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平成16年仙審第51号
件名

貨物船鴻洋丸漁船第五十八喜代丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月10日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(勝又三郎,原 清澄,内山欽郎)

理事官
西山烝一

受審人
A 職名:鴻洋丸二等航海士 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:第五十八喜代丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
指定海難関係人
C 職名:第五十八喜代丸漁ろう長

損害
鴻洋丸・・・左舷中央部外板に擦過傷をともなう凹損
第五十八喜代丸・・・船首及びいか釣り機に損傷

原因
第五十八喜代丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
鴻洋丸・・・横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第五十八喜代丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る鴻洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが,鴻洋丸が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月18日12時38分
 新潟県新潟港北方沖合
 (北緯38度03.2分東経139度01.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船鴻洋丸 漁船第五十八喜代丸
総トン数 4,389トン 29トン
全長 114.13メートル  
登録長   21.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,647キロワット 588キロワット
(2)設備及び性能等
ア 鴻洋丸
 鴻洋丸は,昭和63年11月に進水し,専らセメント輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で,沿海区域の航行に定められ,可変ピッチプロペラを装備し,船首端より船橋前面までの距離が約87メートルで,船首楼に前部マストを,コンパスデッキに後部マストを,前部甲板上の中央に荷役用アンローダーを設置していた。
 また,同船は,船橋前面が窓枠により5面に分けられ,2台のテレビ型カラーレーダーを備えていた。
 旋回性能は,主機回転数毎分230,翼角15.5度,速力13.5ノット及びバラストコンデイションの状態で試運転を行い,舵角35度の右旋回の最大縦距が333メートル,90度旋回時の横距が201メートルとなり,左旋回の同縦距が317メートル,同横距が177メートルであった。
イ 第五十八喜代丸
 第五十八喜代丸(以下「喜代丸」という。)は,昭和59年4月に進水し,いか一本釣漁業に従事するFRP製漁船で,船首端より船橋前面までの距離が約13メートルで,船首楼に前部マストを,前部甲板上から後部甲板上にかけて多数の集魚灯といか釣り機をそれぞれ設置し,それらにより船首方の一部に死角を生じていた。
 また,同船は,船橋前面が窓枠により5面に分けられ,レーダー2台を備え,主レーダーにARPA装置が付いており,コンパスブリッジに後部マストを設置していた。
 海上運転試験成績書によれば,速力11.86ノットにおいて,舵角35度の右回頭時の縦・横距の所用時間及び距離は56.0秒と35メートルで,左回頭時の際はそれぞれ57.2秒と35メートルであった。

