(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月11日14時50分
千葉県御宿漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第一とし丸 |
総トン数 |
0.6トン |
登録長 |
6.10メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
3 事実の経過
第一とし丸(以下「とし丸」という。)は,昭和59年9月に進水し,専ら御宿漁港周辺で採介藻漁業に従事するFRP製漁船で,昭和49年12月に一級小型船舶操縦士免許を取得して平成16年6月に一級小型船舶操縦士と特殊小型船舶操縦士免許に更新したA受審人及び同人の妻が乗り組み,えび及びさざえ採取の目的で,船首0.25メートル船尾0.40メートルの喫水をもって,平成16年10月11日14時48分千葉県御宿漁港の船揚場を発し,同港沖合の漁場に出航した。
A受審人は,船外機のスロットルを兼ねたチラー(以下「チラー」という。)の補助舵柄として,水道管用プラスチックパイプ(以下「パイプ」という。)で長さ25センチメートル(以下「センチ」という。)内径約4センチのものを同チラーに差し込み,他端に長さ70センチの木製棒を取り付けていたが,経年劣化することからほぼ3年ごとにパイプ部分を新替していた。
ところで,御宿漁港は,太平洋に面した幅約26メートルの港口が東に開き,港口の北方に,北,正面,東の各防波堤が,南方に南防波堤がそれぞれ築堤され,南防波堤の北端に御宿港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)が設置されていた。防波堤と陸岸に囲まれた泊地は,港口至近の給油施設のある岸壁を境にして北と南に分けられ,北側の泊地は南北約106メートル東西約64メートルあり,同泊地に面した岸壁に漁業協同組合の施設及びそれに隣接して船揚場が設けられていた。
A受審人は,出航する際,それまで約4箇月間の病気治療で出漁していなかったものの,補助舵柄のパイプが前回の新替から長期間経過し,その経年劣化が進行していたが,まだ使用できるものと思い,目視するなどして同舵柄に対する点検を十分に行わなかったので,パイプに生じたひび割れに気付かないまま,前示船揚場からとし丸を海上に降ろし,惰性で進行したのち,14時49分半機関を始動して港口に向かい,14時50分少し前南防波堤灯台から356度(真方位,以下同じ。)112メートルの地点で,針路を205度に定め,機関を半速力前進にかけ,6.0ノットの対地速力で,船外機のチラーを握り進行した。
A受審人は,14時50分わずか前給油施設のある岸壁が右舷側15メートルほどとなったとき,補助舵柄を船外機のチラーに差し込んだところ,差し込んだ部分のパイプ端がひび割れにより欠損して同舵柄がチラーから外れ,船体が急旋回し,14時50分南防波堤灯台から335度90メートルの地点において,とし丸は,船首が290度を向いたとき,原速力のまま,岸壁に直角に衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の末期であった。
その結果,船首部に圧壊を生じたが,のち修理され,船尾を向いて座っていたA受審人の妻が両足関節を骨折した。
(原因)
本件岸壁衝突は,千葉県御宿漁港を出航する際,チラーの補助舵柄に対する点検が不十分で,港内航行中に補助舵柄が欠損して外れ,岸壁に向け急旋回したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,千葉県御宿漁港を出航する場合,補助舵柄の経年劣化によるひび割れ等を見落とすことのないよう,同舵柄に対する点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,まだ使用できるものと思い,補助舵柄を十分に点検しなかった職務上の過失により,パイプに生じたひび割れに気付かないまま,同舵柄により進行して岸壁衝突を招き,船首部を圧壊させ,同人の妻に両足関節の骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。