(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月17日16時00分
福岡県博多港シーサイドももち海浜公園沖
2 船舶の要目
船種船名 |
水上オートバイクールドッグ |
総トン数 |
0.1トン |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
96キロワット |
3 事実の経過
クールドッグ(以下「ク号」という。)は,定員3人のFRP製水上オートバイで,平成9年5月に四級小型船舶操縦士免許を取得し,同16年2月に二級小型船舶操縦士(5トン限定)と特殊小型船舶操縦士免許に更新したA受審人が船長として1人で乗り組み,遊走の目的で,船首尾とも0.3メートルの喫水をもって,平成15年8月17日15時59分53秒福岡タワーから336度(真方位,以下同じ。)200メートルのシーサイドももち海浜公園の波打ち際を発進し,同タワー北方200メートルばかりのところに築造されたマリゾン西方の海域に向かった。
ところで,A受審人は,数年前から前示公園沖の海域において,水上オートバイで遊走していたので,操縦することに慣れていたこととともに,付近の水路事情は十分理解していた。そして,今回,所有者の了解を得てク号に初めて乗艇したものの,5分ばかり遊走して操縦性能を確認したのみであり,ハンドルの切れ具合などの特性を十分に把握していなかった。
発進後,A受審人は,針路を081度に定め,毎時20キロメートルの対地速力(以下「時速」という。)で進行し,15時59分57秒福岡タワーから343.5度205メートルの地点で,反転することとしたが,前方のマリゾンの人工地盤支柱まで20メートルばかりに接近しており,高速力を必要とするスピンターンを試みて失敗すれば同支柱に衝突する危険があったものの,マリゾンに居た多数の観光客によいところを見せようと思い,通常旋回による反転をするなどの適切な操縦方法をとることなく,同分57秒半時速45キロメートルの出力まで上げてスピンターンを試みたところ失敗し,わずかに左転しながら進行した。
A受審人は,15時59分59秒わずか過ぎ,マリゾンの人工地盤支柱まで8メートルばかりとなり,もはや通常旋回では同支柱に衝突することが避けられない状況であったので,再度,スピンターンを試みて操縦ハンドルを左一杯として時速60キロメートルの出力まで上げたが,またも失敗し,急ぎ減速したものの,効なく,ク号は,わずかに左転しながら横滑りして続航中,16時00分福岡タワーから346度217メートルの地点において,336度を向首して時速40キロメートルとなったとき,その船首が円筒形の同支柱に衝突した。
当時,天候は晴で風力1の北風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
衝突の結果,前部カバーが脱落し,A受審人が79日間の入院加療を要する右足かかと骨折の傷などを負った。
(原因)
本件人工地盤支柱衝突は,博多港ももち海浜公園沖において遊走中,前方至近に同支柱がある水域で反転する際,操縦方法が不適切で,高速力を必要とするスピンターンを試み,横滑り状態で同支柱に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,博多港ももち海浜公園沖において遊走中,前方至近に人工地盤支柱がある水域で反転する場合,高速力を必要とするスピンターンを試みると,失敗したときに同支柱に衝突する危険があったから,通常旋回により反転するなどの適切な操縦方法をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,観光客によいところを見せようと思い,適切な操縦方法をとらなかった職務上の過失により,スピンターンを試みて失敗し,同支柱に衝突する事態を招き,前部カバーを脱落させ,自身が79日間の入院加療を要する右足かかと骨折の傷などを負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。