(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月8日03時07分
名古屋港東航路
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二十五吉祥丸 |
総トン数 |
993トン |
全長 |
80.61メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,059キロワット |
3 事実の経過
第二十五吉祥丸(以下「吉祥丸」という。)は,船尾船橋型廃棄物排出船で,名古屋港木場金岡ふ頭P8バースを基地として廃棄物を積み込み,遠州灘沖合で投棄する業務に従事していたところ,台風避泊の目的で,A受審人ほか6人が乗り組み,汚泥1,740トンを積載し,船首3.5メートル船尾5.5メートルの喫水をもって,平成16年9月7日07時00分同バースを離岸し,07時45分同港検疫錨地の伊勢湾灯標から001度(真方位,以下同じ。)2.1海里の地点に投錨した。
翌8日早朝台風の影響がなくなり,A受審人は,基地に戻ることとし,02時50分船首に一等航海士,二等航海士及び一等機関士を就けて抜錨し,1人で操船にあたり,点灯していた船首作業灯を消し,所定の灯火を表示してP8バースに向かった。
03時00分A受審人は,幅約500メートルで側端に沿い灯標が設置されている東航路にその西側端から入り,名古屋港東航路第3号灯標(以下,灯標の名称については「名古屋港東航路」の冠称を省略する。)から122度70メートルの地点で,針路を045度に定め,徐々に増速しながら平均7.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
定針したときA受審人は,正船首1.2海里に,航路右側端に位置する第6号灯標の灯火を認め,同灯標に近づき航路右側に寄った地点で航路に沿う針路に転じることとし,03時02分半機関を港内全速力前進にかけ,12.0ノットの速力で,同灯標を目標に航路を斜行して続航した。
03時05分A受審人は,航路右側で第6号灯標と740メートルに近づき,周囲の状況を見て予定転針地点に達したことが分かったが,そのころ一等機関士が昇橋して,係留索を準備するので係船機の電源を入れて船首作業灯を再度点灯して欲しい旨を述べたことから,その対応に気をとられ,速やかに転針しないまま進行し,03時07分少し前各スイッチ操作などを終え前方を見たとき,右舷船首至近に第6号灯標の灯火を認め,急ぎ左舵30度をとり,次いでキックを効かせるよう右舵一杯としたが及ばず,03時07分名古屋港高潮防波堤中央堤東灯台から193度1,730メートルの地点において,吉祥丸は,039度に向首したとき,その右舷後部が第6号灯標に衝突した。
当時,天候は曇で風力3の南風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
衝突の結果,吉祥丸は,船橋右舷側壁及び右舷後部船側外板に軽微な擦過傷を生じ,第6号灯標はプラットフォームを曲損し,浮体部に擦過傷を生じたが,のち修理された。
(原因)
本件灯標衝突は,夜間,名古屋港東航路において,航路右側端の灯標を目標に斜行して進行中,予定転針地点で速やかに針路を転じなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,名古屋港東航路において,航路右側端の第6号灯標を目標に,航路右側に寄った地点で航路に沿う針路に転じることとして斜行して進行中,予定転針地点に達した場合,正船首方向に認めていた第6号灯標に衝突することのないよう,速やかに針路を転じるべき注意義務があった。しかるに,同人は,昇橋してきた一等機関士との対応に気をとられ,速やかに針路を転じなかった職務上の過失により,第6号灯標との衝突を招き,吉祥丸の船橋右舷側壁及び右舷後部船側外板に軽微な擦過傷を,第6号灯標のプラットフォームに曲損,浮体部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。