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平成16年門審第110号
件名

漁船福生丸モーターボートいとう丸II衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年2月24日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:福生丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:いとう丸II船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
福生丸・・・船首ステムに擦過傷
いとう丸II・・・右舷後部舷側及び船底に亀裂,キャビン床,後部甲板及び右舷船首部舷側に亀裂,船長が頭部及び腰部打撲など3週間の加療を要する負傷

原因
福生丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
いとう丸II・・・音響信号不履行,動静監視不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,福生丸が,見張り不十分で,漂泊中のいとう丸IIを避けなかったことによって発生したが,いとう丸IIが,有効な音響信号を行うことができる手段を講じず,かつ,動静監視不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月30日15時35分
 福岡県姫島北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船福生丸 モーターボートいとう丸II
総トン数 5.3トン  
全長   6.0メートル
登録長 12.10メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   44キロワット
漁船法馬力数 70  

3 事実の経過
 福生丸は,操舵室を船体中央やや後部に設けたFRP製漁船で,昭和50年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が単独で乗り組み,いか樽流し漁を行う目的で,平成16年4月30日02時00分福岡県福吉漁港を発し,04時30分同県小呂島北北西方沖合の漁場に至って操業に従事し,活いか約30キログラムを漁獲し,船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,帰途に就くこととした。
 13時10分A受審人は,小呂島灯台から332度(真方位,以下同じ。)12.7海里の漁場を発進し,針路を165度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,操舵室左舷側に設置したいすに腰掛け,右手で舵輪を握って手動操舵によって進行した。
 ところで,A受審人は,福生丸が約12ノットで航行すると船首が浮上し,同いすに腰掛けた姿勢で前方を望んだとき,同位置における船首尾線に対して左舷側に約6度,右舷側に約19度の範囲でそれぞれ水平線が見えなくなる死角を生じるので,平素,時折船首を左右に振る操舵をして同死角を補う見張りを行っていた。
 15時32分少し前A受審人は,筑前ノー瀬灯標から326度2.3海里の地点に達したとき,ほぼ正船首方1,150メートルのところに船首を西南西方に向けた,いとう丸II(以下「いとう丸」という。)を視認でき,その後同船の方位に明確な変化がなく,衝突のおそれがある態勢で接近したが,姫島と福岡県仏埼との間の水路付近においては,釣船が仏埼側寄りに多く集まる傾向があるから水路の中央部には釣船などはいないと思い,船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを行っていなかったので,いとう丸の存在も,また,同船に衝突のおそれある態勢で接近していることにも気付かなかった。
 15時33分半A受審人は,筑前ノー瀬灯標から323度2.0海里の地点に達したとき,いとう丸の方位に変化のないまま550メートルまで接近し,同船が漂泊していることが分かり,衝突の危険があったが,依然として船首死角を補う見張りを行っていなかったので,このことに気付かず,同船を避けずに,同じ針路及び速力のまま進行し,15時35分筑前ノー瀬灯標から319度1.73海里の地点において,福生丸は,原針路,原速力のまま,その船首がいとう丸の右舷後部に90度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はなく,上げ潮の中央期で,付近には微弱な北東流があった。
 また,いとう丸は,船外機を備えたFRP製モーターボートで,船体中央部にキャビン,その後端右舷寄りの外側に操縦ハンドルと機関遠隔操縦レバーが備えられており,昭和60年10月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が単独で乗り組み,魚釣りの目的で,船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,同日10時00分福岡県岐志漁港を発し,同時20分姫島北東方沖合の釣場に至って,機関を停止し,船首からシーアンカーを投入し,漂泊して魚釣りを開始した。
 ところで,B受審人は,発航するにあたって,いとう丸に有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていなかった。
 いとう丸が投入していたシーアンカーは,横1.0メートル縦1.8メートルの合成繊維製布地の四隅に長さ2メートルの合成繊維製ロープをそれぞれ取り付けたもので,4本の同ロープを長さ8メートルのアンカー索の端に束にしてシャックルで繋ぎ,同索の一方の端を輪にして船首部のクリートにかぶせて係止されていた。そして,同アンカーの上端にフロート付きのロープが取り付けられ,同上端の水深が約6メートルとなるように調整されていた。
 B受審人は,当時微弱な北東の潮流があったことから,南西方に潮のぼりしてはシーアンカーを入れ,1時間ばかり漂泊して釣りを行うことを繰り返しており,15時05分筑前ノー瀬灯標から314度1.73海里の地点で,船首を南西方に向け,前示方法でシーアンカーを投入して釣りを再開し,船尾右舷側のバッテリー区画のかぶせ蓋の上に前向きの姿勢で腰掛け,右手に釣糸を持って手釣りを行っていたところ,同時32分少し前,前示衝突地点付近まで流され,船首が255度を向いていたとき,右舷正横方向1,150メートルのところに来航する福生丸を認め得る状況となったが,釣りに夢中になっていて同船を見落としていた。
 15時33分半B受審人は,福生丸が同方位550メートルまで接近したとき,同船を初めて視認し,その後同船が方位に変化なく衝突のおそれがある態勢で接近したが,相手船の方が漂泊中の自船を避けて行くものと思い,動静監視を行わなかったので,このことに気付かず,音響信号不装備で,避航を促す音響信号を行わず,更に接近しても機関を始動して前進するなど,衝突を避けるための措置をとることなく漂泊中,同時35分わずか前右舷方至近に迫った福生丸を認め,大声で叫んで呼子笛による1声を吹鳴し,続いて機関を始動して前進にかけたが及ばず,わずかばかり前進したところで,船首が255度を向いたまま,前示のとおり,衝突した。
 衝突の結果,福生丸は船首ステムに擦過傷を,いとう丸は右舷後部舷側及び船底に破口を含む亀裂,キャビン床,後部甲板及び右舷船首部舷側に亀裂をそれぞれ生じて水船となり,福生丸によって岐志漁港に引き付けられたが,のち売船され,B受審人が頭部及び腰部打撲などの3週間の加療を要する傷を負った。

(原因)
 本件衝突は,福岡県姫島北東方沖合において,漁場から帰航中の福生丸が,見張り不十分で,前路で漂泊中のいとう丸を避けなかったことによって発生したが,いとう丸が,有効な音響信号を行うことができる手段を講じず,かつ,動静監視不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,福岡県姫島北東方沖合を漁場から帰航する場合,船首浮上により前方に死角を生じていたから,前路の他船を見落とさないよう,船首を左右に振るなりして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,姫島と仏埼との間の水路付近においては,釣船が仏埼側寄りに多く集まる傾向があるから水路の中央部には釣船などはいないと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漂泊中のいとう丸に衝突のおそれある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,福生丸の船首ステムに擦過傷を,いとう丸の右舷後部舷側及び船底に破口を含む亀裂,キャビン床,後部甲板及び右舷船首部舷側に亀裂をそれぞれ生じさせ,同船を水船とし,B受審人に頭部及び腰部打撲などの3週間の加療を要する傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,福岡県姫島北東方沖合において,魚釣りを行いながら漂泊中,来航する福生丸を認めた場合,衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,相手船の方が漂泊中の自船を避けて行くものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれある態勢で接近する福生丸に気付かず,音響信号不装備で避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,自らが負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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