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平成16年門審第118号
件名

漁船第二八大盛丸モーターボートリナ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年2月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦,長谷川峯清,寺戸和夫)

理事官
半間俊士

受審人
A 職名:第二八大盛丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:リナ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第二八大盛丸・・・推進器翼曲損等
リナ・・・上部構造物を大破して全損,釣り仲間の1人が顔面打撲傷等の負傷

原因
第二八大盛丸・・・見張り不十分, 船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
リナ・・・見張り不十分,注意喚起信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第二八大盛丸が,見張り不十分で,錨泊中のリナを避けなかったことによって発生したが,リナが,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月15日07時30分
 錦江湾北部
 (北緯31度42.0分 東経130度44.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第二八大盛丸 モーターボートリナ
総トン数 4.3トン 1.8トン
全長 12.27メートル 7.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 281キロワット 52キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第二八大盛丸
 第二八大盛丸(以下「大盛丸」という。)は,平成15年3月に進水した,FRP製漁船で,灯船として小型まき網漁業に従事する,船体中央部やや後方に機関室を,同室上部に操舵室を有する構造で,同室中央に舵輪を,同室前部にレーダー,魚群探知機,GPSプロッター,磁気コンパス,機関遠隔操縦ハンドルをそれぞれ備えていた。そして,13ノットから23ノットの速力で航行すると,船首浮上により,操縦者が舵輪右後方のいすに腰を掛けた状態では,左舷側に15度右舷側に10度の範囲で,水平線が見えなくなる死角を生じていた。
イ リナ
 リナは,平成9年11月に進水した最大搭載人員8人のFRP製プレジャーモーターボートで,船体中央やや前方に操縦室を,船体後部に機関室を有する構造で,操縦室右舷側に舵輪及び機関の遠隔操縦ハンドルを備え,航海計器として磁気コンパス,GPS及び魚群探知機が装備されていた。

3 事実の経過
 大盛丸は,A受審人が1人で乗り組み,2そうまき網漁業の灯船として操業に従事する目的で,船首0.35メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年3月14日22時00分鹿児島県隼人港を発し,網船を含む僚船5隻とともに同港南方の漁場に向かい,同時10分ごろ操業を開始した。
 A受審人は,翌15日06時ごろ操業を終えて帰港しようとしたところ,眠気を覚えたので,辺田小島124メートル頂(以下「辺田小島頂」という。)から113度(真方位,以下同じ。)2.6海里の地点で,錨泊して仮眠をとり,07時20分ごろ同島東側に設置されたいけす付近で待機していた網船から,かつお漁船がいけすに着いたとの無線連絡を受けて目覚め,抜錨して周囲を一瞥したのち,同時26分同いけすに向かって発進した。
 発進後,A受審人は,針路を287度に定め,機関を全速力前進に掛けると28ノットのところ,20.0ノットの対地速力とし,船首方に死角を生じた状態で,舵輪右後方のいすに腰を掛け,目視で見張りを行い,手動操舵で進行した。
 ところで,A受審人は,平素,船首浮上により船首方に死角を生じることを知っていたので,時々,船首を左右に振ってその死角を補う見張りを行っていた。
 07時28分半A受審人は,辺田小島頂から117度1.8海里の地点に達したとき,正船首930メートルのところに,船首を北方に向けて停止状態にあるリナを視認することができる状況であったが,発進時に周囲を一瞥したとき,同島までの間に小型船などを認めなかったことから,前路に他船はいないものと思い,船首を左右に振るなどして,船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので,リナの存在にも,その後,同船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かず,右舷前方の天降川河口で操業中の底引き網漁船やいけすに着舷している漁船を見ながら舵輪右後方のいすに腰を掛けたまま続航した。
 A受審人は,07時29分少し過ぎ正船首方のリナに500メートルまで接近したとき,同船が黒色球形形象物(以下「黒球」という。)を掲げていなかったものの,船首を風上に向けて移動していないことや,船首から海中に伸びている錨索らしきロープを視認することができることから,同船が錨泊していることが分かる状況であったが,依然として死角を補う見張りを十分に行わなかったので,前路でリナが錨泊していることに気付かず,右転するなどして同船を避けることなく進行した。
 大盛丸は,同じ針路及び速力で続航中,07時30分辺田小島頂から119度1.2海里の地点において,その船首がリナの右舷前部に後方から73度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,視界は良好で,潮候は下げ潮の末期であった。
 また,リナは,B受審人が1人で乗り組み,釣り仲間2人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.25メートル船尾0.40メートルの喫水をもって,同月15日07時00分隼人港を発し,同港南方沖合の釣り場に向かった。
 ところで,B受審人は,発航するにあたって,リナに有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていなかった。
 B受審人は,07時15分水深約80メートルの前示衝突地点付近に至って船首から錨を投入し,錨索を150メートルばかり延出して機関を停止し,通常船舶が航行する水域であったが,黒球を掲げないまま,折からの北風により船首を北方に向けた態勢で錨泊し,釣りの準備を始めた。
 07時28分半B受審人は,リナが000度を向首していたとき,右舷船尾73度930メートルのところに,来航する大盛丸を視認でき,その後,同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,左舷側後部に腰をおろして左舷方を向き,釣りの準備をすることに夢中になっていて,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
 B受審人は,07時29分少し過ぎ大盛丸が避航の気配を見せないまま,500メートルまで接近したが,依然,見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,音響信号設備の不装備で,注意喚起信号を行わず,更に接近したとき,同乗者からの知らせで,右舷方至近に同船を初めて認めたものの,機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとらなかった。
 リナは,000度に向いて錨泊中,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,大盛丸は推進器翼曲損等を生じたが,のち,修理され,リナは上部構造物を大破して全損となり,釣り仲間の1人が顔面打撲傷等を負った。

