸は,船体中央部に操舵室を,その後方に船尾甲板を有するFRP製漁船で,平成11年12月交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人ほか2人が乗り組み,底引き網漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成15年10月27日05時45分大阪府佐野漁港を発し,関西国際空港(以下「関空」という。)の西方4海里付近の漁場に至り,あかしたびらめ等100キログラムを揚げ,14時10分同漁場を発進して同漁港に向けて帰途についた。
A受審人は,父親とおじを船尾甲板で魚の選別作業にあて,操舵室中央の舵輪後方に立って操船にあたり,周囲の他船に注意を払いながら関空の南方に至り,14時47分大阪府岡田港波除堤灯台(以下「波除堤灯台」という。)から318度(真方位,以下同じ。)1,700メートルの地点に達したとき,針路を064度に定め,機関回転数毎分3,450の全速力前進にかけて,10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で自動操舵として進行した。
定針したとき,A受審人は,正船首方930メートルのところに,北を向いて静止状態にあるしのぶを視認できたが,往来する船舶が少なくなっていたことから,一瞥しただけで前路に他船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行うことなく,これに気付かず,その後,船尾甲板で前方を向いて腰を落とし,魚の選別作業を手伝い始めた。
14時49分A受審人は,正船首310メートルのところに,錨泊中の形象物を表示して船首を350度に向けて静止状態のしのぶを認めることができ,同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,依然,見張り不十分で,この状況に気付かず,しのぶを避けることなく続航した。
14時50分少し前A受審人は,父親の叫び声で,右舷船首至近にしのぶを初めて認め,左舵一杯を取り機関を後進としたが及ばず,14時50分住吉丸は,波除堤灯台から349度1,700メートルの地点において,船首が035度を向き,ほとんど停止したとき,住吉丸の右舷船首部が,しのぶの左舷船首部に後方から45度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風1の北風が吹き,海上は穏やかで視界はよく,潮候は上げ潮の初期であった。
また,しのぶは,FRP製キャビン付モーターボートで,平成15年2月交付の四級小型船舶操縦士免状を受有するB受審人が1人で乗り組み,ふぐ釣りの目的で,船首0.1メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,同日08時00分大阪府田尻漁港を発し,同漁港から北西1海里の関空南東方の釣り場に向かった。
B受審人は,08時10分各種船舶が多数往来する関空南東方の海域に至り,笛付きの救命胴衣を着用して釣りを始め,13時50分前示衝突地点に移動して,水深12メートルの海底に4.5キログラムの錨に錨索を結び船首部から30メートル伸出し,船首部甲板上1.5メートルのところに,錨泊中を示す成規の形象物を掲げ,機関を停止して再び釣りを始めた。
14時47分B受審人は,350度に向首し,船尾部で右舷側を向いて腰を下ろし,竿釣りを行っていたとき,左舷船尾74度930メートルのところに,来航する住吉丸を視認できたが,往来する船舶が少なくなっていたことから,周囲に通航船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,これに気付かなかった。
14時49分B受審人は,同方位310メートルのところに,住吉丸が自船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,依然,見張り不十分で,この状況に気付かず,救命胴衣の笛を吹くなど,有効な音響による注意喚起信号を行うことなく,釣りを続けた。
14時50分わずか前,B受審人は,至近に迫った住吉丸を初めて認めたが,どうすることもできず,しのぶの船首が350度を向いた状態で,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,住吉丸は右舷船首部に擦過傷を生じ,しのぶは左舷船首部に破損を生じたが,のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は,大阪湾東部の各種船舶が往来する海域において,北東進中の住吉丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中のしのぶを避けなかったことによって発生したが,しのぶが,周囲の見張り不十分で,有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,大阪湾東部の各種船舶が往来する海域において,操業を終えて帰港のため北東進する場合,錨泊中のしのぶを見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,往来する船舶が少なくなったことから,一瞥しただけで前路に他船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,錨泊中のしのぶに向首進行して衝突を招き,住吉丸の右舷船首部に擦過傷を,しのぶの左舷船首部に破損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が,大阪湾東部の各種船舶が往来する海域において,錨泊して釣りを行う場合,来航する住吉丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,往来する船舶が少なくなっていたことから,周囲に通航船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,住吉丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。