(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月13日11時20分
北海道小樽港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船新世丸 |
総トン数 |
160トン |
全長 |
37.26メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,029キロワット |
3 事実の経過
新世丸は,沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型鋼製漁船で,A受審人ほか13人が乗り組み,平成15年8月27日午後北海道小樽港第2ふとう11号岸壁に入船左舷付けで係留し,9月中旬より始まる漁期に備え船体整備作業等を行っていた。
ところで,9月13日朝台風14号が九州北方にあって北海道西部に向けて速い速力で北東進しており,05時50分札幌管区気象台では,小樽港を含む後志北部を対象に雷,強風及び波浪注意報を,また,昼過ぎから風が強まる旨を発表して注意を促しており,A受審人はこの状況を承知していた。
09時00分A受審人は,間もなく漁期が始まるため,乗組員とともにB組合で行われる操業等についての会議に出席していたところ,10時過ぎから風雨が強くなってきたのを認め,係留中の新世丸が気になり,会議を途中で退席して荒天避難のため小樽港第2区に錨泊することにし,11時前乗組員全員と新世丸に帰船した。
A受審人は,第2ふとうと対岸の第3ふとうとの間の水域で舵及び機関のみを使用して右回頭することにし,船首,船尾に甲板員各4人を出港配置に就かせ,投錨準備を行わないまま,11時16分船首2.2メートル船尾4.6メートルの喫水をもって,離岸し,機関を極微速力後進にかけて後退したのち,11時18分わずか前小樽港北副防波堤灯台から272度(真方位,以下同じ。)1,640メートルの地点で,右舵一杯とし機関を回転数毎分500可変ピッチプロペラ翼角7度の微速力前進にかけ,約3ノットの対地速力で右回頭を開始した。
11時18分半わずか過ぎA受審人は,船首が北西を向くころ,折からの強い東風で風下に圧流されて旋回径が大きくなる状況となったが,このまま右舵一杯でも大丈夫と思い,右舷錨を投錨して素早く船首を風に立てるなど,適切な回頭措置をとることなく,そのまま回頭を続け,11時20分少し前船首が回頭しきらず,第3ふとうに間近に接近したので舵中央とし機関を後進にかけたが効なく,11時20分小樽港北副防波堤灯台から277度1,640メートルの地点において,新世丸は,020度を向首し,わずかな前進惰力でその左舷船首が岸壁に45度の角度で衝突した。
当時,天候は雨で風力7の東風が吹き,潮候は上げ潮の初期で,波高は1.5メートルであった。
その結果,新世丸は,球状船首左舷外板に凹損を生じた。
(原因)
本件岸壁衝突は,北海道小樽港において,台風の接近による強風下,荒天避難のため離岸して右回頭する際,回頭措置が不適切で,風下に圧流されて対岸に接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,北海道小樽港において,台風の接近による強風下,荒天避難のため離岸して右回頭する場合,強風により圧流されるおそれがあったから,右舷錨を投錨して素早く船首を風に立てるなど,回頭措置を適切に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,このまま右舵一杯でも大丈夫と思い,回頭措置を適切に行わなかった職務上の過失により,風下に圧流されて対岸との衝突を招き,新世丸の球状船首左舷外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。