(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月18日10時54分
沖縄県中城湾湾口(二ツ口)
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船十七日吉丸 |
総トン数 |
696トン |
全長 |
62.01メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
(1)十七日吉丸
十七日吉丸(以下「日吉丸」という。)は,平成2年1月に竣工した近海区域を航行区域とする船尾船橋型の鋼製液化ガスばら積み船で,上甲板上には,船首から順に船首楼,貨物区画及び船尾楼を配し,船首楼甲板両舷に揚錨機及び係船機各々1台を,貨物区画に液化ガス用貨物タンク2基及び荷役用配管を設置し,船尾楼甲板に船員居住区及びその上層に操舵室を設け,同甲板後部に係船機2台を設置していた。
操舵室には,ほぼ中央部に操舵スタンドを,その右舷側に機関遠隔操縦装置,左舷側にレーダー2台を設置し,GPSプロッターを備え,左舷後部に海図台を設けていた。
また,前面の窓は,窓枠により5区画に仕切られ,最左端の窓ガラスには旋回窓が取り付けられており,操舵室からの前方の見張りを妨げる構造物は上甲板上になかった。
同船は,平成9年11月日本海事協会から安全管理証書を取得しており,また,船舶所有者であるBは,同年9月同協会から船舶管理会社として適合書類を取得し,安全管理手引書を,日吉丸を含む各管理船舶に備え,航海当直の実施に関しては,同手引書中の「甲板部航海当直の手順書」において,航海中,状況の許す限りたびたび船位の確認に努めるよう定めていた。
(2)中城湾湾口(二ツ口)の入出港水路
金武中城港の中城湾への入出港は,同湾入口をなす二ツ口,浜比嘉口,津堅口及び久高口のうち,北側を津堅島,南側を干出さんご礁であるウフビシに挟まれた幅約2海里で水深の深い二ツ口が主に利用され,同港港界外側の水路中央付近となる津堅島灯台から135度(真方位,以下同じ。)2.3海里の地点に,港の入口を示す水面上高さ約6メートルの中城湾口灯浮標(以下「湾口灯浮標」という。)が設置され,同港内には,同灯浮標の西方約3.5海里のところに存在する浅礁チクニガを示すチクニガ瀬灯浮標のほか側面標識等によって入出港水路が示されていた。
同港内から二ツ口に向けて出港する際には,チクニガ瀬灯浮標南側を航過した後,湾口灯浮標に向けて進行するもので,二ツ口南側に広がるウフビシ航過後は,広い水域となっていた。
(3)本件発生に至る経緯
日吉丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,液化ブタン約755トンを積載し,船首3.1メートル船尾4.6メートルの喫水をもって,平成15年11月18日09時25分中城湾内のC社第三桟橋を発し,台湾高雄港に向かった。
A受審人は,離桟操船に引き続いて単独で船橋当直に当たり,外洋の波浪が高かったので乗組員に荒天準備を行わせることとし,甲板上に波浪が打ち上げることのないよう,機関を微速力前進にかけて手動操舵により航行し,10時32分津堅島灯台から215.5度3.2海里の地点に至り,針路を湾口灯浮標に向首することとなる074度に定めて自動操舵とし,荒天準備作業が終了したことから増速し始め,10時35分津堅島灯台から212度3.0海里の地点で,機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力で進行した。
10時46分A受審人は,ウフビシに並航する,津堅島灯台から172度2.0海里の地点に至り,いつものように湾口灯浮標を視認したのち針路を変更するつもりで,操舵室前面の窓ガラス越しに同灯浮標を探したところ,増速後打ち上げるようになった波しぶきのために同窓ガラス越しには前方海面が見えにくくなって,同灯浮標を視認できなかったが,接近すれば見えてくるものと思い,GPSプロッターを利用するなどして船位を十分に確認することなく,同灯浮標に向首したまま続航した。
10時51分わずか過ぎA受審人は,津堅島灯台から147度2.1海里の地点に達したとき,正船首0.5海里の距離となった湾口灯浮標を視認することも,海面反射のためにレーダー画面上で確認することもできなかったが,依然として,接近すれば同灯浮標が見えてくるものと思い,同灯浮標を探すことに気を奪われ,船位の確認を十分に行っていなかったので,同灯浮標に向首したまま接近していることに気付かず,同一針路,速力で進行中,日吉丸は,10時54分津堅島灯台から135度2.3海里の地点において,原針路,原速力のまま,その右舷船首部が湾口灯浮標に衝突した。
当時,天候は曇で風力3の東南東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,付近には東南東から寄せる波高2.5メートルの波浪があった。
A受審人は,衝突に気付かないまま続航し,翌々20日右舷船首部ハンドレールの曲損を発見して同部付近の損傷を調査し,同部外板に凹損を伴う擦過傷を発見したことから,関係先に連絡をとったところ,衝突の事実を知った。
衝突の結果,右舷船首部外板に凹損を伴う擦過傷と同部ハンドレールに曲損を生じ,湾口灯浮標は頂部の頭標及び灯器の脱落と浮体の凹損等を生じたが,のち,いずれも修理された。
(原因)
本件灯浮標衝突は,沖縄県中城湾湾口において,やや高い波浪と操舵室前面の窓ガラスに打ち上げる波しぶきによって前方海面が見えにくい状況下,湾口灯浮標を船首目標として港外に向け航行する際,船位の確認が不十分で,同灯浮標手前で針路を変更することなく進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,中城湾湾口において,やや高い波浪と操舵室前面の窓ガラスに打ち上げる波しぶきによって前方海面が見えにくい状況下,湾口灯浮標を船首目標として港外に向け航行する場合,同灯浮標に著しく接近することのないよう,GPSプロッターを利用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,同灯浮標に接近すれば見えてくるものと思い,視認してから針路を変更するつもりで,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同灯浮標に著しく接近していることに気付かず,同灯浮標手前で針路を変更することなく進行して衝突を招き,右舷船首部外板に凹損を伴う擦過傷と同部ハンドレールに曲損を生じ,湾口灯浮標に頂部の頭標及び灯器の脱落と浮体の凹損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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