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平成16年函審第84号
件名

貨物船第三日鋼丸岸壁衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年2月10日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志)

副理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:第三日鋼丸船長 海技免許:一級海技士(航海)

損害
船首部外板に凹損

原因
強風下,岸壁への接近時の確認が不十分

裁決主文

 本件岸壁衝突は,強風下,岸壁への接近状況の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月28日17時30分
 北海道室蘭港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三日鋼丸
総トン数 499トン
全長 72.72メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 第三日鋼丸(以下「日鋼丸」という。)は,平成2年11月に進水した船尾船橋型鋼製貨物船で,A受審人ほか5人が乗り組み,空倉のまま船首1.9メートル船尾3.7メートルの喫水をもって,平成15年8月27日18時10分青森県八戸港を発し,北海道室蘭港に向かい,翌28日04時20分室蘭港新日本製鉄ふとう灯台(以下「ふとう灯台」という。)から269度(真方位,以下同じ。)1,120メートルの地点に至り,荷役待ちのため錨泊した。
 17時00分A受審人は,着岸のため錨泊地点を発し,船首に一等航海士及び二等航海士を,船尾に他の乗組員2人をそれぞれ配して自らは入港操船のため単独で船橋配置に就き,予定岸壁である同港内奥の新日鐵ふ頭13号岸壁に向け航行した。
 ところで,新日鐵ふ頭は,航路南東端付近からほぼ東に延びる,奥行き2,000メートル余り,幅440メートルの水路(以下「新日鐵水路」という。)周辺に構築されていた。
 13号岸壁は,同水路南側のふ頭に位置する2基の全天候型岸壁の1つで,荷役時における鋼材等の濡れ損を防ぐため,岸壁法線と平行に打ち込まれた数本のパイル上に壁を設け,岸壁との間に屋根を築造してパイルと岸壁との間を荷役船が係留するバースとし,岸壁の全長が75.7メートル,バースの幅が14.5メートルであった。また,同バース西端が壁で塞がれているため,その東端の入口以外全て覆われた構造となっており,荷役船は,新日鐵水路をこれに沿って東進し,13号岸壁沖合に達したところで右転を開始して同岸壁の東側のふ頭岸壁に接近し,次いで錨,機関,舵を適宜使用して船首を13号岸壁入口に向け,同岸壁の東側のふ頭岸壁にほぼ接岸した状態とし,その後,係留索を巻きながら13号岸壁内部に入って左舷付けで係留していた。
 A受審人は,何度か13号岸壁を含む新日鐵ふ頭岸壁に着岸した経験があり,新日鐵水路付近の事情を知っていた。
 17時12分A受審人は,ふとう灯台から299度560メートルの地点に達したとき,針路を室蘭港新日本製鉄第3号導灯に向首して新日鐵水路に沿う079度に定め,機関を微速力前進として7.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 17時17分半わずか過ぎA受審人は,ふとう灯台から054.5度870メートルの地点に至り,4ノットほどの速力に減じ,17時23分半ふとう灯台から065.5度1,540メートルの地点で13号岸壁西端に並んだとき,約3ノットの速力で右転を始め,間もなくふ頭岸壁にほぼ直角に向首して更に速力を減じて続航し,17時27分半船首が同岸壁まで70メートルの地点に至ったとき,右舷錨を投入して錨鎖を繰出しながら1ノットほどの速力で進行した。
 17時29分半A受審人は,ふとう灯台から076度1,650メートルの地点で船首が岸壁まで10メートルとなったとき,行きあしを止めて係留索を岸壁に送り出し,更に折からの東寄りの強風による船尾の圧流を防ぐため,船首を右方に振ることとして右舵一杯とし,わずかの間機関を極微速力前進にかけたところ,惰力による前進行きあしで岸壁に接近したが,船尾の圧流に気をとられ,船首配置員に船首と岸壁との距離の報告を求めるなど,岸壁への接近状況の確認を十分に行わなかったので,このことに気付かないまま続航した。
 17時30分わずか前A受審人は,船首配置員から船首が岸壁まで5メートルとの報告を受け,前進行きあしのまま岸壁に著しく接近していることにようやく気付き,全速力後進としたが,効なく,17時30分日鋼丸は,岸壁法線に対し69度となる190度を向首したとき,約1ノットの速力で,船首部がふとう灯台から078.5度1,640メートルの岸壁に衝突した。
 当時,天候は雨で風力5の東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 衝突の結果,船首部外板に凹損を生じた。

(原因)
 本件岸壁衝突は,北海道室蘭港において,強風下,接岸する際,岸壁への接近状況の確認が不十分で,前進行きあしのまま岸壁に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,北海道室蘭港において,強風下,接岸する場合,船首配置員に船首と岸壁との距離の報告を求めるなど,岸壁への接近状況の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,船尾の圧流に気をとられ,岸壁への接近状況の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,前進行きあしのまま岸壁に著しく接近して衝突を招き,船首部外板に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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