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平成16年函審第79号
件名

貨物船とうしん漁船第二十一光漁丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年2月28日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志,黒岩 貢,古川隆一)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:とうしん船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:とうしん一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)
補佐人
C
受審人
D 職名:第二十一光漁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
とうしん・・・右舷船首部に擦過傷
第二十一光漁丸・・・船首部を圧壊船長が約3週間の加療を要する頸椎捻挫など,乗組員1人が約1 週間の加療を要する頸椎捻挫の負傷

原因
とうしん・・・居眠り運航防止措置不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
第二十一光漁丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,とうしんが,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路で漁ろうに従事している第二十一光漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第二十一光漁丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの四級海技士(航海)(履歴限定)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Dを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月10日05時22分
 津軽海峡
 (北緯41度40.6分 東経140度50.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船とうしん 漁船第二十一光漁丸
総トン数 499トン 12トン
全長 75.87メートル 19.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 470キロワット
(2)設備及び性能等
ア とうしん
 とうしんは,平成4年8月に進水した主に京浜港と東北や北海道太平洋沿岸各港間の航海に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で,船橋にはレーダー2基のほかGPSプロッタなどが装備されていた。
イ 第二十一光漁丸
 第二十一光漁丸(以下「光漁丸」という。)は,平成2年5月に進水したまぐろはえなわ漁業などに従事するFRP製漁船で,船体中央部にはレーダー2基のほかGPSプロッタなどが装備された操舵室が,同室後方にはいか釣り機数台が,船首から船尾にかけての船体中央には多数の集魚灯が,船首部には長さ1.1メートル幅2.9メートル高さ1.7メートルの漁具格納室が,その右舷側後方に揚縄機1台がそれぞれ設置されていた。

