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平成16年那審第40号
件名

漁船第一宏福丸漁船栄丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年2月24日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(加藤昌平)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:第一宏福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第一宏福丸・・・船首部に擦過傷
栄丸・・・船体中央部から船尾部にかけての両舷外板を破損,船外機に濡損

原因
第一宏福丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
栄丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第一宏福丸が,見張り不十分で,漂泊中の栄丸を避けなかったことによって発生したが,栄丸が,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月12日07時51分
 沖縄県石垣島白保埼沖

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一宏福丸 漁船栄丸
総トン数 2.21トン 0.83トン
登録長 9.30メートル 6.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 25キロワット 14キロワット

3 事実の経過
(1)第一宏福丸
 第一宏福丸(以下「宏福丸」という。)は,昭和55年6月に進水した一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部やや船尾寄りに機関室を,その船尾側に船室及び後壁のない操舵室を配し,操舵室前部に設けた棚の左舷側に,前面窓にほぼ接してGPSプロッター,中央やや右舷寄りに磁気コンパス,右舷側後端に主機遠隔操作用クラッチ及びスロットルレバーを配置し,同室後部には,いす代わりの板を船横方向に渡し,船尾の舵柱頂部に接続した長さ約1.1メートルの舵柄で操舵を行うものであった。
 操舵室前面の窓は窓枠によって左右に2分割され,右舷側の窓には旋回窓が取り付けられていたが,その船首方の機関室右舷側に煙突が設置されており,前示板に座った姿勢では,旋回窓からの前方視界の一部に死角を生じ,また,航海速力の14ノットで航行すると船首が浮上して死角を生じることから,操舵室天井に開口部を設け,同開口部から顔を出して前方を見れば,死角を補うことができた。
(2)栄丸
 栄丸は,昭和55年1月に進水した一本釣り漁業に従事する一層甲板の和船型FRP製漁船で,船体を白色に塗装し,船尾にセルモータ付船外機を取り付けていた。
(3)本件発生に至る経緯
 宏福丸は,昭和49年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって,平成16年6月12日07時30分沖縄県石垣島登野城漁港を発し,同島東方10海里ばかりの漁場に向かった。
 07時34分A受審人は,石垣港登野城第2防波堤灯台(以下「第2防波堤灯台」という。)から142度(真方位,以下同じ。)0.7海里の地点で,針路を081度に定め,機関を全速力前進にかけて14.0ノットの対地速力で進行した。
 定針したときA受審人は,船首方から波しぶきを受けるようになったので,それまで顔を出して前方を見ていた操舵室天井の開口部を閉め,同開口部から顔を出して前方を一瞥しただけで他船を認めなかったことから,前路に他船はいないものと思い,その後,いす代わりの板にまたがって座った姿勢となって舵柄を操作し,適宜同開口部から顔を出すなどして煙突や浮上した船首による前方の死角を補う見張りを十分に行わなかった。
 07時48分半少し過ぎA受審人は,第2防波堤灯台から090度3.7海里の地点に至り,正船首1,000メートルのところに左舷側を見せた栄丸を視認することのできる状況となったものの,前方の死角を補う見張りを十分に行っていなかったので同船の存在に気付かず,同一針路,速力で続航した。
 07時50分A受審人は,第2防波堤灯台から089.5度4.1海里の地点に達したとき,正船首の栄丸まで430メートルとなり,同船が漂泊中で衝突のおそれがある態勢となって接近していることを認め得る状況であったが,依然,前方の死角を補う見張りを十分に行っていなかったので,これに気付かず,同船を避けることなく進行し,07時51分第2防波堤灯台から089度4.3海里の地点において,原針路,原速力のまま,宏福丸の船首が,前方から87度の角度で栄丸の左舷中央部に衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の北北東風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,付近には東方から寄せる波高約1メートルの波浪があった。
 また,栄丸は,昭和52年7月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって,有効な音響による信号を行うことができる手段を講じないまま,同日06時40分石垣島白保地区の係留地を発し,同島白保埼南方1海里ばかり沖の漁場に向かった。
 07時10分B受審人は,前示衝突地点付近に至り,機関を停止して船首からシーアンカーを投入し,そのロープを6メートルばかり延出して船首に止め,船尾左舷側に腰を下ろして船首方向を向いた姿勢となって手釣りを開始した。
 07時48分半少し過ぎB受審人は,折からの風潮流により船首が348度に向いていたとき,左舷ほぼ正横方向1,000メートルのところに,自船に向首して接近する宏福丸を視認し,同船の動向に注意していたところ,07時50分同船が430メートルとなり,その後も自船を避ける気配のないまま接近することから,衝突のおそれのある態勢であることを認めたが,漂泊開始後,石垣港から出航してきた2隻の船が距離を離して無難に航過していたことから,いずれ宏福丸も自船を避けるものと思い,船外機を始動して移動するなど,衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続け,07時51分わずか前,目前に迫った宏福丸に衝突の危険を感じ,手を挙げて振りながら大声で合図したが,効なく,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,宏福丸は船首部に擦過傷を生じ,栄丸は衝突の衝撃で転覆し,船体中央部から船尾部にかけての両舷外板を破損し船外機に濡損を生じたが,来援した宏福丸の僚船により近くの石垣島宮良地区船溜まりに曳航され,のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は,沖縄県石垣島白保埼沖において,宏福丸が漁場に向けて航行する際,前路の見張りが不十分で,漂泊中の栄丸を避けなかったことによって発生したが,栄丸が,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,石垣島白保埼沖において,漁場に向けて航行する場合,操舵室前方には煙突があったうえに船首が浮上して前方に死角を生じていたから,前路で漂泊中の栄丸を見落とすことのないよう,適宜操舵室天井に設けた開口部から顔を出すなどして前方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,定針したとき同開口部から顔を出して前方を一瞥しただけで他船を認めなかったことから,前路に他船はいないものと思い,前方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漂泊中の栄丸に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,自船の船首部に擦過傷を,栄丸を転覆させて船体中央部から船尾部にかけての両舷外板を破損し船外機に濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,石垣島白保埼沖において,漂泊して操業中,自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する宏福丸を認めた場合,自船は有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていなかったから,船外機を始動して移動するなど,衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,その前に2隻の船が距離を離して無難に航過していたことから,いずれ宏福丸も自船を避けるものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,宏福丸との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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