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平成16年門審第94号
件名

漁船みさき丸モーターボート満珠丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年1月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦,長谷川峯清,寺戸和夫)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:みさき丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:満珠丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
みさき丸・・・船首船底に擦過傷
満珠丸・・・両舷中央部に破口及び機関に濡損

原因
みさき丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
満珠丸・・・音響信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,みさき丸が,見張り不十分で,錨泊中の満珠丸を避けなかったことによって発生したが,満珠丸が,音響信号不装備で,避航を促すための音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月16日15時30分
 山口県六連島北西方沖合
 (北緯34度00.6分 東経130度50.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船みさき丸 モーターボート満珠丸
総トン数 9.7トン  
登録長 11.99メートル 7.42メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 301キロワット 22キロワット
(2)設備及び性能等
ア みさき丸
 みさき丸は,平成2年2月に進水した,いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央やや後方に機関室を,同室上部に操舵室を,更にその上に上部操舵室を有する構造で,操舵室中央に舵輪を,同室前部の左舷側から右舷側にかけて,レーダー,魚群探知機,GPSプロッター,磁気コンパス,機関遠隔操縦ハンドルをそれぞれ備えていた。そして,12.5ノットの速力で航行すると,船首浮上と前部両舷に設置した自動いか釣り機とにより,操縦者が操舵室後部の船横方向に渡された板(以下「渡し板」という。)に座った状態では,正船首から左右それぞれ45度の範囲で死角を生じていた。しかし,操縦者が渡し板の上に立って上部操舵室から見張りを行えば,その死角を補うことができる状況であった。
イ 満珠丸
 満珠丸は,昭和52年5月に新規登録されたFRP製モーターボートで,船体中央やや後方に機関室を,同室前方にマストを,その前方に左右各1個のいけすを,更にその前方に物入れ等を有する構造で,操舵室はなく,機関室囲壁の右側に機関の遠隔操縦ハンドルを備え,操舵は同室囲壁の後方で舵棒により行われていた。そして,航海計器として磁気コンパス及び魚群探知機が装備されていた。

3 事実の経過
 みさき丸は,A受審人が1人で乗り組み,いか一本釣り漁の目的で,船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成16年6月16日15時00分山口県下関漁港を発し,沖ノ島北東方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は,15時19分六連島灯台から017度(真方位,以下同じ。)840メートルの地点で,針路を310度に定め,12.5ノットの対地速力で,渡し板に腰を掛け,作動中のレーダーレンジを0.75海里とし,レーダー画面が視野の中にあったものの,漁場のことなどを考えながら,同画面の映像を監視することもなく,自動操舵で進行した。
 15時28分A受審人は,大藻路岩灯標から100度1.4海里の地点に達したとき,正船首770メートルのところに,船首を東方に向けた満珠丸を視認することができ,その後,同船が移動していないことが分かる状況であったが,平素,午後の出港時に同灯標周辺で釣り船を見かけなかったことから,前路に釣り船などはいないものと思い,レーダーを活用した見張りを行うなり,渡し板の上に立って上部操舵室から前方を見渡すなどして,船首方の死角を補う見張りを十分に行っていなかったので,この状況に気付かなかった。
 A受審人は,満珠丸に向かって衝突のおそれがある態勢のまま進行し,その後,同船に更に接近したが,依然として渡し板に腰を掛けたまま死角を補う見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,同船を避けることなく同じ針路及び速力で続航中,15時30分大藻路岩灯標から089度1.1海里の地点において,みさき丸は,その船首が満珠丸の右舷船首に前方から20度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の東風が吹き,視界は良好で,潮候はほぼ低潮時であった。
 また,満珠丸は,B受審人が1人で乗り組み,魚釣りの目的で,船首0.5メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,同日09時00分Cマリーナを発し,六連島北西方沖合の釣り場に向かった。
 ところで,B受審人は,発航するに当たって,満珠丸に有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていなかった。
 B受審人は,09時30分前示衝突地点付近に至って船首から錨を投入し,錨索を50メートルばかり延出して機関を停止し,付近は多数のいか釣り漁船が漁場に行き来する際に通航する海域であったが,錨泊中の船舶が表示すべき形象物を掲げないまま錨泊し,いけすの上に渡した板に腰を掛け,右舷側を向いて竿釣りを開始した。
 15時ごろB受審人は,多数のいか釣り漁船が付近を北上する時間帯になり,いつもの釣り場切り上げの頃合いとなっていたものの,当日,釣餌が残っていたことと釣果がよかったこととから,そのまま魚釣りを続けた。
 B受審人は,15時28分110度に向首した満珠丸の甲板上で右舷側を向いて竿釣りをしていたとき,右舷船首20度770メートルのところに,自船に向かって接近するみさき丸を初認し,同時28分半少し過ぎ同船が,避航の気配をみせないまま,衝突のおそれがある態勢で500メートルまで接近したことを認めたが,航行している他船が錨泊している自船を避けてくれるものと思い,音響信号の不装備で,避航を促すための音響信号を行うことも,更に間近に接近したとき,機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもしなかった。
 満珠丸は,110度に向首して錨泊中,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,みさき丸は船首船底に擦過傷を生じ,満珠丸は転覆して両舷中央部に破口及び機関に濡損を生じたが,のち修理された。