3 事実の経過
 とうしんは,A及びB両受審人ほか2人が乗り組み,砂1,555トンを積載し,船首3.55メートル船尾4.71メートルの喫水をもって,平成16年7月10日04時00分北海道函館港に隣接する太平洋セメントシーバースを発し,京浜港川崎区に向かった。
 これより先,とうしんは,9日16時45分北海道室蘭港を空倉で出港し,23時00分函館港に錨泊,翌10日01時00分前示バースに着桟して全乗組員で積荷役作業を行ったのち,発航したものであった。
 ところで,A受審人は,航海船橋当直体制を,00時から06時まで及び12時から18時までをB受審人,06時から12時まで及び18時から24時までを自らによる単独6時間交替に定めていた。
 04時30分A受審人は,太平洋セメントシーバース南方2.5海里の地点で,B受審人に船橋当直を引き継いだが,同人が昨日18時から荷役前までの間に休息を十分にとっていて体調に問題ないものと思い,B受審人に対して当直中に眠気を覚えた際,直ちに報告することなど,居眠り運航の防止措置に関する具体的な指示を十分に行うことなく,視界模様についての注意などを申し継いで降橋して休息した。
 04時50分B受審人は,汐首岬灯台から265度(真方位,以下同じ。)11.8海里の地点に達したとき,針路を110度に定め,機関を全速力前進にかけたところ,折からの潮流により左方に11度圧流され,099度の実効針路及び12.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により進行した。
 05時10分B受審人は,汐首岬灯台から257.5度8.0海里の地点に至り,前路に他船を認めなかったことから安堵し,船橋右舷後方の長いすに腰を下ろして窓越しに見張りに当たっていたところ,眠気を覚えたが,あとわずかで当直が終わるので,それまで我慢できるものと思い,船長に報告して昇橋を求めるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,航行中の動力船が掲げる灯火を表示したまま続航し,間もなく居眠りに陥った。
 05時20分半B受審人は,汐首岬灯台から250.5度6.1海里の地点で,右舷船首6.5度600メートルのところに光漁丸を認めることができ,同船が漁ろうに従事している船舶の掲げる形象物を表示していなかったものの,船首方海面の浮子や赤色旗の付いたブイの存在と低速で船首が左右に振れ回っている光漁丸甲板上の乗組員の動きなどから,同船が漁ろうに従事していることが分かる状況となり,その後方位が変わらず,衝突のおそれがある態勢で接近したが,居眠りしていたのでこのことに気付かず,右転するなど,光漁丸の進路を避けないまま進行した。
 こうして,とうしんは,船橋当直者が居眠りに陥ったまま続航中,05時22分汐首岬灯台から249度5.8海里の地点において,原速力のまま,110度を向首したその右舷船首部が,光漁丸の船首部に前方から40度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力1の東北東風が吹き,付近海域には約2.5ノットの北東流があり,日出時刻は04時11分であった。
 また,光漁丸は,D受審人ほか2人が乗り組み,まぐろはえなわ漁業の目的で,船首0.3メートル船尾2.4メートルの喫水をもって,同月9日13時30分北海道釜谷漁港を発し,津軽海峡の漁場に向かった。
 ところで,光漁丸のはえなわは,長さ15メートルの枝縄32本と径20センチメートルの橙蛍光色の浮子を適宜の間隔に付けた径2ミリメートル長さ1,600メートルの幹縄を1篭と称し,これを6篭接続して総延長9,600メートルとしたものであった。はえなわ両端及び中間の3箇所には,GPS発信機が装備された径37センチメートルのブイが取り付けられ,同発信機の高さ3メートルほどのアンテナ先端には付近航行中の船舶に注意を喚起するため赤色の旗が付けられていた。またGPSプロッタにはそれらのブイの位置や同地点の流向流速が表示されるようになっていた。
 そして,光漁丸は,揚縄中,前方に延びるはえなわを揚縄機にとっているため,後進することが困難で操縦性能が制限される状況ではあったものの,前進することはある程度可能であった。
 D受審人は,航行中の動力船が掲げる灯火のほか漁ろうに従事している船舶が掲げる灯火を表示し,釜谷漁港西方7海里ほどのところで餌のいかを獲り,翌10日02時45分汐首岬西方8海里ばかりの漁場に至って南方に向けて投縄を始め,03時40分投縄を終えてはえなわの南端付近で漂泊待機し,日出とともに前示の灯火を消灯して漂泊を続けた。
 04時40分D受審人は,GPSプロッタにより,設置したはえなわの南端から北端への方位線が北西で,漁具全体が北東へ2.5ノットほどの速力で流れていることを知り,揚縄に備え,自らは揚縄機の後ろに立ち,揚がってくる漁具の整理などに当たらせるため,乗組員1人を自身の左方に,他の1人を後方にそれぞれ配し,機関及び操舵の遠隔操縦装置(以下「リモコン装置」という。)を操作して南端ブイに接近した。
 04時45分D受審人は,汐首岬灯台から233度7.3海里の地点で,はえなわの南端ブイを揚収し,同なわの30メートルばかり潮上に位置して船首をはえなわの方位線に沿うほぼ330度に向け,機関回転数を毎分700としてリモコン装置を適宜操作し,漁ろうに従事する船舶が掲げる形象物を表示せずに幹縄を揚縄機に導いて前進しながら揚縄を始め,折からの潮流により右方に39度圧流され,009度の実効針路及び3.8ノットの速力で進行した。
 05時20分半D受審人は,揚縄中,汐首岬灯台から248度5.9海里の地点に至ったとき,左舷船首33.5度600メートルのところに東行するとうしんを認めることができ,その後方位が変わらず,同船が衝突のおそれがある態勢で接近したが,操業に気をとられ,見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,警告信号を行わず,更に接近しても増速するなど,衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
 05時22分少し前D受審人は,ふと左舷船首方を見て,間近に迫るとうしんの船首部を認め,咄嗟に機関を後進一杯としたが,効なく,光漁丸は,330度を向首し,3.8ノットの速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,とうしんは,右舷船首部に擦過傷を生じ,光漁丸は,船首部を圧壊してのち修理され,D受審人が約3週間の加療を要する頸椎捻挫などを,光漁丸乗組員1人が約1週間の加療を要する頸椎捻挫をそれぞれ負った。

