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平成16年横審第89号
件名

モーターボートカネコメ護岸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(中谷啓二,安藤周二,岩渕三穂)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:カネコメ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首材及び船首外板を破損,船長が左手挫傷,同乗者10人が肋骨骨折等の負傷

原因
水路調査不十分

主文

 本件護岸衝突は,水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月27日21時25分
 茨城県北浦南部
 (北緯35度58.8分 東経140度35.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボートカネコメ
登録長 6.83メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 220キロワット
(2)設備及び性能等
 カネコメは,平成4年12月に進水した,最大搭載人員10人のFRP製モーターボートで,中央部の船室の船首側に操縦席が置かれ,同席のほか船室屋根上のフライングデッキに舵輪,機関操縦レバー及びマグネットコンパスが装備されていたが,レーダー及びGPSの装備はなかった。

3 事実の経過
 カネコメは,A受審人が1人で乗り組み,知人のほか,幼児や小学生4人を含むその家族計12人を乗せ,毎年夏期に北浦南部に架かる神宮橋付近水域で実施されている花火大会見物の目的で,船首0.4メートル船尾0.9メートルの喫水をもって,平成16年8月27日18時30分潮来市白浜地区を発し,南南東方約10キロメートルの神宮橋に向かった。
 ところで,白浜地区と神宮橋間の水域は,航路標識は設置されていなかったものの湖岸に多数の民家,建物及び車道などがあり,夜間,無難に航行することは,湖岸の地形と民家等の明かり(以下「灯火」という。)の状況を把握しておくことで可能であった。
 A受審人は,19時30分から21時までの間開催される花火大会の見物を,これに先立つ約1週間前に予定し,夜間航行については,その経験がカネコメによる前年及び前々年の同見物の帰路の折,友人に先導されたときだけで乏しく,単独で行うのは初めてであったが,以前の記憶を頼りに航行すれば無難に航行できると思い,夜間航行に備え,国土地理院発行の地形図や道路地図を参照しながら灯火を実際に視認するなど,湖岸の地形と灯火の状況についての水路調査を十分に行わなかった。
 こうしてA受審人は,19時ごろ神宮橋南側の,茨城県鹿嶋市四ッ谷地区37.2メートル三角点(以下「三角点」という。)から189度(真方位,以下同じ。)1,320メートルの地点に錨泊して花火見物を楽しみ,21時15分同地点を発進して帰路に就き,低速力で神宮橋や並行する橋梁下を航過して北西進し,21時22分各橋梁に併設された多数の照明で視認できた爪木ノ鼻を右舷方に見て航過する,三角点から257度1,600メートルの地点で,針路を345度に定め,機関を半速力前進にかけ,毎時30キロメートルの速力(対地速力,以下同じ。)で,フライングデッキの操縦席に腰掛けて手動操舵で進行した。
 定針したときA受審人は,湖岸から東方に1キロメートルばかり突出した地形の水原洲吠崎を替わすつもりで,前方に点在する灯火を目安にし,それらの内で最東端にあたる新田地区の灯火を左舷船首方に見て続航したところ,同灯火から東方に灯火のない低地がさらに約300メートル延びており,同低地に向かうこととなったが,湖岸の地形と灯火の状況についての水路調査を十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま進行中,21時25分カネコメは,三角点から296度2,090メートルの地点において,原針路,原速力のまま,水原洲吠崎南岸に築かれている護岸に衝突した。
 当時,天候は晴で風力4の北東風が吹き,視程は約5キロメートルであった。
 衝突の結果,護岸に損傷はなかったが,カネコメは,船首材及び船首外板を破損し,A受審人が左手挫傷を負ったほか同乗者10人が肋骨骨折等で負傷した。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,幼児や小学生4人を含む12人を同乗させたこと
2 船長A受審人が,夜間航行の経験が乏しかったこと
3 水原洲吠崎先端部には灯火がなかったこと
4 A受審人が,事故発生地点付近を車で昼間通ることが多く,地形について地図を見る必要を感じていなかったこと
5 A受審人が,湖岸の地形と灯火の状況についての水路調査を十分に行わなかったこと
6 A受審人が,毎時30キロメートルの速力で進行したこと

(原因の考察)
 船長が,湖岸の地形と灯火の状況についての水路調査を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 船長が,幼児や小学生4人を含む12人を同乗させたこと及び毎時30キロメートルの速力で進行したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 船長が,夜間航行の経験が乏しかったこと及び事故発生地点付近を車で昼間通ることが多く,地形について地図を見る必要を感じていなかったこと,並びに水原洲吠崎先端部には灯火がなかったことは,いずれも本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件護岸衝突は,夜間,航路標識の設置されていない北浦南部を航行するに当たり,湖岸の地形と灯火の状況についての水路調査が不十分で,水原洲吠崎東端の灯火のない低地に向け進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,花火大会見物の目的で,夜間,航路標識の設置されていない北浦南部を航行する場合,夜間航行については,その経験が乏しく単独で行うのは初めてであったから,国土地理院発行の地形図や道路地図を参照しながら灯火を実際に視認するなど,湖岸の地形と灯火の状況についての水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,以前の記憶を頼りに航行すれば無難に航行できると思い,湖岸の地形と灯火の状況についての水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,水原洲吠崎東端の灯火のない低地に向け進行して護岸との衝突を招き,カネコメの船首材及び船首外板を破損し,自身及び同乗者が負傷する事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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