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平成16年門審第108号
件名

漁船第十一仁洋丸漁船第十七大和丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年1月14日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清,寺戸和夫,上田英夫)

理事官
半間俊士

受審人
A 職名:第十一仁洋丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第十七大和丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第十一仁洋丸・・・左舷船首部に亀裂を伴う凹損
第十七大和丸・・・球状船首の圧壊及び船首外板に亀裂

原因
第十七大和丸・・・見張り不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
第十一仁洋丸・・・見張り不十分,警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は,第十七大和丸が,見張り不十分で,2そうびき底びき網による漁ろうに従事中の第十一仁洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第十一仁洋丸が,見張り不十分で,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月28日09時30分
 山口県角島北北西方沖合
 (北緯34度43.0分 東経130度38.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第十一仁洋丸 漁船第十七大和丸
総トン数 75トン 19トン
全長 33.278メートル  
登録長   19.06メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 478キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第十一仁洋丸
 第十一仁洋丸は,昭和63年6月にC社で建造されて進水し,農林水産大臣から以西底びき網及び沖合底びき網両漁業の許可を受け,僚船のE号(第十一仁洋丸と同型船)と2そうびき底びき網漁業に従事する船首楼付全通一層甲板を有する船首船橋型の鋼製漁船で,操業許可期間が毎年8月16日から翌年5月15日までの以西底びき網漁業に従事する際には主船として,また,同期間が周年の沖合底びき網漁業に従事する際にはE号が主船となってその従船として,それぞれの操業許可区域に出漁していた。
 第十一仁洋丸は,船首端から後方5.5メートルの船首楼上に長さ3.5メートル幅2.5メートルの操舵室が配置され,船橋上部に上甲板上高さ10.5メートルの鋼管製マストを有し,同マストに法定灯火が設備され,操業時には周囲から見えやすい同マスト上部に鼓型形象物を掲げていた。また,操舵室には,中央に舵輪が設けられていたほか,磁気コンパス,レーダー,GPSプロッター,魚群探知機及び機関遠隔操縦装置などが設置されていた。
 同船は,1回の操業が約3時間のE号とによる2そうびき底びき網漁(以下「漁ろう」という。)を1日当たり8回ないし9回行い,漁獲量によって出港後2日ないし1週間の航海を行っていた。また,同操業は,両船が同じ仕立ての漁網をそれぞれ搭載してこれを1回の操業ごとに交互に投網し,漁網の左右先端に接続した直径24ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ200メートルのワイヤロープと直径100ミリ長さ400メートルの合成繊維製ロープとを連結した各1条の曳綱(ひきづな)を両船の船尾からそれぞれ繰り出し,両船の間隔を0.3海里離して約2時間曳網(えいもう)するものであった。
 操業時の就労体制は,漁撈長が主船に乗船して常時船橋当直に就き,主船の漁網による操業時には,曳網を終えて船内に取り込んだのち,漁撈長と機関当直者とを除く他の乗組員が漁獲物処理に当たり,従船は船橋当直に当たる船長と機関当直者を除く他の乗組員が休息し,従船の漁網による操業時には,主船の乗組員が休息をとるようになっていた。
イ 第十七大和丸
 第十七大和丸(以下「大和丸」という。)は,昭和60年11月にD社で建造されて進水し,山口県知事から小型いかつり漁業の許可を受け,同県外海海域において,周年いか釣り漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室が設けられ,同室内に磁気コンパス,舵輪,自動操舵装置,機関遠隔操縦ハンドル,レーダー,魚群探知機,電気水温計及びGPSプロッターが備えられていた。また,集魚灯が船首甲板上に設置されており,自動いか釣り機の漁獲物受け台を跳ね上げて航行すると,これらが障害になり,同室から見て正船首左右各13度の範囲に死角が生じる状況であった。

