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平成16年門審第89号
件名

貨物船第二龍王丸押船大豊山丸被押バージ大豊山丸1号衝突事件
第二審請求者〔補佐人 B,D〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年2月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治,寺戸和夫,上田英夫)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第二龍王丸船長 海技免許:三級海技士(航海
補佐人
B
受審人
C 職名:大豊山丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
補佐人
D

損害
第二龍王丸・・・右舷中央部に破口等
大豊山丸1号・・・船首部に凹損等の損傷

原因
第二龍王丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
大豊山丸・・・警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第二龍王丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る大豊山丸被押バージ大豊山丸1号の進路を避けなかったことによって発生したが,大豊山丸被押バージ大豊山丸1号が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月5日16時25分
 大分県津久見港
 (北緯33度05.2分 東経131度52.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第二龍王丸  
総トン数 1,396トン  
全長 80.83メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,471キロワット  
船種船名 押船大豊山丸 バージ大豊山丸1号
総トン数 225トン 4,176トン
全長 29.50メートル 101.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 2,647キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第二龍王丸
 第二龍王丸(以下「龍王丸」という。)は,平成3年3月に進水し,可変ピッチプロペラを装備した鋼製船首尾楼付一層甲板船尾船橋型セメント運搬専用船で,主に津久見港及び山口県徳山下松港で載貨し,国内各港で揚貨する運航形態であった。
 同船は,海上試運転成績書(船体部)によれば,全速力前進中の最短停止距離452メートル,停止時間2分4秒,旋回縦距,横距共に約200メートルで,船橋から前方に死角はなく,船首方の見通しは良好であった。また,エアーホーンを1個装備していた。
イ 大豊山丸
 大豊山丸は,昭和63年12月に進水し,固定ピッチのコルトノズル型推進器を2個装備した,船首楼付一層甲板型鋼製押船で,その船首部を大豊山丸1号の船尾凹部に油圧シリンダーにより嵌合して全長120メートルの押船列(以下「大豊山丸押船列」という。)を構成し,専ら津久見港と徳山下松港との間で,石灰石の運搬に従事していた。
 同船は,大豊山丸1号が貨物を積載しているとき,船橋から前方に死角はなく,船首方の見通しは良好で,エアーホーン1個を装備していた。
ウ 大豊山丸1号
 大豊山丸1号は,可変ピッチ型バウスラスタを1個装備した,載貨重量8,000トンの石灰石運搬用鋼製バージで,居住設備はなく,常時,大豊山丸押船列として運航されていた。

