(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年5月23日04時28分
福岡県玄界島北方沖合
(北緯33度48.2分 東経130度09.4分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船満応丸 |
貨物船メタン |
総トン数 |
14トン |
4,450トン |
全長 |
19.90メートル |
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登録長 |
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100.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
3,690キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 満応丸
満応丸は,平成3年12月に進水したひき網漁業に従事するFRP製漁船で,船体のほぼ中央部に操舵室を有し,同室には,中央に舵輪を備え,前面窓の下方に設けられた計器台には右舷側にレーダー,中央にデッカ,左舷側にGPSプロッタ及び機関の遠隔操作レバーがそれぞれ設置されていた。
イ メタン
メタンは,1999年に竣工した船尾船橋型の鋼製貨物船で,操舵室には,操舵スタンド,アルパ機能付きレーダー2台及びGPSなどが装備されていた。
3 事実の経過
満応丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首1.0メートル船尾2.1メートルの喫水をもって,平成16年5月23日03時45分福岡県西浦漁港を発し,従船とともに沖ノ島南方の漁場に向かった。
発航時にA受審人は,法定の灯火を表示するとともに,甲板を照射する目的で,笠付き白色作業灯をマスト灯下方に1個並びに白色照明灯を操舵室前壁前に2個,同室右舷壁に1個及び同左舷壁に2個をそれぞれ点灯していた。
A受審人は,2人の甲板員に船員室で休息をとらせ,発航操船に引き続いて単独の船橋当直に就き,04時01分長間礁灯標から112度(真方位,以下同じ。)1.7海里の地点に至って,針路を目的の漁場に向く350度に定め,機関を全速力前進にかけ,15.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,同じく西浦漁港を発して漁場に向け北上する20隻ばかりの同業船の一団の先頭付近に位置しながら,レーダーを1.5海里レンジとして作動させ,自動操舵により北上した。
04時21分A受審人は,栗ノ上礁灯標から252度5.2海里の地点に至ったとき,右舷船首31度2.8海里のところに,西行するメタンの紅1灯を初認したが,一瞥して速力の速い内航貨物船のように見えたことから,自船の前路を無難に替わるものと思い,その後,同業船の仕向け漁場が気になり,横方向の各船の様子を見ながら進行した。
04時23分A受審人は,栗ノ上礁灯標から258度5.2海里の地点に差し掛かったとき,右舷船首31度2.0海里のところに,前路を左方に横切る態勢のメタンの白,白,紅3灯を視認でき,その後その方位が変わらず,同船と衝突のおそれのある態勢で互いに接近することが分かる状況となったが,自船の前路を無難に替わるものと思っていたことから,同船の灯火の状況や方位の変化を確認したり,レーダーのレンジを切り替えて監視するなど同船に対する動静監視を十分に行わなかったので,このことに気づかなかった。
A受審人は,早期に大幅に右転するなどして同船の進路を避けないまま,操業地点を検討するためGPSプロッタの前に魚礁の位置を記したノート(以下「魚礁ノート」という。)を開き,同ノートを見ながら同じ針路及び速力で続航した。
04時28分わずか前A受審人は,船尾方0.3海里ばかりを同航していた従船から「替わるのか。」との無線連絡を受け,見ていたノートから顔を上げたところ,右舷前方至近に迫ったメタンの船影を認めたものの,どうすることもできず,04時28分栗ノ上礁灯標から271度5.2海里の地点において,満応丸は,原針路,原速力のまま,その船首がメタンの左舷前部に前方から65度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風はほとんどなく,視界は良好であった。
また,メタンは,ウクライナ国籍の船長Bほか同国籍の9人及びロシア連邦国籍の2人が乗り組み,コンテナ貨物1,895.9トンを積載し,船首5.40メートル船尾5.90メートルの喫水をもって,同月22日16時00分広島港を発し,中華人民共和国ニンポーに向かった。
B船長は,翌23日03時50分ごろ昇橋して法定灯火の表示を確認したのち,04時00分栗ノ上礁灯標から357度3.7海里の地点で,甲板手1人とともに船橋当直に就き,針路を壱岐水道に向く235度に定め,機関を全速力前進にかけ,13.7ノットの速力で,玄界灘を西行した。
04時23分B船長は,栗ノ上礁灯標から279度4.5海里の地点に差し掛かったころ,左舷船首34度2.0海里のところに,前路を右方に横切る態勢の満応丸の白,緑2灯及び数個の白色光を視認できる状況のもとで続航した。
