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平成16年神審第85号
件名

貨物船太平丸漁船哲漁丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年1月27日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一,甲斐賢一郎,平野研一)

理事官
佐和 明

受審人
A 職名:太平丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:哲漁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
太平丸・・・右舷船首部外板に搾過痕
哲漁丸・・・右舷船首錨台及び操舵室圧壊

原因
太平丸・・・見張り不十分,行会い船の航法
哲漁丸・・・見張り不十分,行会い船の航法

主文

 本件衝突は,両船がほとんど真向かいに行き会う態勢で接近中,太平丸が,見張り不十分で,針路を右に転じなかったことと,哲漁丸が,見張り不十分で,針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月10日02時18分
 和歌山県市江埼西北西方沖合
 (北緯33度36.8分 東経135度17.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船太平丸 漁船哲漁丸
総トン数 498トン 6.1トン
全長 76.85メートル  
登録長   11.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,103キロワット 250キロワット
(2)設備及び性能等
ア 太平丸
 太平丸は,平成4年11月に進水した限定沿海区域を航行区域とする二層甲板積み船尾船橋型の鋼製コンテナ船で,大阪港,神戸港,名古屋港及び京浜港各港間の定期運航に従事していた。
 船橋にはレーダー2台,自動衝突予防援助装置,GPSプロッタ及びドップラー式ログが装備されていた。
 航海速力は,主機回転数毎分295において,11.5ノットで,旋回径は,左右ともにおおむね140メートル,舵中央から舵角一杯までに要する時間は11秒であった。
イ 哲漁丸
 哲漁丸は,平成3年10月に進水し,一本釣り,刺し網漁業などに従事するFRP製漁船で,船首部から船首甲板,機関室囲壁,甲板上高さ2メートル幅1.8メートルの操舵室及び船尾甲板が配置され,船尾甲板上から前方の見通しは,操舵室の存在により死角を生じていた。
 操舵室にはレーダー,GPSプロッタ,魚群探知機,電動油圧の操舵装置を装備し,船尾甲板上での遠隔操舵も可能であった。
 100ボルト1,000ワットのハロゲン灯が,作業灯として船首甲板に1個,船尾甲板に2個設置され,操舵室の両舷には舷灯が設置されていた。
 船尾甲板左舷側船尾端には,ラインホーラが設置され,操業中は,電力消費の大きいラインホーラを使用するためレーダーを休止していた。

3 事実の経過
 太平丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,コンテナ30本を積載し,船首2.3メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,平成16年4月9日19時40分神戸港を発し,京浜港横浜区に向かった。
 翌10日00時50分A受審人は,紀伊日ノ御埼灯台から166度(真方位,以下同じ。)3.8海里の地点において,一等航海士から船橋当直を引き継ぎ,航行中の動力船の灯火を表示して1人で当直に就き,針路を140度に定め,機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として自動操舵で進行した。
 A受審人は,視界が良かったのでレーダーをスタンバイのまま,船橋内の後壁にもたれて左舷側を向き,発電機の修理が思わしくなかったことを考えながら船橋当直にあたり,02時09分少し前,市江埼灯台から294度7.5海里の地点に達したとき,ほぼ正船首2.0海里のところに哲漁丸の作業灯の灯火を視認し得る状況となったが,一瞥して右舷前方の他の漁船群の灯火を視認しただけで,船首方に他船はいないものと思い,正船首方の見張りを十分に行うことなく,哲漁丸の灯火に気付かず,続航した。
 02時16分少し前A受審人は,哲漁丸が方位の変化がないまま900メートルに近づき,作業灯のほかに紅,緑2灯を視認でき,その後,同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,依然,左舷側を向いて考え事をしたまま,見張りを十分に行っていなかったので,この状況に気付かず,哲漁丸の左舷側を航過できるよう,針路を右に転じなかった。
 太平丸は,原針路,原速力で進行中,02時18分市江埼灯台から286度6.0海里の地点において,同船の右舷船首部と哲漁丸の右舷船首部とが,ほぼ平行に衝突した。
 A受審人は,哲漁丸と衝突したことに気付かず進行し,07時30分海上保安部から停船を命じられ,調査の結果,船首部の痕跡から衝突が判明した。
 当時,天候は晴で風力1の北東風が吹き,潮候は低潮時であった。
 また,哲漁丸は,B受審人が単独で乗り組み,たちうお漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,同月9日21時00分和歌山県南部町堺漁港を発し,同漁港南西方8海里の漁場に至り,操業を開始した。
 ところで,哲漁丸が行うたちうお漁は,長さ50メートル,直径2ミリメートルのワイヤの先端部に重さ10キログラムの錘を付け,その先端付近に長さ320メートルのナイロン製道糸をつなぎ,同道糸に4メートル間隔で枝針を付けた仕掛けを船尾から延出し,道糸の水深を速力で調節しながら曳航するものであった。
 翌10日01時48分B受審人は,市江埼灯台から280度5.2海里の地点において,両舷灯のほか船首及び船尾甲板上を照らす作業灯3個を点灯し,針路を320度に定め,機関を極微速力前進にかけて2.0ノットの速力とし,自動操舵で当日4回目の曳航を開始した。
 B受審人は,船尾甲板において,仕掛けの張り具合を確かめながら,次回の仕掛けの空針にえさを付けるなどの作業にあたり,初めのうちは,操舵室による死角を補うため,時折,右舷側や左舷側に移動して前方の安全を確認していた。
 02時09分少し前B受審人は,市江埼灯台から284度5.8海里の地点に達したとき,正船首方向2.0海里のところに太平丸の白,白,紅,緑4灯を視認し得る状況となったが,船尾甲板で前示作業に専念するうち,死角を補う船首方の見張りを行わなかったので,これに気付かなかった。
 02時16分少し前B受審人は,太平丸が方位に変化のないまま900メートルに近づき,その後,同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,依然,船首方の見張りを行わなかったので,この状況に気付かず,太平丸の左舷側を航過できるよう,針路を右に転じないまま進行中,02時18分少し前船首至近に同船を認めたものの,どうすることもできず,哲漁丸は,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,太平丸は右舷船首部外板に擦過痕を生じ,哲漁丸は右舷船首錨台及び操舵室が圧壊した。