(航法の適用)
 本件は,津軽海峡において,12.0ノットの速力で東行中のとうしんと3.8ノットの速力で北上しながらまぐろはえなわを揚縄中の光漁丸とが衝突したものであるが,以下適用される航法について検討する。
 衝突した地点は,特別法である港則法及び海上交通安全法の適用海域でないことから一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)が適用される。
 光漁丸は,漁ろうに従事する船舶が掲げる形象物を表示していなかったが,他船から見れば,接近するにつれ,光漁丸の海面上の漁具や甲板上における乗組員の動きなどから同船が漁ろうに従事している船舶であると分かる状況にあった。
 したがって,本件は,予防法第18条を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 とうしん
(1)A受審人が,B受審人に対して居眠り運航の防止措置に関する具体的な指示を行わなかったこと
(2)B受審人が,眠気を覚えたが,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと
(3)B受審人が,光漁丸の進路を避けなかったこと

2 光漁丸
(1)D受審人が,漁ろうに従事している船舶が掲げる形象物を表示しなかったこと
(2)D受審人が,見張りを十分に行わなかったこと
(3)D受審人が,警告信号を行わなかったこと
(4)D受審人が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 とうしんは,居眠り運航の防止措置を十分にとっていれば,前路で漁ろうに従事している光漁丸が存在し,衝突のおそれがある態勢で接近していることが分かり,光漁丸の進路を避けることができたものと認められる。
 したがって,B受審人が,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと,その結果として光漁丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,A受審人が,B受審人に対して同人が当直中に眠気を覚えた際,直ちに報告することなど,居眠り運航の防止措置に関する具体的な指示を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 光漁丸は,見張りを十分に行っていれば,前路左方にとうしんが存在し,衝突のおそれがある態勢で接近していることが分かり,自船の進路を避けずに接近するとうしんに対し警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもでき,本件の発生は回避されていたものと認められる。
 したがって,D受審人が,見張りを十分に行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 D受審人が,漁ろうに従事している船舶が掲げる形象物を表示しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当因果関係があると認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべきである。

(海難の原因)
 本件衝突は,津軽海峡において,東行中のとうしんが,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路で漁ろうに従事している光漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが,光漁丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 とうしんの運航が適切でなかったのは,船長が,単独の船橋当直者に対し,居眠り運航の防止措置に関する具体的な指示を十分に行わなかったことと,単独の船橋当直者が,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,津軽海峡において,単独の船橋当直に就いて東行中,眠気を覚えた場合,船長に報告して昇橋を求めるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,B受審人は,あとわずかで当直が終わるので,それまで我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,間もなく居眠り運航に陥り,前路で漁ろうに従事する光漁丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,右転するなど,同船の進路を避けずに進行して衝突を招き,とうしんの右舷船首部に擦過傷を生じさせ,光漁丸の船首部を圧壊させるとともに,D受審人に約3週間の加療を要する頸椎捻挫などを,光漁丸乗組員1人に約1週間の加療を要する頸椎捻挫をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)(履歴限定)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,津軽海峡において,短時間の夜間荷役作業を終えて発航したのち,操船を単独の船橋当直者に行わせる場合,同当直者に対して,眠気を覚えた際には報告することなど,居眠り運航の防止措置に関する具体的な指示を十分に行うべき注意義務があった。ところが,A受審人は,船橋当直者が荷役前までの間に休息を十分にとっていて体調に問題ないものと思い,居眠り運航の防止措置に関する具体的な指示を十分に行わなかった職務上の過失により,同当直者が居眠りに陥って光漁丸との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,D受審人及び光漁丸乗組員1人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D受審人は,津軽海峡において,漁ろうに従事する場合,接近するとうしんを見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,操業に気をとられ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近するとうしんに気付かず,警告信号を行うことも,増速するなど,衝突を避けるための協力動作をとることもなくとうしんとの衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,光漁丸乗組員1人を負傷させるとともに自らも負傷するに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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