3 事実の経過
 鴻洋丸は,A受審人ほか10人が乗り組み,バラストタンクに海水2,311トンを漲り,空倉のまま,船首3.12メートル船尾5.25メートルの喫水をもって,平成16年5月18日09時42分新潟県岩船港を発し,福井県敦賀港に向かった。
 11時55分A受審人は,前直者から当直を引き継いだのち,甲板手とともに航海当直に就き,6海里レンジのオフセンターにしたレーダー1台を作動させ,12時00分新潟港東区西防波堤灯台から317度(真方位,以下同じ。)6.1海里の,新潟港沖合4海里ばかりの地点で,針路を244度に定め,機関を全速力前進にかけ,翼角を約13.5度にし,9.1ノットの対地速力(以下「速力」という。)として自動操舵で進行し,このころレーダー画面上の左舷船首方6.0海里付近に新潟港西区方面から出航する多数の漁船の映像を探知した。
 ところで,A受審人は,船橋内に航海当直指針が掲示され,それには当直航海士に対して,「見張りを厳にして絶えず他船の動静に注意し,避航に当たっては早めに大角度の変針を行い機関の使用をためらってはならない。特に漁船,小型船の行動に不審のある場合は,余裕を持って避航するよう心掛けること。」等の指示事項が記載されていることを知っていた。
 12時25分A受審人は,新潟港西区西突堤灯台(以下「西区西突堤灯台」という。)から001度6.5海里の地点に達したころ,左舷船首46度3.1海里付近に多数の漁船が北上しているのを視認し,その後接近するにつれ数隻が自船の船尾方向を替わしていくのを認めたものの,喜代丸が北上を続け,互いに進路を横切る態勢であることに気付いたので,同船の動静を見守りながら,同一針路及び速力で続航した。
 A受審人は,喜代丸が針路を変えずに2.0海里に接近したので手動操舵に切り替え,方位の変化を確かめながら同船に対する動静監視を続け,12時35分少し過ぎ西区西突堤灯台から348度6.0海里の地点に達したとき,喜代丸が左舷船首46度1,000メートルになったので,警告信号を行い,その後前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していたが,同船が他の漁船のように自船の船尾方向を替わすものと思い,翼角をさげて右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとることなく,依然同一針路及び速力で進行した。
 A受審人は,喜代丸が更に自船の進路を避けずに接近してきたので汽笛を吹鳴し,12時38分わずか前翼角を8度に下げ,右舵一杯を取って回頭中,鴻洋丸は,12時38分西区西突堤灯台から343度5.9里の地点において,わずかに右転して247度を向首し,ほぼ原速力のまま,その左舷中央部外板と喜代丸の船首が直角に衝突した。
 当時,天候は曇で風力3の南西風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,視界は良好であった。
 また,喜代丸は,B受審人及びC指定海難関係人ほか2人が乗り組み,いか一本釣漁業の目的で,船首1.00メートル船尾2.60メートルの喫水をもって,2台のレーダーを作動し,同日11時50分新潟港西区の万代ふ頭を発し,佐渡島禅埼北方沖合の漁場に向かった。
 発航時,B受審人は,C指定海難関係人に船長業務を全て任せいたことから,船橋で自ら出港操船の指揮にあたらず,出航後も船首部で見張りを行いながら係留索の整理作業を行い,それらの作業を終えて漁場に向かうにあたり,同指定海難関係人が船橋当直の経験を十分に積んでいるので大丈夫と思い,同指定海難関係人に周囲の見張りを十分に行い,接近する他船を視認したら報告するよう指示することなく,船員室に戻って休息した。
 C指定海難関係人は,僚船約20隻とともに出漁し,自船が漁船群の後方にいることを認め,12時07分半西区西突堤灯台から020度1,680メートルの,第2西防波堤突端を航過した地点で,針路を漁場に向く337度に定め,機関回転数毎分1,200の全速力前進にかけ,10.0ノットの速力として自動操舵で進行した。
 C指定海難関係人は,僚船とともに北上を続け,12時28分ごろ船橋後部で受理したファクッスや水揚げ市況等の書類整理を行うこととし,その際,レーダーで周囲の状況を確認しなかったことと,ARPAが故障中で警報音が鳴らなかったことから,鴻洋丸が右舷船首41度2.3海里のところにいて,その後同船が南西進して自船の前路を左方に横切る態勢になっていることに気付かずに続航した。
 12時35分少し過ぎC指定海難関係人は,西区西突堤灯台から344度5.4海里の地点に達したとき,右舷船首41度1,000メートルになった鴻洋丸を視認することができ,その後同船がその方位にほとんど変化がなく,衝突のおそれのある態勢で接近していたが,依然書類の整理を行っていて右舷船首方向の見張りが不十分となり,このことに気付かずに進行した。
 12時38分わずか前C指定海難関係人は,鴻洋丸が吹鳴する汽笛を聞き,振り返って同船の船首を至近に初認し,機関を後進にかけたものの及ばず,喜代丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 B受審人は,衝撃を感じて衝突したことを知り,昇橋してC指定海難関係人とともに事後の措置にあたった。
 衝突の結果,鴻洋丸は,左舷中央部外板に擦過傷をともなう凹損を,喜代丸は,船首及びいか釣り機に損傷をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 鴻洋丸
 A受審人が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 喜代丸
(1)B受審人が,周囲の見張りを十分に行い,接近する他船を視認したら報告するよう指示しなかったこと
(2)C指定海難関係人が,周囲の見張りを十分に行わず,鴻洋丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かなかったこと
(3)B受審人が,船橋当直者から鴻洋丸が接近していることを報告されなかったこと

(原因の考察)
 本件は,南西進中の鴻洋丸が,早期に衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと,北北西進中の喜代丸が,周囲の見張りを十分に行わず,早期に鴻洋丸を避けなかったこととにより,衝突に至ったものであるからその原因について検討する。
(1)A受審人が,喜代丸が他の漁船と同じように自船の船尾方向を替わすものと思い,早期に翼角をさげて右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは本件発生の原因となる。
(2)B受審人が,無資格者に船橋当直を行わせるにあたり,見張りを十分に行い,接近する他船を視認したら報告するよう指示しなかったので,船橋当直者から報告されず,鴻洋丸を避けることができなかったことは本件発生の原因となる。
(3)C指定海難関係人が,新潟港沖合は東西方向に内航船が航行していることを知っていながら,書類整理等のために周囲の見張りを十分に行わなかったこと。そのために鴻洋丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,B受審人に報告しなかったことは本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,新潟港北方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中,北北西進する喜代丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る鴻洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが,南西進する鴻洋丸が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 喜代丸の運航が適切でなかったのは,船長が無資格者に船橋当直を行わせる際,周囲の見張りを十分に行い,接近する他船を視認したら報告するよう指示しなかったことと,船橋当直者が周囲の見張りを十分に行わず,接近する他船がいることを船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 B受審人は,新潟港北方沖合において,船橋当直を無資格者に行わせる場合,航行する船舶が多いところであるから,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行い,接近する他船を視認したら報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,C指定海難関係人が船橋当直の経験を十分に積んでいるので大丈夫と思い,報告するよう指示しなかった職務上の過失により,鴻洋丸が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,その進路を避けることができずに進行して同船との衝突を招き,鴻洋丸の左舷中央部外板に擦過傷をともなう凹損を,喜代丸の船首部外板を破損及びいか釣り機に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,新潟港北方沖合において,南西進中,前路を右方に横切る喜代丸を視認し,同船が避航しないまま北北西進しているのを認めた場合,翼角をさげて右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,喜代丸が他の漁船と同じように自船の船尾方向を替わすものと思い,衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,喜代丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告
 C指定海難関係人が,新潟港北方沖合を北北西進するにあたり,周囲の見張りを十分に行わず,鴻洋丸が接近していたことに気付かず,船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては,本件後,見張りを十分に行って船橋当直にあたっていることに徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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