3 事実の経過
 龍王丸は,A受審人ほか8人が乗り組み,空倉のまま,船首1.8メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,平成16年3月4日13時42分境港を発し,津久見港に向かい,翌5日15時30分津久見港千怒A防波堤灯台(以下「A防波堤灯台」という。)から295度(真方位,以下同じ。)850メートルの地点において,積荷役時間調整のため投錨待機した後,16時15分抜錨し,港奥のセメント専用桟橋に向かった。
 A受審人は,抜錨時から船橋において単独で操船の指揮をとっていたところ,揚錨少し前に昇橋した二等航海士を手動操舵に就け,推進器の翼角を徐々に上げ,16時18分A防波堤灯台から285度870メートルの地点で,針路を240度に定め,機関を翼角10.5度の港内全速力前進に上げ,横浦埼の南南西方にあたる右舷船首15度700メートルばかりのところに錨泊船1隻を認めたが,少し前から便意を催していたことから,今のうちなら二等航海士に操船を任せても大丈夫と思い,用を足すため,同航海士に任せて降橋した。
 16時22分受審人は,A防波堤灯台から275度1,070メートルの地点で昇橋したとき,右舷船首25度800メートルばかりのところに前路を左方に横切る態勢で出航中の大豊山丸押船列が存在し,その後,同押船列がコンパス方位に明確な変化がなく衝突のおそれがある態勢で接近していたが,港奥のセメント専用桟橋から発航して前路を東行中の僚船(以下「第三船」という。)の動向に気を奪われて,周囲の見張りを十分に行わなかったので,同押船列に気付かず,減速するなどして同押船列の進路を避けることなく同じ針路,速力約5ノット(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 16時23分少し前A受審人は,A防波堤灯台から272度1,170メートルの地点に至ったとき,大豊山丸押船列が同方位600メートルばかりに接近したとき,同押船列を初認したが,なんとか替わるだろうと思い,速やかに減速することなく,同時23分短音2回を吹鳴して同押船列の動向を監視して続航した。
 16 時23分半A受審人は,速力が約8ノットになったとき,衝突の危険を感じ,短音3回を吹鳴するとともに翼角を全速力後進としたが,行きあしが思ったほど落ちなかったので,大豊山丸押船列の前路を替わすつもりで,同時24分左舵一杯,港内全速力前進にしたが及ばず,16時25分A防波堤灯台から264度1,440メートルの地点において,龍王丸は,約5ノットの速力で180度を向首したとき,その右舷中央部に大豊山丸押船列の大豊山丸1号の船首部が後方から70度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の南風が吹き,視界は良好で,潮候は上げ潮の中央期であった。
 また,大豊山丸は,C受審人ほか6人が乗り組み,石灰石8,600トンを積載し,船首7.12メートル船尾7.42メートルの喫水となった大豊山丸1号と大豊山丸押船列を構成して,船首2.70メートル船尾4.00メートルの喫水をもって,同5日16時10分津久見港港奥の石灰石専用桟橋を発し,徳山下松港に向かった。
 C受審人は,発航時から操船に当たり,16時18分A防波堤灯台から274度2,280メートルの地点で,次席一等航海士を手動操舵に就け,針路を110度に定め,機関を微速力前進にかけて3.0ノットの速力で進行した。
 定針する少し前C受審人は,横浦埼の東方沖に入航態勢をとっている龍王丸を認め,更に,定針時,左舷船首方に横浦埼南南西方の錨泊船及びセメント専用桟橋沖に出航中の第三船を認め,龍王丸の動向を監視しながら続航し,16時22分A防波堤灯台から271度1,930メートルの地点に達し,機関を半速力前進にかけ5.0ノットに増速したとき,同船が前路を右方に横切る態勢で左舷船首25度800メートルばかりに近づき,その後,同船がコンパス方位に明確な変化がなく衝突のおそれがある態勢で接近していたが,同船が避航するものと思い,警告信号を行うことなく,更に,機関を後進にかけるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
 C受審人は,16時23分龍王丸の発した短音2回を聴き,衝突の危険を感じ,機関を全速力後進にかけたが及ばず,大豊山丸押船列は約2ノットの速力で,原針路のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,龍王丸は,右舷中央部に破口等を生じ,大豊山丸押船列は大豊山丸1号の船首部に凹損等を生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は,港則法適用港である津久見港域内において発生したものであるが,同法には本件に適用すべき航法規定がないので,海上衝突予防法によって律することになる。
 龍王丸と大豊山丸押船列は,互いに進路を横切る態勢で航行しており,衝突前,一定針路としていたが,龍王丸は増速中であり一定速力となっていなかったものであるが,16時22分から両船が互いにコンパス方位に明確な変化なく接近していた状況であり,また,付近に錨泊船と第三船が存在したものの,龍王丸と大豊山丸押船列の両船は,時間的,距離的及び水域的な諸条件を勘案した場合,避航動作及び衝突を避けるための協力動作をとることができ得る状況であったから,海上衝突予防法第15条を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 龍王丸
(1)抜錨後,A受審人が用便のため一時降橋したこと
(2)用便後,A受審人が昇橋したとき,大豊山丸押船列に気付かなかったこと
(3)A受審人が,大豊山丸押船列初認後,速やかに同押船列の進路を避ける動作をとらなかったこと

2 大豊山丸押船列
(1)C受審人が,龍王丸が右転して避航すると思って,警告信号を行わなかったこと
(2)C受審人が,協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
1 龍王丸
 A受審人が,用便後昇橋したとき,右舷船首25度800メートルばかりのところに大豊山丸押船列を視認できる状況であり,このとき同押船列を視認していたなら,その後動静監視を行うことで,同押船列が衝突のおそれがある態勢で接近することが分かり,機関を後進にかけるなどの避航動作をとることができ本件衝突を回避できたと認められる。したがって,A受審人が,見張り不十分で,早期に同押船列の存在に気付かず,そのまま進行して同押船列の進路を避ける動作が遅れたことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,抜錨後,用便のため一時的に降橋したことは,大豊山丸押船列の初認が遅れたことに関与したと認められるものの,再昇橋時,十分な見張りを行っていれば,同押船列を視認できたものであることから,本件衝突に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

2 大豊山丸押船列
 C受審人は,龍王丸が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたとき,速やかに警告信号を行い,更に接近するに及んで協力動作をとっていれば本件衝突を回避できたと認められる。したがって,同人が,龍王丸が右転して避航すると思い,警告信号を行わず,最善の協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,津久見港内において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,龍王丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る大豊山丸押船列の進路を避けなかったことによって発生したが,大豊山丸押船列が,警告信号を行わず,衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,津久見港内において,入航する場合,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する大豊山丸押船列を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,第三船の動向に気を奪われ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,同押船列に気付くのが遅れ,同押船列の進路を避けずに進行して衝突を招き,龍王丸の右舷中央部に破口等を,大豊山丸押船列の大豊山丸1号の船首部に凹損等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は,津久見港内において,出航中,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する龍王丸を認めた場合,機関を後進にかけるなど衝突を避けるための最善の協力動作をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,同船が避航すると思い,機関を後進にかけるなど衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかった職務上の過失により,衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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