(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年12月1日18時08分
静岡県下田港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船慶和丸 |
貨物船誠洋丸 |
総トン数 |
499トン |
499トン |
全長 |
63.02メートル |
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登録長 |
7 |
2.06メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
慶和丸は,船尾船橋型のケミカルタンカーで,A受審人ほか5人が乗り組み,空倉で,バラストタンクに海水450トンを漲水(ちょうすい)し,船首2.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,平成15年11月29日14時45分神戸港を発し,茨城県鹿島港に向かったが,折から日本海を北東に進んでいた低気圧の影響により天候が悪かったので,同日夕方大阪府泉南市沖に仮泊し,翌30日07時30分同市沖を発して目的地に向かった。
そのころ,大型で非常に強い台風21号が沖ノ鳥島付近にあって北東方に進んでおり,30日21時40分静岡地方気象台から強風,波浪注意報が発表され,その後伊豆半島沖合では次第に天候が悪化していた。
翌12月1日早朝A受審人は,石廊埼沖合を航行中,北寄りの風が強くなって航行が困難となり,07時40分ごろ避泊する目的で下田港に入港し,そのころ風力6の北東風が吹き,すでに港奥に3隻の貨物船が錨泊していたことから,犬走島周辺の錨泊禁止区域を避け,これら錨泊船の風下側で水深11メートルのところに錨泊することとした。
A受審人は,左右の船首錨と直径32ミリメートルの錨鎖を片舷8節(200メートル)ずつ備えていたものの,錨泊水域が狭くて十分に錨鎖を延ばすことができなかったうえ,台風の北上に伴って風が更に強くなることが予想される状況であったが,錨鎖3節の単錨泊で走錨することはあるまいと思い,双錨泊とするなど適切な錨泊措置をとらず,07時50分下田港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から064度(真方位,以下同じ。)310メートルの地点に重量1,160キログラムの右舷錨を投じて錨鎖3節を延ばし,最も近い北東方の錨泊船から約180メートル離れて単錨泊した。
A受審人は,停泊当直者に対し,1時間ごとに船位を確認するよう,また,機関長にはいつでも機関を使用できる状態とするようそれぞれ指示した。そして,08時50分誠洋丸が風下側150メートルに双錨泊したのを見て少し距離が近いと感じたものの,依然適切な錨泊措置をとらず,その後時々昇橋して自ら錨泊状態を確かめ,17時30分レーダーで船位を確認したあと,食事のため食堂に下りた。
その後瞬間風速が20メートル毎秒を超えるようになり,18時ごろ慶和丸は,強い北北東風を受けて走錨し,ゆっくりと南南西方に圧流され始め,風下側で錨泊していた誠洋丸に向かって接近したが,A受審人及び停泊当直者が食事のため船橋を離れていて,何らの措置もとられないまま走錨中,18時08分西防波堤灯台から120度180メートルの地点において,020度に向首した状態で,左舷船尾が誠洋丸の右舷船首にほぼ平行に衝突した。
当時,天候は曇で風力7の北北東風が吹き,潮候はほぼ低潮時であった。
A受審人は,食事を済ませ食堂でテレビを見ていたとき,船尾方から自船を呼ぶ声が聞こえ,間もなく衝突の衝撃があったので直ちに船橋に赴いて誠洋丸との衝突を知り,いったん揚錨したのち犬走島南方500メートルの地点に投錨した。
また,誠洋丸は,船長Bほか2人が乗り組み,鋼材1,600トンを積載し,船首3.6メートル船尾4.6メートルの喫水をもって,11月30日05時50分大阪港を発し,京浜港東京区に向かった。
B船長は,翌1日早朝伊豆半島沖合を航行中,台風21号の接近に伴う強風のため航行困難となったので,避泊する目的で下田港に向かい,同日08時50分慶和丸の風下約150メートルのところに左右の船首錨を投下して,右舷錨鎖を2節半,左舷錨鎖を4節それぞれ延ばし,前示衝突地点で双錨泊した。
18時00分ごろ誠洋丸は,北北東方に向首して錨泊中,慶和丸が,強風のため走錨を始め,南南西方に圧流されて自船に接近し,このことに気付いた乗組員が慶和丸に向かって大声で注意喚起を行ったが,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,慶和丸は,左舷船尾のハンドレール,フェアリーダを曲損するとともにボートデッキに亀裂などが生じ,誠洋丸は,右舷船首のファッションプレート及びハンドレールに曲損を生じたが,のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は,慶和丸が,台風接近に伴う強風下,静岡県下田港において避泊する際,錨泊措置が不適切で,強い北北東風を受けて走錨し,風下で錨泊中の誠洋丸に接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,台風接近に伴う強風下,静岡県下田港において避泊する場合,錨泊水域が狭くて十分に錨鎖を伸ばすことができなかったうえ,台風の北上に伴って更に風が強まることが予想される状況であったから,双錨泊とするなど適切な錨泊措置をとるべき注意義務があった。しかし,同人は,錨鎖3節の単錨泊で走錨することはあるまいと思い,双錨泊とするなど適切な錨泊措置をとらなかった職務上の過失により,強い北北東風を受けて走錨し,風下で錨泊中の誠洋丸との衝突を招き,慶和丸の左舷船尾ハンドレール及びフェアリーダを曲損するとともにボートデッキに亀裂を生じさせ,誠洋丸の右舷船首ファッションプレート及びハンドレールに曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。