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 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年横審第5号
件名

漁船昭政丸漁船第二高栄丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月15日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西田克史)

理事官
入船のぞみ

受審人
A 職名:昭政丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第二高栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
昭政丸・・・左舷船尾外板に破損,甲板員2人が腰部打撲等の負傷
第二高栄丸・・・左舷船首外板に擦過傷

原因
第二高栄丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
昭政丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第二高栄丸が,見張り不十分で,漂泊中の昭政丸を避けなかったことによって発生したが,昭政丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月30日10時30分
 茨城県大津岬南南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船昭政丸 漁船第二高栄丸
総トン数 12トン 6.6トン
全長 19.87メートル 19.06メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 514キロワット 496キロワット

3 事実の経過
 昭政丸は,小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和49年11月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成16年4月30日03時50分福島県江名港を発し,同港南東方沖合8海里の漁場に向かった。
 ところで,昭政丸の操業は,所定の形象物を表示のうえ,曳網に約2時間,揚網に約20分要するもので,揚網が終われば形象物を一旦降ろしてから,10ないし20分要する次の投網準備と30ないし40分要する漁獲物の選別作業を並行して行ったのち,再び形象物を掲げて曳網を再開するというものであった。
 A受審人は,04時30分目的の漁場に至って1回目の操業を開始し,120メートル等深線に沿うよう南南西方に向かって曳網したのち,西寄りに漁場を移し,08時00分92メートル等深線に沿うよう南南西方に向かって2回目の操業を始めた。
 10時00分A受審人は,大津岬南東方沖合8.8海里付近で曳網を止め,機関を中立運転として漂泊し,10時20分揚網を終えて3回目の操業準備と漁獲物の選別作業に取り掛かり,2人の甲板員を網の用意などにあたらせ,自らは左舷後部甲板で右舷方を向いた姿勢でたこなどの漁獲物の選別作業を始めた。
 10時24分A受審人は,大津岬灯台から146度(真方位,以下同じ。)8.8海里の地点で,船首が208度に向いて漂泊していたとき,左舷船首58度1.0海里のところに,第二高栄丸(以下「高栄丸」という。)を視認でき,その後,同船が自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近したが,漁獲物の選別作業に気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,高栄丸に気付かず,警告信号を行うことも,高栄丸が自船を避けないまま更に間近に接近したとき,機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けた。
 10時30分少し前A受審人は,ふと左舷方を振り返ったとき,至近に迫った高栄丸を初めて視認し,急いで後部甲板に設備された遠隔操縦装置を全速力前進に操作したが及ばず,10時30分前示漂泊地点において,昭政丸は,208度に向首したまま,前進を始めたとき,その左舷船尾部に高栄丸の左舷船首部が前方から58度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の南南東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 また,高栄丸は,機船船びき網漁業に従事するFRP製漁船で,B受審人(昭和49年9月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,おきあみやこうなごの魚群探索の目的で,船首0.2メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,同日04時30分福島県勿来(なこそ)漁港を発し,同漁港北方沖合の漁場に向かった。
 B受審人は,発航後福島県塩屋埼付近まで北上したのち,75メートル等深線に沿うよう南南西方に向かって魚群探索を開始し,10時過ぎ茨城県川尻埼東方沖合まで南下したところで,同探索を終えて帰航することとした。
 B受審人は,操舵室中央の舵輪の前に立って操船にあたり,大きく左転しながら帰航針路を定めようとしたところ,もやがかかって遠方の陸岸が見えなかったので舵輪右斜め下に設置されたGPSプロッタをのぞき込みながら操舵を続けた。
 10時24分B受審人は,大津岬灯台から146度9.8海里の地点で,針路を330度に定め,機関を半速力前進にかけ,10.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針時B受審人は,正船首1.0海里のところに,昭政丸を視認でき,その後,左舷側を見せて漂泊中の同船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近したが,同プロッタを見ることに気を取られ,前路の見張りを十分に行わなかったので,昭政丸に気付かず,同船を避けないまま続航した。
 10時30分少し前B受審人は,自動操舵に切り替えようと顔を上げたところ,船首至近に昭政丸を初めて視認し,急いで機関を全速力後進に操作したが及ばず,高栄丸は,原針路のまま,わずかな前進行きあしとなったとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,昭政丸は,左舷船尾外板に破損,高栄丸は,左舷船首外板に擦過傷をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理され,また,昭政丸甲板員2人が腰部打撲等を負った。

(原因)
 本件衝突は,茨城県大津岬南南東方沖合において,魚群探索を終えて北上中の高栄丸が,見張り不十分で,漂泊中の昭政丸を避けなかったことによって発生したが,昭政丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,茨城県大津岬南南東方沖合において,魚群探索を終えて福島県勿来漁港に帰航のため北上する場合,漂泊中の昭政丸を見落とすことのないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,舵輪右斜め下のGPSプロッタを見ることに気を取られ,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,昭政丸に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,昭政丸の左舷船尾外板に破損,高栄丸の左舷船首外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ,昭政丸甲板員2人に腰部打撲等を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,茨城県大津岬南南東方沖合において,漂泊して漁獲物の選別作業を行う場合,自船に向かって接近する高栄丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,漁獲物の選別作業に気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,高栄丸に気付かず,警告信号を行うことも,更に間近に接近したとき,機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもないまま漂泊を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,自船甲板員2人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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