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平成16年神審第92号
件名

漁船隆昌丸防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月4日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野浩三,中井 勤,橋本 學)

理事官
佐和 明

受審人
A 職名:隆昌丸船長 海技免許:小型船舶操縦
指定海難関係人
B 職名:隆昌丸甲板員 

損害
右舷船首ブルワークに破口、甲板員が左肩鎖関節を脱臼の負傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件防波堤衝突は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月9日05時30分
 兵庫県香住港
 (北緯35度38.85分 東経134度37.55分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 漁船隆昌丸
総トン数 18トン
全長 23.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット
(2)設備及び性能等
 隆昌丸は,平成9年8月に進水し,主としてはえなわ(べにずわい)漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室を備え,同室にはレーダー2台,GPSプロッタ,自動操舵装置などを備えていた。
 船首端から操舵室までの距離は1.2メートル,操舵位置における眼高は海面から約3.5メートルで,見張りを妨げる構造物はなかった。
 全速力前進の際,速力(対地速力,以下同じ。)は16.0ノットであった。

3 事実の経過
 隆昌丸は,A受審人,B指定海難関係人ほか4人が乗り組み,A受審人の操船指揮のもと,船首尾共0.6メートルの喫水をもって,平成16年3月8日07時00分香住港を発し,同日正午ごろ同港北方の漁場に至って操業に従事し,翌9日02時30分べにずわいがに約2トンを獲たところで操業を終え,同港北方48海里の漁場を発し,香住港に向かった。
 ところで,今回の操業においてA受審人は,操船及び操業指揮を執り,乗組員全員を操業に従事させ,漁場発進時から乗組員が片付けなどが終わるまでの間,単独の航海当直に就いていた。
 03時30分A受審人は,余部埼灯台から346度(真方位,以下同じ。)30.2海里の地点において,針路160度16.2ノットの速力で進行していたとき,片付け作業を終えて昇橋してきたB指定海難関係人に航海当直を行わせることとしたが,当直者が居眠りしないものと思い,眠気を催したときはその旨を報告するよう指示するなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,入航操船のための昇橋地点に達した旨を報告することのみを指示して休息した。
 単独の航海当直に就いたB指定海難関係人は,前示の交替地点において,同針路に定め,同速力で,自動操舵により続航した。
 05時00分B指定海難関係人は,余部埼灯台から018度6.8海里の地点において,いすに腰掛けて進行していたとき,眠気を催したが,入航のための報告地点まであとわずかなので我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置として,A受審人に眠気を催したことを報告することなく,続航した。
 その後,B指定海難関係人は,いつしか居眠りに陥り,05時21分少し過ぎ,目的地まで2海里ばかりで船長の昇橋地点に達したが,その旨をA受審人に報告することができないまま,香住港沖防波堤に向かって進行し,05時30分香住港沖防波堤灯台から100度100メートルの地点において,原針路,原速力のまま,同防波堤の消波ブロックに船首が衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の南西風が吹き,潮侯は上げ潮の中央期であった。
 衝突の結果,右舷船首ブルワークに破口を生じ,その衝撃でB指定海難関係人が左肩鎖関節を脱臼した。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が当直交替時にB指定海難関係人に対し,眠気を催したときにその旨を報告するよう指示しなかったこと
2 B指定海難関係人がいすに腰掛けて当直していたこと
3 B指定海難関係人が居眠りに陥り,港に近づいた旨をA受審人に報告しなかったこと
4 B指定海難関係人が居眠りに陥り,防波堤を避けなかったこと

(原因の考察)
 船長が,居眠り運航防止措置として,当直交替時に当直者に対して眠気を催したときにはその旨を報告するよう指示せず,また当直者が,同防止措置として,眠気を催したときにその旨を船長に報告しないまま居眠りに陥り,防波堤に向かって進行したことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人が,航海当直中,いすに腰掛けていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながらこれは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件防波堤衝突は,夜間,漁場から兵庫県香住港に向けて帰航中,眠気を催したときその旨報告するよう指示するなど,居眠り運航の防止措置が不十分で,当直者が居眠りに陥り,防波堤に向かって進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,当直者に対して,眠気を催したときその旨報告するよう指示するなど,居眠り運航の防止措置について指示しなかったことと,当直者が,眠気を催したときに船長にその旨を報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,夜間,漁場から香住港に向けて帰航中,航海当直を乗組員に行わせる場合,眠気を催したときには,その旨を報告するよう指示するなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,当直者が居眠りしないものと思い,眠気を催したときはその旨を報告するよう指示するなど,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,当直者が居眠りに陥って防波堤に向かって進行して衝突を招き,右舷船首ブルワークに破口を生じさせ,当直者に左肩鎖関節を脱臼させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,眠気を催したとき,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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