B船長は,その後満応丸の方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で互いに接近していたが,警告信号を行うことも,さらに間近に接近し,同船の動作のみでは衝突を避けることができなくなったものの,行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行し,メタンは,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,満応丸は,船首部を圧壊し,メタンは左舷前部外板に擦過傷を生じたが,のちいずれも修理された。
(航法の適用)
本件は,福岡県玄界島北方沖合において,北上中の満応丸と西行中のメタンとが互いに視野の内にある状況の下,互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近して衝突したものであり,同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから,一般法である海上衝突予防法第15条によって律するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 満応丸
(1)法定の灯火のほかに甲板を照射する数個の照明灯を点灯していたこと
(2)A受審人が,メタンの紅灯を初認したとき,速力の速い内航貨物船のように見えたことから,前路を無難に替わるものと思ったこと
(3)A受審人が,レーダーをレンジを切り替えるなどしてメタンの映像を確認しなかったこと
(4)A受審人が,操業地点を検討するため魚礁ノートを見ていたこと
(5)A受審人が,メタンの動静を十分に監視しなかったこと
(6)A受審人が,メタンの進路を避けなかったこと
2 メタン
(1)B船長が,警告信号を行わなかったこと
(2)B船長が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
本件衝突は,北上中の満応丸と西行中のメタンとが,互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近して発生したものであり,満応丸は,避航船の立場となり,前路を左方に横切るメタンの進路を避けなければならなかった。満応丸は,メタンを右舷船首2.8海里に初認したのであるから,その後動静監視を十分に行っていれば衝突のおそれのあることが分かり,余裕を持って同船の進路を避けることが可能であり,本件は発生しなかったものと認められる。
したがって,A受審人が,メタンに対する動静監視を十分に行わなかったこと及び同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。また,同船の紅灯を初認したとき,速力の速い内航貨物船のように見えたことから,前路を無難に替わるものと思ったこと及び操業地点を検討するため魚礁ノートを見ていたことは,動静監視を十分に行わなかったことの理由であり,これらも本件発生の原因となる。
一方,保持船の立場となるメタンは,方位の変化のないまま避航の気配を見せずに接近する満応丸に対して警告信号を行い,さらに間近に接近して同船の動作のみでは衝突を避けることができないと認めたとき,衝突を避けるための協力動作をとることが可能な状況であり,こうした措置をとっていれば,本件は発生しなかったものと認められる。
したがって,B船長が,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
A受審人が,法定の灯火のほかに甲板を照射する数個の照明灯を点灯していたこと及びレーダーのレンジを適切に切り替えるなどして相手船の映像を確認しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,目視による見張りが十分に行える状況であったことから,いずれも本件発生の原因とするまでもない。
メタンの見張り模様については,衝突に至るまでの同船の運航模様から,満応丸に対する見張りが十分ではなかったものと推認されるが,事実認定するに足る根拠がほかになく,これを明らかにすることはできない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,福岡県玄界島北方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中,北上する満応丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切るメタンの進路を避けなかったことによって発生したが,西行するメタンが,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,福岡県玄界島北方沖合において,漁場に向け北上中,右舷前方に前路を左方に横切るメタンを認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,一瞥して速力の速い内航貨物船のように見えたことから,自船の前路を無難に替わるものと思い,魚礁ノートを見ていて,同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気づかず,早期に大幅に右転するなど同船の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き,満応丸の船首部を圧壊し,メタンの左舷前部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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