(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月6日01時40分
福島県松川浦漁港
(北緯37度49.9分 東経140度58.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第八勝丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
22.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
558キロワット |
(2)設備及び性能等
第八勝丸(以下「勝丸」という。)は,平成3年6月に進水し,従業制限を小型第1種とされ,周年の沖合底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,船首端から4.8メートル後方に操舵室が設置され,同室には,前面中央にマグネットコンパス,その後方にリモコン操舵装置付舵輪が,それらの左舷側に無線機マイク,プロッタ及びGPSが,右舷側にレーダー,主機回転指示器及びエンジンクラッチがそれぞれ備えられ,舵輪後方には背もたれの付いたいすがあって,その下後方に船長が休息時に使用する仮眠用ベッドを設けていた。
また,同室左舷側壁には,出力200ワットの暖房用ヒーターを取付けていた。
3 操業模様
勝丸の操業模様は,松川浦漁港を午前2時ごろ出航し,未明に漁場に至り,投網を10分ほどで行い,2時間曳網したのち40分ほどかけて揚網し,再投網後に漁獲物の選別作業を行い,漁獲量の多いときには同作業に1時間ほどかかっていた。
また,操業は昼夜にわたり,1航海に15から16回繰返し行われていた。
一方,船長は,曳網中,昼間に自ら操船の指揮を執り,その間乗組員を休息させていたが,前記のように,時折夜間にA受審人が船長に替わって操船していた。
水揚げ作業は,乗組員が着岸後すぐに行っていて,終了後に自宅に戻っていた。
4 事実の経過
勝丸は,船長及びA受審人ほか3人が乗り組み,操業の目的で,船首1.20メートル船尾2.55メートルの喫水をもって,平成16年4月4日02時00分松川浦漁港を出航し,05時00分福島第二原子力発電所東方13海里沖合の漁場に至って沖合底引き網漁に従事し,かれい等約2トンを獲たところで操業を終え,翌5日20時30分塩屋埼灯台から098度(真方位,以下同じ。)14.5海里の地点を発して帰途に就いた。
発航後,船長は自ら操舵操船にあたって北上を始め,甲板員が後片付けを終えて操舵室に来たので航海当直を交替し,同人に鵜ノ尾埼東方2海里沖合で起こす旨を次直者のA受審人に伝えるよう指示したのち,21時30分操舵室後方のベッドに入り休息した。
23時30分A受審人は,東北電力原町火力発電所専用港北防波堤灯台(以下「原町火力発電所灯台」という。)から144度9.5海里の地点で,昇橋して甲板員から船長の指示事項を引継ぎ,平素から当直中に居眠りをするなと言われていたことを思い起こし,肉眼とレーダーで周囲の状況を確認したうえ,プロッタで針路模様を確かめ,単独でいすに腰掛けて前方を見張りながら航海当直に就き,北上を続けた。
ところで,A受審人は,操業が連日にわたり,休息を航海当直と操業の合間,水揚げ後に取っていたものの,それらがいずれも断続的だったことから,仮眠程度になり,疲労が蓄積されていた。
翌々6日00時20分A受審人は,原町火力発電所灯台の灯光を左舷方に視認し,周囲に航行中の船舶がいないことを確かめ,01時00分ごろ寒くなってきたので暖房用ヒーターを入れたところ,操舵室内が徐々に暖かくなってきて気が緩んだ状態になり,01時19分少し過ぎ鵜ノ尾埼灯台から092度2.0海里の地点で,針路を相馬港沖合に向く303度に定め,機関回転数毎分1,350の全速力前進にかけ,10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)として自動操舵で進行し,30分ほど前に自ら自宅に入航時間を連絡したことと,入航操船の経験もあり少し慣れていたので自ら操船しても良いと考え,船長を起こさなかった。
01時31分半A受審人は,相馬港港界を通過し,同時32分半相馬港松川浦南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から052度1,320メートルの地点で,いすに腰掛けたまま自動操舵装置のダイアルを操作して針路を270度に転じて松川浦漁港に向け,このころ,日頃の操業の疲れから眠気を強く催したが,防波堤入口を替わるまで操船しても大丈夫と思い,操舵室内で休息中の船長を起こして2人当直にするなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
01時35分少し過ぎA受審人は,南防波堤灯台から009度830メートルの地点に達したとき,針路を213度に転じたところ,眠気が更に強まったが,そのまま航行しているうちいつしか居眠りに陥り,その後砂浜手前に設置された消波ブロックに向首していたが,このことに気付かずに進行中,勝丸は,01時40分南防波堤灯台から237度840メートルの地点において,原針路,原速力のまま,その船首が同ブロックに衝突した。
当時,天候は曇で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の中央期であった。
船長は,衝突の衝撃で目覚め,機関を停止したのち,事後の措置にあたった。
その結果,勝丸は水線下船首及び左舷側船首部を圧壊し,機関を後進にかけ,消波ブロックから離れて岸壁に向けて航行していたところ,浸水して電気系統に損傷が生じ,操舵不能に陥ったので僚船に曳航させ,着岸後に沈没し,フローティングクレーンで引揚げられたが,修理費の関係から全損処理された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,断続的な休息で睡眠不足の状態であったこと
2 A受審人が,船長から鵜ノ尾埼の東2.0海里沖で起こすように指示されていたが,起こさなかったこと
3 A受審人が,入航操船の経験があり少し慣れていたので自ら操船しても良いと考えたこと
4 A受審人が,眠気を催したときに船長を起こして2人当直にしなかったこと
5 A受審人が,居眠りに陥ったこと
(原因の考察)
本件衝突は,勝丸の船橋当直者が,漁場から帰航して松川浦漁港に向け入航操船中,居眠りに陥り,消波ブロックに向首進行したことによって発生したものである。
A受審人が往復航の航海当直に就き,時折夜間操業中に操船し,帰航後も水揚げにあたるなどで,休息が断続的になり睡眠不足の状態になっていたこと。A受審人が暖房用ヒーターを入れて操舵室が暖かくなり,眠気を覚えたものの,入航操船の経験もあり少し慣れていたので自ら操船しても良いと考えてしまったこと。A受審人が睡眠不足と操業の疲れから眠気を強く催した際に居眠り運航の防止措置をとらず,その後居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,船長から鵜ノ尾埼の東方2.0海里沖合で起こすよう指示されていたが,同地点付近で起こさなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件の直接的な原因とするまでもない。しかしながら,船長の指示事項を遵守しなかったことは海難防止の観点から是正されるべきものである。
(海難の原因)
本件消波ブロック衝突は,夜間,相馬港において,漁場から帰航して松川浦漁港に向け入航操船中,眠気を催した際,居眠り運航の防止措置が不十分で,砂浜手前に設置された消波ブロックに向首して進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,相馬港において,漁場から帰航して松川浦漁港に向け入航操船中,眠気を催した場合,居眠り運航にならないよう,操舵室内で休息中の船長を起こし2人当直にするなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,防波堤入口を替わるまで操船しても大丈夫と思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,いつしか居眠りに陥り,砂浜手前に設置された消波ブロックに向首進行して衝突を招き,水線下船首及び左舷側船首部を圧壊して浸水し,僚船に曳航させて着岸したのち沈没し,全損処理させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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