(航法の適用)
 本件は,六連島北西方沖合において,航行中のみさき丸と錨泊中の満珠丸とが衝突したものであり,同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
 海上衝突予防法上,航行中の船舶と錨泊中の船舶との関係について個別に規定した条文はないから,同法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 みさき丸
(1)死角を生じていたこと
(2)A受審人が,死角を生じる速力で航行したこと
(3)A受審人が,前方を見通せない姿勢で当直に当たっていたこと
(4)A受審人が,レーダーを作動させていたものの,レーダーを活用した見張りを行っていなかったこと
(5)A受審人が,死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(6)A受審人が,満珠丸を避けなかったこと

2 満珠丸
(1)漁場に行き来する多数のいか釣り漁船が通航する海域であったこと
(2)B受審人が,錨泊中の船舶が表示すべき形象物を掲げないまま錨泊していたこと
(3)B受審人が,15時以降からは多数のいか釣り漁船が漁場に向け付近を航行することを知っていながら魚釣りを続けたこと
(4)B受審人が,有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていなかったこと
(5)B受審人が,避航を促すための音響信号を行わなかったこと
(6)B受審人が,衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 みさき丸が,適切な見張りを行っていれば,満珠丸を早期に視認でき,余裕のある時機に同船を避けることができたのであるから,A受審人が,死角を補う見張りを十分に行わず,同船を避けなかったことは原因となる。
 死角を生じる速力で航行したこと,前方を見通せない姿勢で当直に当たっていたこと及びレーダーを活用した見張りを行っていなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件衝突と相当な因果関係があるとは認められない。しかし,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 死角を生じていたことについては,構造上やむを得ないことであり,渡し板の上に立って上部操舵室から見張りを行えば,その死角を補うことかができたのであるから,本件発生の原因とするまでもない。
 満珠丸が,避航の気配がないまま自船に向かって接近するみさき丸を認めたのであるから,避航を促すための音響信号を行い,更に間近に接近したとき,機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとらなければならず,同措置をとることを妨げる要因はなんら存在しなかったと認められる。従って,B受審人が,音響信号を行うことができる手段を講じていなかったこと,避航を促すための音響信号を行わなかったこと,衝突を避けるための措置をとらなかったことは原因となる。
 漁場に行き来する多数のいか釣り漁船が通航する海域で,錨泊中の船舶が表示しなければならない形象物を掲げないまま錨泊していたことは,みさき丸が衝突時まで満珠丸を視認していなかったのであるから,同形象物の不表示と本件発生との相当な因果関係があるとは認められない。しかし,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 15時以降からは多数のいか釣り漁船が漁場に向けて付近を航行することを知っていながら,魚釣りを続けたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるものの,本件衝突と相当な因果関係はなく,原因とするまでもないが,今後この経験を生かし,船舶輻輳海域においては,衝突の危険に十分配慮し,音響信号を行うことができる手段を講じたうえ,衝突のおそれのあるまま接近する他船に対し,積極的に避航を促す音響信号を行うという安全意識の高揚が求められるところである。

(海難の原因)
 本件衝突は,六連島北西方沖合において,みさき丸が,漁場に向けて航行する際,見張り不十分で,前路で黒色球形形象物を掲げずに錨泊中の満珠丸を避けなかったことによって発生したが,満珠丸が,音響信号不装備で,避航を促すための音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,六連島北西方沖合において,漁場に向けて航行する場合,船首方に死角を生じることを知っていたのであるから,前路で錨泊している満珠丸を見落とすことのないよう,上部操舵室から前方を見渡すなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,平素,午後の出港時に大藻路岩灯標周辺で釣り船を見かけなかったことから,前路に釣り船などはいないものと思い,死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で錨泊している満珠丸に気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,自船の船首船底に擦過傷を,満珠丸を転覆させて両舷中央部に破口及び機関に濡損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,六連島北西方沖合において,魚釣りをしながら錨泊中,自船に向首して避航の気配をみせないまま,衝突のおそれがある態勢で接近するみさき丸を認めた場合,機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,航行している他船が錨泊している自船を避けてくれるものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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