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平成16年門審第75号
件名

漁船林栄丸貨物船フェイス衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年1月11日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治,千手末年,寺戸和夫)

理事官
島友二郎

受審人
A 職名:林栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:フェイス三等航海士

損害
林栄丸・・・右舷船首部外を損壊
フェイス・・・右舷側ハンドレール曲損などの損傷

原因
フェイス・・・横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
林栄丸・・・居眠り運航防止措置不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力行動)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,フェイスが,前路を左方に横切る林栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,林栄丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月12日15時40分少し過ぎ
 響灘
 (北緯34度09.6分 東経130度41.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船林栄丸 貨物船フェイス
総トン数 9.7トン  
国際総トン数   2,485トン
全長 17.20メートル 87.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 426キロワット 1,875キロワット
(2)設備及び性能等
ア 林栄丸
 林栄丸は,昭和61年6月に進水したFRP製漁船で,船体ほぼ中央部に操舵室を設け,同室右舷側に操舵用椅子を設置し,電子ホーン,自動操舵装置を装備し,専らいか一本つり漁業に従事していた。
イ フェイス
 フェイスは,1977年に建造された鋼製船尾船橋型貨物船で,日本と大韓民国との間の貨物輸送に従事していた。

3 事実の経過
 林栄丸は,A受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.28メートル船尾1.43メートルの喫水をもって,平成16年5月12日02時30分福岡県岩屋漁港を発し,04時15分ごろ同漁港北方の漁場に到着して操業にかかり,いか約45キログラムを漁獲したのち,15時03分わずか過ぎ蓋井島灯台から337度(真方位,以下同じ。)12.70海里の地点で,同漁場を発進して帰途に就いた。
 A受審人は,発進後,機関をほぼ全速力前進にかけ,13.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,針路を180度に定めて自動操舵とし,操舵用椅子に腰を掛け,背中を操舵室の側壁などに持たせかけた姿勢で見張りに当たりながら進行した。
 A受審人は,いつものように約6時間の睡眠時間をとっており,且つ,操業模様もいつもと変わりなく,海上平穏で,暖かく,自船の航行に支障となる他船を認めなかったことから,気の緩みと操業の疲れのためか,15時20分ごろ蓋井島灯台から328度9.42海里付近に達したとき眠気を催したが,まさか居眠りに陥るとは思わず,操舵を手動に切り替えたり,操舵室の窓を開放して風に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかったので,同時33分ごろから居眠りに陥った。
 A受審人は,15時37分蓋井島灯台から311度6.60海里の地点に達したとき,左舷船首16度1.15海里のところにフェイスが存在し,その後,同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していたが,このことに気付かず,警告信号を行うことも,更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航中,林栄丸は,15時40分少し過ぎ蓋井島灯台から306度6.15海里の地点において,原針路,原速力のまま,その右舷船首部がフェイスの右舷前部に前方から50度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力3の北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 また,フェイスは,C船長,B指定海難関係人ほか8人が乗り組み,鋼材3,644トンを積載し,船首5.40メートル船尾5.76メートルの喫水をもって,同月9日16時30分木更津港を発し,瀬戸内海を経由して,大韓民国ウルサン港に向かった。
 12日11時45分ごろB指定海難関係人は関門海峡東口で昇橋し,C船長の操船補佐に当たって同海峡を西行して,14時10分ごろ同海峡西口で同船長が降橋し,以後,単独の船橋当直に就いて北西進した。
 15時00分B指定海難関係人は,蓋井島灯台から227度1.50海里の地点に達したとき,針路を320度に定め,機関を全速力前進にかけ,9.0ノットの速力で,自動操舵により進行した。
 15時37分B指定海難関係人は,蓋井島灯台から305度5.55海里の地点に達したとき,右舷船首24度1.15海里のところに林栄丸を初認し,その後,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが,小型漁船である林栄丸が避航するものと思い,早期に右転するなどして同船の進路を避けることなく続航中,同時40分ようやく衝突の危険を感じ,汽笛を吹鳴すると共に左舵一杯をとったが及ばず,フェイスは,原速力のまま310度を向首したとき前示のとおり衝突した。
 C船長は,実務室で書類整理中,自船の汽笛吹鳴に続いた異音を聞いて昇橋し,衝突の事実を知り,事後の措置に当たった。
 衝突の結果,林栄丸は,右舷船首部を損壊し,フェイスは右舷側ハンドレールに曲損などを生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は,響灘において,操業を終えて帰航中の林栄丸と大韓民国に向け航行中のフェイスの両動力船が,互いに他の船舶の視野の内にある状況の下,互いに進路を横切る態勢で衝突したものであり,同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから,一般法である海上衝突予防法第15条によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 林栄丸
(1)自動操舵を使用していたこと
(2)操船者が眠気を催した際,眠気を覚ます措置をとらず,同操船者が居眠りに陥ったこと
(3)操船者がフェイスに対し警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 フェイス

 操船者が林栄丸初認後,早期に避航動作をとらず,同船の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
1 林栄丸が,自船の前路を右方に横切る態勢のフェイスを視認していれば,同船の動静を監視して衝突のおそれがあると判断でき,同船が避航措置をとっていないことが明らか,又は,同措置をとっていることに疑問を感じたとき,警告信号を行い,更に接近しても同船に避航の気配が認められず,同船の動作のみでは衝突を避けることができないと認める状況になったとき,衝突を避けるための最善の協力動作をとっていれば,本件衝突は避けられたものと認められ,フェイスを視認できず,これら一連の措置がとれなかったのは,操船者が居眠りしていたことによるものである。
 A受審人は,本件発生当時,特に疲労の蓄積や睡眠不足その他の眠気を誘発する特段の状況にあったとは認められず,ただ,気の緩みから眠気を催し,居眠りに陥ったものと認められる。しかしながら,眠気を催した際,操舵を手動に切り替えたり,操舵室の窓を開放して風に当たるなど眠気を払拭する方法があったものの,これらの居眠り運航の防止措置をとることができなかった特段の理由はなかったと認められる。したがって,同受審人が眠気を催した際,眠気を覚ます措置をとらず,同人が居眠りに陥ったことと,フェイスに対し警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,自動操舵により航行していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係が認められない。
2 フェイスが,響灘を航行中,自船の前路を左方に横切る態勢の林栄丸を初認後,その動静を監視ののち,衝突のおそれがある態勢で接近していることを知った際,早期に右転するなどして同船の進路を避けていたなら,本件は発生していなかったものと認められる。
 B指定海難関係人が,本件発生前,早期に避航動作をとれなかった特段の理由はなく,早期に避航動作をとらず,林栄丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,響灘において,北西進中のフェイスが,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する林栄丸の進路を早期に避けなかったことによって発生したが,林栄丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は,響灘において,単独で漁場から帰航中,眠気を催した場合,居眠り運航とならないよう,操舵を手動に切り替えたり,操舵室の窓を開放して風に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,椅子に腰を掛けたままの姿勢で続航し,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するフェイスに対し警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き,自船の右舷船首部を損壊させ,フェイスの右舷側ハンドレールに曲損等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告
 B指定海難関係人が,響灘において,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する林栄丸を認めた際,早期に同船の進路を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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