(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月7日15時18分
和歌山県日ノ御埼沖合
(北緯33度56.2分 東経134度58.2分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船寳積丸 |
漁船住吉丸 |
総トン数 |
299トン |
12トン |
全長 |
51.51メートル |
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登録長 |
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14.96メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
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漁船法馬力数 |
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30 |
(2)設備及び性能等
ア 寳積丸
寳積丸は,平成5年に竣工した船尾船橋型の鋼製貨物船で,操舵位置からの見通し状況は,良好であった。
なお,当時レーダーを使用していた。
イ 住吉丸
住吉丸は,平成3年に進水したFRP製漁船で,船橋の操舵位置の右前に魚群探知器が備えてあった。
なお,当時レーダーを使用していた。
3 事実の経過
寳積丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,船首1.7メートル船尾2.7メートルの喫水をもって,平成16年4月6日11時30分京浜港横浜区を発し,兵庫県東播磨港に向かった。
翌7日14時50分A受審人は,単独で船橋当直に当たり,紀伊日ノ御埼灯台(以下「日ノ御埼灯台」という。)から229度(真方位,以下同じ。)1.2海里の地点で,針路を319度に定め,11.7ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で自動操舵により進行した。
15時13分A受審人は,左舷船首11度1,540メートルに北上する住吉丸を視認できる状況であったが,船首方に航行の妨げとなる船舶はいないものと思い,船橋左舷側の海図台で書類の整理に当たっていて,船首方の見張りを十分に行っていなかったので,住吉丸の存在に気付かなかった。
その後,A受審人は,住吉丸に衝突のおそれがある追越しの態勢で接近したが,同船に気付かず,住吉丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま続航し,15時18分少し前船首方至近に迫った同船を初めて視認し,機関を全速力後進とし,手動操舵に切り替えて左舵一杯としたものの及ばず,15時18分日ノ御埼灯台から306.5度5.5海里の地点において,寳積丸は,やや減速し315度に向いたとき,その左舷船首が住吉丸の右舷後部に後方から45度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はなく,視界は良好であった。
また,住吉丸は,B受審人が,甲板員と2人で乗り組み,底びき網漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同日03時00分和歌山県箕島漁港を発し,紀伊水道東側の漁場に至り,漁ろうに従事する船舶が表示する形象物を掲げて操業した。
15時08分B受審人は,日ノ御埼灯台から302度5.3海里の地点で,手動操舵により針路を000度に定め,2.8ノットの速力でえい網中,右舷船尾51度1.6海里に北上する寳積丸を初認したが,一瞥しただけで自船の船尾を替わるものと思い,その後魚群探知器を見ており,衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船の動静を監視しなかった。
15時13分B受審人は,寳積丸が右舷船尾52度1,540メートルに近づき,その後,同船が衝突のおそれがある追越しの態勢で接近したが,依然,動静監視を行っていなかったので,このことに気付かず,接近する寳積丸に対して警告信号を行わず,更に間近に接近しても行きあしを減じるなど衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま続航し,15時18分少し前右舷船尾方至近に同船を視認し,右舵一杯としたが効なく,住吉丸は原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,寳積丸は,左舷船首部に擦過傷を生じ,住吉丸は,右舷後部外板に破口を生じ,転覆して付近海域に沈没した。また,B受審人が腰部椎間板障害などを,住吉丸の甲板員が左下腿打撲などをそれぞれ負った。
(本件発生に至る事由)
1 寳積丸
A受審人が,十分な見張りを行わず,住吉丸の存在に気付かないで,同船の進路を避けなかったこと
2 住吉丸
B受審人が,十分な動静監視を行わず,寳積丸が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かないまま,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
A受審人が十分な見張りを行わず,住吉丸の存在に気付かないで,同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
B受審人が寳積丸を初めて視認した後,十分な動静監視を行わず,同船が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かないまま,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は,和歌山県日ノ御埼沖合において,住吉丸を追い越す寳積丸が,見張り不十分で,住吉丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,住吉丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,和歌山県日ノ御埼沖合を北上中,船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,船首方に航行の妨げとなる船舶はいないものと思い,船橋左舷側の海図台で書類の整理に当たっていて,船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,住吉丸に気付かず,同船を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま進行して住吉丸との衝突を招き,寳積丸の左舷船首部に擦過傷を生じさせ,住吉丸の右舷後部外板に破口を生じさせ転覆から沈没に至らしめ,B受審人に腰部椎間板障害などを,住吉丸の甲板員に左下腿打撲などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は,和歌山県日ノ御埼沖合を北上中,右舷後方から接近する寳積丸を初めて視認した場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,一瞥しただけで自船の船尾を替わるものと思い,魚群探知器を見ていて,寳積丸に対する動静監視を十分に行わず,警告信号を行うことも同船との衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して寳積丸との衝突を招き,前示のとおりの損傷などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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