(本件発生に至る事由)
1 太平丸
(1)A受審人が,レーダーを使用しなかったこと
(2)A受審人が,船橋内の後壁にもたれて左舷側を向いて船橋当直にあたっていたこと
(3)A受審人が,見張りを十分に行わなかったこと
(4)A受審人が,針路を右に転じなかったこと

2 哲漁丸
(1)操業中,作業灯を点灯していたこと
(2)夜間,操業中,レーダーを使用できなかったこと
(3)船尾甲板で作業をする際,船首方に死角があったこと
(4)B受審人が,見張りを十分に行わなかったこと
(5)B受審人が,針路を右に転じなかったこと

(原因の考察)
 本件は,太平丸が和歌山県市江埼沖合を南下するにあたり,哲漁丸が作業灯を点灯して北上していても,見張りを十分に行っていれば,ほとんど真向かいに行き会う哲漁丸の両舷灯を視認でき,衝突のおそれがある態勢で接近する同船に対して針路を右に転じて,同船を避けることが可能であったと認められる。
 したがって,A受審人が,見張りを十分に行わず,針路を右に転じなかったことは,本件発生の原因となる。哲漁丸が,十分な見張りを行っていたならば,ほとんど真向かいに行き会う太平丸の航海灯に気付き,針路を右に転じて,同船を避けることが可能であったと認められる。
 したがって,B受審人が,見張りを十分に行わず,針路を右に転じなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,作業灯を点灯していたこと,夜間,操業中,電力消費量の関係からレーダーを使用できなかったこと,哲漁丸の後部甲板で作業をする際,操舵室により船首方に死角が存在したことは,いずれも本件発生の原因とならない。
 A受審人が,レーダーを使用しなかったこと,船橋内の後壁にもたれて左舷側を向いて船橋当直にあたっていたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 
(衝突の原因)
 本件衝突は,夜間,和歌山県市江埼沖合において,南下する太平丸と北上する哲漁丸が,ほとんど真向かいに行き会い,衝突のおそれがある態勢で接近する際,太平丸が,前路の見張り不十分で,哲漁丸の左舷側を航過できるよう,針路を右に転じなかったことと,哲漁丸が,死角を補う前路の見張り不十分で,太平丸の左舷側を航過できるよう,針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,和歌山県市江埼沖合を南下する場合,付近は航行船や漁船などで輻輳している海域であったから,哲漁丸を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船橋内の後壁にもたれ,左舷側を向いて考え事をしていたので,一瞥しただけで正船首方に他船はいないものと思い,十分な見張りを行わなかった職務上の過失により,ほとんど真向かいに行き会い,衝突のおそれがある態勢で接近する哲漁丸に気付かず,その左舷側を通過することができるよう,針路を右に転じないまま進行して同船との衝突を招き,太平丸の右舷船首部に擦過痕を生じさせ,哲漁丸の右舷船首錨台及び操舵室を損壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,和歌山県市江埼沖合において,船尾甲板上で作業をしながら北上する場合,操舵室による死角があったから,太平丸を見落とさないよう,左右に移動するなどして死角を補う前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船尾甲板上でたちうお釣りの準備作業に専念し,死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,ほとんど真向かいに行き会い,衝突のおそれがある態勢で接近する太平丸に気付かず,その左舷側を通過することができるよう,針路を右に転じないまま進行して同船との衝突を招き,前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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