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平成16年函審第74号
件名

貨物船津軽丸漁船第五十八真栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月18日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志,岸良 彬,古川隆一)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:津軽丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:第五十八真栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
津軽丸・・・船首部に擦過傷
第五十八真栄丸・・・右舷中央部に亀裂を伴う凹損,鳥居型マストに曲損などの損傷

原因
第五十八真栄丸・・・動静監視不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
津軽丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第五十八真栄丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る津軽丸の進路を避けなかったことによって発生したが,津軽丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月17日02時30分
 北海道浦河港南方沖合
 (北緯42度04.0分 東経142度45.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船津軽丸 漁船第五十八真栄丸
総トン数 498トン 19トン
全長 76.250メートル 22.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 603キロワット
(2)設備及び性能等
ア 津軽丸
 津軽丸は,平成元年5月に進水した船尾船橋型の鋼製貨物船で,レーダー2基及びGPSなどが装備され,主に京浜港と東北地方及び北海道の太平洋沿岸各港間の運航に従事していた。
イ 第五十八真栄丸
 第五十八真栄丸(以下「真栄丸」という。)は,昭和59年11月に進水した鋼製漁船で,船体中央部やや後方に船橋があり,レーダーのほかGPSプロッタ等が装備され,えびかごはえなわ漁業などに従事していた。

3 事実の経過
 津軽丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,とうもろこし1,530トンを積載し,船首3.35メートル船尾4.52メートルの喫水をもって,平成16年6月16日20時00分北海道苫小牧港を発し,同十勝港に向かった。
 ところで,津軽丸では,航海時間が1日を越えない場合の船橋当直を船長と一等航海士とによる単独6時間交替の輪番制とし,本航海時は01時から07時までをA受審人が,07時から13時までを船長が担当することとしていた。
 翌17日00時45分A受審人は,北海道浦河港西方7海里ばかりの地点で船橋当直を船長から引き継ぎ,航行中の動力船が掲げる灯火を表示して東行し,レーダーを作動させたところ,前路に2隻の漁船を認めたので,これらを右転して替わしたのち,02時00分浦河港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から232.5度(真方位,以下同じ。)6.1海里の地点に達したとき,針路を116度に定め,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により進行した。
 定針したときA受審人は,視界が良好であり,前路に他船を認めなかったことからレーダーを停止し,船橋左舷後方のいすに腰を下ろして続航した。
 02時18分半少し過ぎA受審人は,南防波堤灯台から202度5.5海里の地点に至り,左舷船首58度2.0海里のところに真栄丸の掲げる白,緑2灯を視認できる状況であったが,前路に危険となる他船はいないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかったのでこれを認めず,その後真栄丸の方位が変わらないまま,同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かずに進行した。
 こうしてA受審人は,左舷後方に他船の緑灯を認めたものの,依然として真栄丸の接近に気付かず,同船に対して警告信号を行わず,更に接近しても機関を停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航し,02時30分少し前左舷船首方至近に真栄丸の右舷船体を認め,同船に対し投光器を点滅したが,どうすることもできず,津軽丸は,02時30分南防波堤灯台から183.5度5.9海里の地点において,原針路原速力で,船首部が真栄丸の右舷中央部に後方から64度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,視界は良好で潮候は高潮時であった。
 また,真栄丸は,B受審人ほか4人が乗り組み,操業の目的で,船首0.7メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,同月17日01時45分浦河港を発し,同港南方沖合の漁場に向かった。
 01時58分B受審人は,船橋前面及び側面の窓を開け,航行中の動力船が掲げる灯火を表示し,南防波堤灯台から213度0.7海里の地点に達したとき,針路を180度に定め,機関を毎分回転数1,200にかけ10.0ノットの速力で,自動操舵により進行した。
 02時06分少し過ぎB受審人は,南防波堤灯台から190.5度2.0海里の地点で,右舷船首58度4.2海里のところに津軽丸のレーダー映像を認め,一瞥して同映像が陸岸寄りにあったことから漂泊または低速で操業中の漁船と判断してその後気にもとめず,レーダー画面から目を離して船橋左舷側のいすに腰を下ろし,先行する僚船を追って続航した。
 02時18分半少し過ぎB受審人は,南防波堤灯台から185度4.0海里の地点に至り,右舷船首58度2.0海里となった津軽丸のレーダー映像を認めることができるとともに同船の表示する白,白,紅3灯を視認でき,その後同船の方位に変化がなく,津軽丸が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが,依然として漂泊または低速で操業中の漁船なので大丈夫と思い,津軽丸に対する動静監視を十分に行わなかったので,これに気付かず,右転するなど,同船の進路を避けずに進行した。
 こうしてB受審人は,左舷船首方の僚船の灯火を追って続航していたところ,同船が漁場に着いて作業灯を点灯したので,僚船と無線連絡をとろうとしたとき,真栄丸は,原針路原速力で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,津軽丸は,船首部に擦過傷を生じ,真栄丸は,右舷中央部に亀裂を伴う凹損のほか鳥居型マストに曲損などを生じた。

(航法の適用)
 本件は,北海道浦河港南方沖合において,2隻の動力船が互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがあったことから,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 津軽丸
(1)A受審人が,前路の見張りを十分に行っていなかったこと
(2)A受審人が,警告信号を行わなかったこと
(3)A受審人が,真栄丸との衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 真栄丸
(1)B受審人が,レーダーで認めた津軽丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(2)B受審人が,津軽丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 真栄丸は,レーダーで認めた津軽丸に対する動静監視を十分に行っていれば,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近している状況であることが分かり,津軽丸の進路を避けることができたものと認められる。
 したがって,B受審人が,レーダーで認めた津軽丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと及び同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 津軽丸は,前路の見張りを十分に行っていれば,真栄丸の存在に気付き,同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近している状況であることが分かり,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもできたものと認められる。
 したがって,A受審人が,前路の見張りを十分に行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び真栄丸との衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,北海道浦河港南方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,南下する真栄丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る津軽丸の進路を避けなかったことによって発生したが,東行する津軽丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,北海道浦河港南方沖合において,漁場向け南下中,右舷船首方に津軽丸のレーダー映像を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断することができるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,レーダー映像が陸岸寄りにあったことから漂泊または低速で操業中の漁船なので大丈夫と思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,津軽丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったことに気付かず,右転するなど,同船の進路を避けずに進行して衝突を招き,津軽丸の船首部に擦過傷を,真栄丸の右舷中央部に亀裂を伴う凹損のほか鳥居型マストに曲損などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,夜間,北海道浦河港南方沖合において,単独の船橋当直で東行する場合,前路の真栄丸を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,前路に危険となる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する真栄丸に気付かず,警告信号を行うことも,機関を停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとることもなく,真栄丸との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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