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平成16年門審第112号
件名

漁船第一豊生丸漁船佐屋形丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年1月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第一豊生丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:佐屋形丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第一豊生丸・・・船首船底部に亀裂
佐屋形丸・・・左舷後部に破口,のち水没,船長が,約2週間の通院治療を要する頚椎捻挫の負傷

原因
第一豊生丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
佐屋形丸・・・見張り不十分,所定の形象物不表示,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第一豊生丸が,見張り不十分で,所定の形象物を表示せずに揚縄中の佐屋形丸の進路を避けなかったことによって発生したが,佐屋形丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の主旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月22日11時50分
 福岡県沖ノ島北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一豊生丸 漁船佐屋形丸
総トン数 19トン 7.9トン
全長 25.50メートル  
登録長   12.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 558キロワット  
漁船法馬力数   120

3 事実の経過
 第一豊生丸(以下「豊生丸」という。)は,いか一本釣漁業に従事し,船体ほぼ中央部に操舵室を有するFRP製漁船で,平成13年5月に一級小型船舶操縦士免状の交付を受けたA受審人ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首0.6メートル船尾2.1メートルの喫水をもって,同16年5月22日07時50分長崎県郷ノ浦港を発し,山口県角島北方の漁場に向かった。
 A受審人は,発航時から単独で操船に当たり,若宮灯台から291度(真方位,以下同じ。)1.0海里の地点で,針路を049度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.0ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
 A受審人は,11時40分ごろレーダー画面及び肉眼により周囲を一瞥したところ,自船の航行に支障となる他船を認めず,海上も平穏であったことから,その後,しゃがみこんだ姿勢で,操舵室前部下方に設置した航海計器類の拭き掃除を開始した。
 11時47分A受審人は,沖ノ島灯台から078度4.7海里の地点に達したとき,右舷船首3度1,100メートルばかりのところに,北西方に向いた佐屋形丸を視認でき,その後接近するにつれて,同船が形象物を表示していなかったものの,前部甲板の揚縄機(以下「ラインホーラー」という。)の後方に乗組員が立って作業に当たっている様子や,同船がゆっくり前進している様子から,縄などの揚収作業を行っていて同船の操縦性能がやや制限されていることが分かる状況であり,同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で互いに接近していたが,計器類の拭き掃除を行い,前路の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,同船の進路を避けることなく続航した。
 こうして,豊生丸は,11時50分沖ノ島灯台から075度5.2海里の地点において,原針路,原速力のまま,その船首部が,佐屋形丸の左舷後部に前方から84度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北西風が吹いていた。
 A受審人は,魚群探知機の拭き掃除をしているとき,衝撃を感じて佐屋形丸と衝突したことを知り,事後の措置に当たった。
 また,佐屋形丸は,はえ縄漁業に従事し,汽笛を装備しないFRP製漁船で,平成12年4月に一級小型船舶操縦士免状の交付を受けたB受審人(同16年6月に再交付(流失)を受け,一級小型及び特殊小型の資格を担保する操縦免許証を受有)が単独で乗り組み,あまだいのはえ縄漁を行う目的で,船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,同年5月22日04時00分福岡県沖の島漁港を発し,同漁港北東方5海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで,佐屋形丸の行うあまだいはえ縄漁は,直径約2ミリメートル長さ1,000メートルのテグス糸を幹縄として1鉢と称し,2鉢を繋いで1セットとし,投入時には,1セットの両端にそれぞれ立縄と称する長さ150メートルの索を,同索の上端にタンポ竹と称する浮標識,およびその下端に錨をそれぞれ取り付けて幹縄を海中に延ばして設置し,揚収時には,右舷全部に設置したラインホーラーを使用し,投入開始側から揚収する方法で行っていた。また,1人で揚収作業に当たることから,遠隔操舵操縦装置をラインホーラーの近くに置いていたが,平素,縄の設置方向に船首を向けて自動操舵とし,機関を適宜使用して進行し,1セットの揚収に要する時間は,順調な場合で1時間半ばかり掛かっていた。
 B受審人は,05時ごろ漁場に到着し,はえ縄4セットをそれぞれ北西方向に投入し,朝食をとったり後片付けをしたのち,08時20分ごろから同縄の揚収を開始した。
 11時35分B受審人は,沖ノ島灯台から076度5.2海里の地点で,漁ろうに従事していることを示す形象物を表示することなく,3セット目のはえ縄の揚収作業を開始し,自動操舵により針路を313度に定め,機関を適宜使用して約0.7ノットの対地速力で,前部甲板右舷側に立った姿勢で,ラインホーラーを介して同作業を行っていたところ,同時47分同灯台から075.5度5.2海里ばかりの地点で左舷船首81度1,100メートルばかりのところに豊生丸を視認でき,その後同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で互いに接近していたが,同作業に気を奪われ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行わず,更に接近するに及んで増速するなどの衝突を避けるための措置をとることなく,同じ針路及び速力で続航した。
 こうして,B受審人は,11時50分わずか前ふと左舷方を振り向いたとき,至近距離に迫った豊生丸を認めたが,どうすることもできず,佐屋形丸は,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,豊生丸は船首船底部に亀裂を生じ,のち修理されたが,佐屋形丸は左舷後部に破口を生じてのち水没し,B受審人が,約2週間の通院治療を要する頚椎捻挫を負った。

(原因)
 本件衝突は,沖ノ島北東方沖合において,漁場に向けて航行中の豊生丸と形象物を表示せずにはえ縄を揚収している佐屋形丸とが,衝突のおそれがある態勢で互いに接近した際,豊生丸が,見張り不十分で,佐屋形丸の進路を避けなかったことによって発生したが,佐屋形丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
  A受審人は,沖ノ島北東方沖合において,漁場に向け航行する場合,はえ縄を揚収しながら進行する佐屋形丸を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,周囲を一瞥しただけで,自船の航行に支障となる他船を認めず,海上も平穏であったことから,しゃがみこんだ姿勢で,操舵室前部下方に設置した航海計器類の拭き掃除を行い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,佐屋形丸に気付かず,同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き,自船の船首船底部に亀裂を生じさせ,佐屋形丸の左舷後部に破口を生じさせて水没させ,B受審人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,沖ノ島北東方沖合において,はえ縄を揚収しながら進行する場合,衝突のおそれがある態勢で接近する豊生丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,はえ縄の揚収作業に気を奪われ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,豊生丸に気付かず,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとることなく同作業を続けて衝突を招き,前示のとおり両船に損傷を生じさせ,自身が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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