(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月26日04時24分
北海道函館港
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートユー・ディー |
全長 |
4.60メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
51キロワット |
3 事実の経過
ユー・ディー(以下「ユ号」という。)は,レーダーを装備していないFRP製モーターボートで,A受審人(平成16年8月二級小型船舶操縦士(5トン限定)免許取得)が1人で乗り組み,同乗者2人を乗せ,いか釣りの目的で,船首0.4メートル船尾1.1メートルの喫水をもって,平成16年9月26日04時15分函館港東日本フェリー桟橋を発し,函館山南方沖合の釣場に向かった。
ところで,函館港の中央部には,同港北部から南に延びる北防波堤と南部陸岸から北に延びる西防波堤とにより西方に開く港口が形成されており,港口の南西側には北西に400メートル延びる島防波堤が築造され,その北西端に函館港島防波堤灯台(以下,灯台の名称中,函館港を省略する。)が設置されていたが,平成16年9月8日北海道西方海上を北上した強風を伴う大型の台風18号により島防波堤を形成するケーソンが,総数27函のうち北西端付近の1函と中央部分の1函を残し島防波堤灯台とともに倒壊して水没した。
このことは新聞等で大きく報道されており,函館海上保安部では9月8日ナブテックス,14日地域航行警報,24日水路通報により島防波堤周辺が航泊禁止区域となり,倒壊した島防波堤を囲み,その北側と南側とに黄色の4秒1閃の光達距離4.0キロメートルの標識灯各3個が約250メートルの間隔で設置された旨をインターネットのホームページ等で広報していた。
A受審人は,ここ数年,夏季には友人のモーターボートに同乗して前示釣場に出かけており,函館港の防波堤設置状況についてある程度は知っていたものの,台風18号の通過後夜間に航行するのは初めてであった。ところが,同受審人は,港湾施設は台風の影響を受けていないものと思い,発航するにあたり,函館海上保安部に問い合わせるなり,インターネットにより同海上保安部のホームページで地域航行警報などを調べるなりして水路調査を十分に行わなかったので,島防波堤と島防波堤灯台とが倒壊して水没し,周辺が航泊禁止区域に指定されたことを知らなかった。
A受審人は,救命胴衣を着用し,右舷側の操縦席に腰を掛けて操船に当たり,同じく救命胴衣を着用した同乗者2人を隣の左舷側の席,船尾中央に置いた箱にそれぞれ腰を掛けさせて北防波堤の北方に向け北西進し,04時19分半少し前北防波堤灯台から337.5度(真方位,以下同じ。)1,300メートルの地点に達したとき,針路を函館山西方に向く182度に定めたところ,残存した島防波堤北西端付近のケーソンに向首することになったが,水路調査を十分に行っていなかったので,これに気付かず,機関を微速力前進にかけ,10.8ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針後A受審人は,前方水域がいつもより開いていると訝った(いぶかった)ものの,函館山の西方ばかり見ていて島防波堤灯台が倒壊していることにも前路の標識灯群にも気付かないまま続航し,04時23分半わずか過ぎ左舷正横15メートルに黄色閃光灯を初めて認め,機関を中立としたが効なく,04時24分ユ号は,北防波堤灯台から237度660メートルの地点において,その船首が,原針路,原速力のまま,島防波堤北西端付近のケーソンに衝突した。
当時,天候は晴で風力1の北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期にあたり,月齢は11.0日で,月没は02時15分であった。
衝突の結果,ユ号は,船底外板に破口を生じ浸水して沈没し,A受審人と同乗者が折から出港してきた作業船に,同乗者1人が海上保安庁のヘリコプターにそれぞれ救助され,同乗者1人が3週間の入院加寮を要する左肋骨骨折及び脾臓破裂を負った。
(原因)
本件防波堤衝突は,夜間,北海道函館港において,夜釣りを行うため発航するにあたり,水路調査が不十分で,釣場に向け出航中,台風により倒壊し,航泊禁止区域に指定された島防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,北海道函館港において,強風を伴う大型の台風が通過後,釣場に向け出航する場合,港湾施設に被害を受けているおそれがあったから,発航するにあたり,函館海上保安部に問い合わせるなり,インターネットにより同海上保安部のホームページで地域航行警報などを調べるなりして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,港湾施設は台風の影響を受けていないものと思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,倒壊して航泊禁止区域に指定された島防波堤に向首したまま進行して同防波堤との衝突を招き,ユ号の船底外板に破口を生じさせて,同船を沈没させ,同乗者1人に左肋骨骨折及び脾臓破裂を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。