3 事実の経過
 第十一仁洋丸は,A受審人ほか10人が乗り組み,船長を含めて10人が乗り組むE号を従船とする漁ろうの目的で,船首2.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって,平成15年9月27日03時00分山口県下関漁港を発し,従船とともに同県角島北西方の漁場に向かい,07時ころ漁場に到着し,鼓型形象物を掲げて操業を開始した。
 翌28日08時00分A受審人は,角島灯台から326度(真方位,以下同じ。)26.4海里の地点で,自ら単独の船橋当直に就き,レーダーを12海里レンジとして作動させ,自船の乗組員を船尾甲板で漁獲物の選別作業に当たらせ,鼓型形象物を自船と同様に掲げたE号(以下「従船」という。)の漁網を投入して漁ろうに従事し,針路を090度に定め,機関を全速力前進がプロペラ回転数毎分370のところ250にかけ,速力(対地速力,以下同じ。)が3.0ノットの曳網速力で,操業開始から8回目となる曳網を開始し,左舷正横の従船と0.3海里の距離を保つように,舵輪の後ろに立って手動操舵により進行した。
 09時20分A受審人は,角島灯台から333.5度24.4海里の地点に達し,左舷方に操業を終えて南下する数隻の小型漁船を認めたとき,左舷船首78度1.34海里のところに,大和丸を視認することができ,その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが,自船と従船がともに鼓型形象物を掲げているうえ,2隻が並んで低速で航行している状態を見れば,漁ろうに従事中の漁船であることが分かり,接近する他船がその進路を避けるものと思い,時々レーダー画面を見てはいたものの,周囲の見張りを十分に行うことなく,大和丸に気付かず,GPSプロッターの画面や魚群探知機の映像を見ながら続航した。
 09時25分A受審人は,角島灯台から334度24.2海里の地点に至ったとき,大和丸が同方位1,300メートルのところに接近したが,依然,見張り不十分で,同船に気付かず,警告信号を行うことなく,同時28分少し前大和丸が従船の正船首方約100メートルのところを右方に横切ったことにも気付かずに進行中,09時30分角島灯台から335度24.0海里の地点において,第十一仁洋丸は,原針路,原速力のまま,その左舷船首部に,大和丸の船首が,後方から80度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期に当たり,視界は良好であった。
 また,大和丸は,B受審人ほか1人が乗り組み,いか一本釣り漁の目的で,船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成15年9月27日12時00分山口県湊漁港を発し,角島の北北西方沖合約33海里の漁場に向かい,17時ころ到着して18時00分から操業を始めた。
 B受審人は,翌28日06時00分操業を終え,漁獲したスルメイカ250キログラムを整理したのち,南方約18海里の漁場に移動することとして甲板員を自室で休息させ,08時00分角島灯台から342度35.5海里の地点を発進し,単独の船橋当直に就いて南下を始めた。
 08時52分半B受審人は,角島灯台から337.5度29.1海里の地点で,針路を170度に定め,機関を全速力前進が回転数毎分1,000のところ800にかけ,8.0ノットの速力で,自動操舵によって進行した。
 定針時にB受審人は,6海里レンジとしたレーダーによって右舷船首約25度5海里ばかりのところに2隻が南北に近距離で並んだ状態の映像を探知したが,同映像が遠かったのでレーダー監視を続けずに,レーダーの調整方法を詳しく調べることを思いつき,船首方を向いて床に座り込んでその取扱説明書を読み始め,時々立ち上がって同説明書の記載に従ってレーダー操作を行いながら進行した。
 09時20分B受審人は,角島灯台から335.5度25.4海里の地点に達したとき,右舷船首22度1.34海里のところに,2隻が南北に0.3海里の船間距離で並び,低速で東行しながら漁ろうに従事している第十一仁洋丸及び従船の両船を視認することができ,その後第十一仁洋丸と衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが,レーダーの取扱説明書を読みながら,その記載に従ってレーダー操作を行うことに気を取られ,周囲の見張りを十分に行うことなく,両船に気付かず,右転するなどして両船の進路を避けないまま,同じ針路,速力で続航した。
 09時25分B受審人は,角島灯台から335.2度24.7海里の地点に至ったとき,第十一仁洋丸が同方位1,300メートルのところに接近し,そのまま進行すると,同船と衝突の危険のある状況であったが,依然,見張り不十分で,漁ろうに従事している第十一仁洋丸及び従船の両船に気付かず,同時28分少し前従船の正船首方約100メートルのところを航過して続航中,大和丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,第十一仁洋丸は左舷船首部に亀裂を伴う凹損を生じ,大和丸は球状船首の圧壊及び船首外板に亀裂を生じたが,のちそれぞれ修理された。

(航法の適用)
 本件は,山口県角島の北北西方沖合において,漁ろうに従事中の主船である第十一仁洋丸と,漁場移動のために南下中の大和丸とが衝突したものであり,同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから,一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)によって律することとなる。
 予防法上,両船が互いに他の船舶の視野のうちにある場合において,漁ろうに従事中の船舶と航行中の動力船との関係が同法第18条に規定されており,本件においては,航行中の動力船である大和丸が,漁ろうに従事中の第十一仁洋丸の進路を避けなければならなかったものであり,同法第18条の規定が適用される。また,漁ろうに従事中の第十一仁洋丸が,避航動作をとらずに接近する大和丸に対して警告信号を行わなければならなかったことから,同法第34条が適用される。

(本件発生に至る事由)
1 第十一仁洋丸
(1)A受審人が,他船が接近しても鼓型形象物を掲げて漁ろうに従事中の自船に気付いてその進路を避けるものと思ったこと
(2)A受審人が,周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(3)A受審人が,警告信号を行わなかったこと