(航法の適用)
 本件は,錦江湾北部において,航行中の大盛丸と黒球を掲げずに錨泊中のリナとが衝突したものであり,同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
 海上衝突予防法上,航行中の船舶と錨泊中の船舶との関係について個別に規定した条文はないから,同法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 大盛丸
(1)死角を生じていたこと
(2)A受審人が,死角を補う見張りを行わなかったこと
(3)A受審人が,リナを避けなかったこと

2 リナ
(1)B受審人が,有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていなかったこと
(2)B受審人が,通常船舶が航行する水域で黒球を掲げないまま錨泊していたこと
(3)B受審人が,周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(4)B受審人が,注意喚起信号を行わなかったこと
(5)B受審人が,衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 大盛丸が,適切な見張りを行っていたなら,リナを早期に視認でき,余裕のある時機に同船を避けることができたのであるから,A受審人が,死角を補う見張りを十分に行わなかったこと及び同船を避けなかったことは原因となる。
 死角を生じていたことは,本件発生にいたる過程で関与した事実であるが,船首を左右に振ることなどでその死角を補う見張りができたのであるから本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。
 リナが,適切な見張りを行っていたなら,自船に向かって接近する大盛丸を早期に視認でき,その後,避航の気配がないまま接近する同船に対し,注意喚起信号を行い,更に接近したとき,機関を使用して移動するなどしていたなら,本件は発生していなかったものと認められる。従って,B受審人が,周囲の見張りを十分に行わなかったこと,音響信号を行うことができる手段を講じていなかったこと,注意喚起信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことはいずれも原因となる。
 リナが,通常船舶が航行する水域で,黒球を掲げないまま錨泊していたことは,大盛丸が衝突時までリナを視認していなかったのであるから,黒球の不表示と本件発生との間に相当な因果関係があるとは認められない。しかし,このことは,海難防止の観点から,是正すべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,錦江湾北部において,大盛丸が,かつお漁船がいけすに着いたとの無線連絡を受け,いけすに向けて航行する際,見張り不十分で,前路で黒球を掲げずに錨泊中のリナを避けなかったことによって発生したが,リナが,有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていなかったばかりか,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,錦江湾北部において,かつお漁船がいけすに着いたとの無線連絡を受け,いけすに向けて航行する場合,20ノットの速力で航行すると,船首方に死角を生じることを知っていたのであるから,前路で錨泊しているリナを見落とすことのないよう,船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,発進時に周囲を一瞥したとき,辺田小島までの間には小型船などを認めなかったことから,前路に他船はいないものと思い,船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で錨泊しているリナに気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,自船の推進器翼曲損等を生じさせ,リナの上部構造物を大破させて全損とし,同船の同乗者1人に顔面打撲傷等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,錦江湾北部において,魚釣りの目的で錨泊する場合,自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近する大盛丸を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷船尾で左舷方を向き,釣りの準備に夢中になり,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する大盛丸に気付かず,機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらずに錨泊を続けて同船との衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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