2 大和丸
(1)B受審人が,6海里レンジとしたレーダーによって右舷船首約25度5海里ばかりのところに2隻が南北に近距離で並んだ状態の映像を探知したが,同映像が遠かったのでレーダー監視を続けなかったこと
(2)B受審人が,レーダーの調整方法を詳しく調べるために操舵室中央の床に前方を向いて座り,その取扱説明書の記載に従ってレーダー操作を行うことに気を取られたこと
(3)B受審人が,周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(4)B受審人が,第十一仁洋丸の進路を避けずに進行したこと

(原因の考察)
 本件は,山口県角島の北北西方沖合において,両船が互いに他の船舶の視野のうちにある状況の下,漁ろうに従事中の主船である第十一仁洋丸と,漁場移動のために南下中の大和丸とが衝突したものである。
 第十一仁洋丸は,鼓型形象物を船橋上方のマストに掲げ,低速で従船と並航して漁ろうに従事中であり,周囲の見張りを十分に行っていれば,接近する大和丸を視認でき,その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近することから,自船と従船の進路を避ける措置をとっていないことが分かり,警告信号を行うことができたものと思われる。ところが,A受審人は,魚群探知機及びGPSプロッターを見ていて周囲の見張りを十分に行わなかったために,接近する大和丸に気付かず,同船に対して警告信号を行わなかった。
 したがって,A受審人が,周囲の見張りを十分に行わなかったこと及び警告信号を行わなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が,操業を終えて南下する数隻の小型漁船を認めた際,接近する他船が,自船と従船とがそれぞれ鼓型形象物を掲げて漁ろうに従事中であることに気付いて避けるものと思ったことは,見張りを十分に行わなかったことの理由にはなるものの,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,鼓型形象物を掲げて漁ろうに従事中といえども,見張りの重要性を認識し,周囲の見張りを十分に行わなければならない。
 大和丸は,6海里レンジとしたレーダーで右舷船首約25度5海里ばかりのところに,2隻が南北に近距離で並んだ状態の映像を探知したのであるから,引き続きレーダーを監視するとともに,周囲の見張りを十分に行っていれば,漁ろうに従事中である第十一仁洋丸とその僚船を視認でき,その後第十一仁洋丸と衝突のおそれのある態勢で接近する状況であることが分かり,両船の進路を避けることができたものと認められる。ところが,B受審人が,同映像が遠かったのでレーダー監視を続けずに,操舵室中央の床に前方を向いて座り込み,レーダーの調整方法を詳しく調べるためにその取扱説明書を読み始め,時々立ち上がってはいたものの,同説明書の記載に従ってレーダー操作を行うことに気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかったことから,第十一仁洋丸に気付かず,その進路を避けずに進行して同船との衝突に至ったものである。
 したがって,B受審人が,周囲の見張りを十分に行わなかったこと,及び漁ろうに従事中である第十一仁洋丸の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 B受審人が,レーダーで第十一仁洋丸とその僚船の2隻が南北に近距離で並んだ状態の映像を探知したのち,引き続き同映像のレーダー監視を続けなかったこと,及びレーダーの調整方法を詳しく調べるために操舵室中央の床に前方を向いて座り,レーダーの取扱説明書を読みながら時々立ち上がってレーダー操作を行うことに気を取られたことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,同人が周囲の見張りを十分に行っていれば,漁ろうに従事中である第十一仁洋丸及び従船に気付いてその進路を避けることができたものと認められることから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,見張りの重要性を認識し,レーダーによって他船を探知したならば,引き続きレーダー監視を続け,目視によって同船の確認を行うなど,周囲の見張りを十分に行わなければならない。

(海難の原因)

 本件衝突は,山口県角島の北北西方沖合において,漁場移動のために南下中の大和丸が,見張り不十分で,漁ろうに従事中の第十一仁洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第十一仁洋丸が,見張り不十分で,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,山口県角島の北北西方沖合において,漁場移動のために南下する場合,漁ろうに従事中の第十一仁洋丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,レーダーの取扱説明書を読みながら,その記載に従ってレーダー操作を行うことに気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,第十一仁洋丸に気付かず,同船の進路を避けずに進行して衝突を招き,第十一仁洋丸の左舷船首部に亀裂を伴う凹損を,大和丸の球状船首に圧壊及び船首外板に亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,山口県角島の北北西方沖合において,漁ろうに従事する場合,衝突のおそれのある態勢で接近する大和丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,操業を終えて南下する数隻の小型漁船を認めたものの,接近する他船が,自船と従船とがそれぞれ鼓型形象物を掲げて漁ろうに従事中であることに気付いてその進路を避けるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,大和丸に気付かず,警告信号を行わずに進行して同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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