(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月10日18時27分
関西国際空港東方海域
(北緯34度26.0分 東経135度16.8分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
作業船第五十五俊栄丸 |
漁船中丸 |
総トン数 |
19トン |
6.0トン |
全長 |
15.00メートル |
12.73メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
809キロワット |
117キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第五十五俊栄丸
第五十五俊栄丸(以下「俊栄丸」という。)は,平成6年に竣工した船首船橋型の鋼製引船兼作業船で,操舵位置から前方の見通し状況は,良好であった。
なお,当時レーダーは休止中であった。
イ 中丸
中丸は,昭和59年に進水したFRP製漁船で,船体中央部に操縦室があり,操舵位置から前方の見通し状況は,良好であった。
レーダーは装備しておらず,汽笛は,バッテリーの放電が激しかったところから,B受審人が,自分なりに判断して電線を切断し,使用できない状態になっていた。
3 事実の経過
俊栄丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,船首1.1メートル船尾2.1メートルの喫水をもって,平成16年2月10日17時56分関西国際空港(以下「関空」という。)第2期工事区域を発し,大阪府阪南港に向かった。
A受審人は,法定の灯火を表示し,18時20分半大阪航空局北進入灯施設先端灯(以下「先端灯」という。)から174度(真方位,以下同じ。)1.2海里の地点で,針路を045度に定め,機関を全速力前進にかけ,8.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で手動操舵によって進行した。
18時24分A受審人は,関空泉州沖連絡橋(以下「連絡橋」という。)の下にさしかかったとき,右舷方に広がる泉佐野市方面の多数ある明かりの中を西行する中丸の白,紅2灯を,右舷船首43度1.0海里に視認できる状況であったが,右舷方を一瞥して接近する他船はいないものと思い,見張りを十分に行っていなかったので,その存在に気付かなかった。
その後,A受審人は,中丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,このことに気付かず,同船の進路を避けないまま続航し,18時27分わずか前至近に迫った中丸を認め,機関のクラッチを中立にしたものの効なく,18時27分先端灯から126度1,660メートルの地点において,俊栄丸は,原針路,原速力のまま,その右舷船首が中丸の左舷船首部に前方から64度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,潮候は上げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
また,中丸は,B受審人が,1人で乗り組み,アナゴかご漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同日18時17分大阪府佐野漁港を発し,連絡橋西端寄りの漁場に向かった。
B受審人は,法定の灯火を表示し,18時21分少し前先端灯から115度2.5海里の地点で,針路を289度に定め,機関を半速力前進にかけ,15.5ノットの速力で手動操舵によって進行した。
18時24分B受審人は,左舷前方の関空に設置された多数の明かりの中に,同空港に沿って北上する俊栄丸の白,緑2灯を,左舷船首21度1.0海里に視認できる状況であったが,左舷前方を一瞥して接近する他船はいないものと思い,見張りを十分に行っていなかったので,その存在に気付かなかった。
その後,B受審人は,俊栄丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,このことに気付かず,警告信号を行うことも,更に間近に接近しても行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作もとらないまま続航し,18時27分わずか前至近に迫った俊栄丸を認めて右舵をとり,機関の回転数を下げたが効なく,中丸は,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,俊栄丸に損傷はなく,中丸は,左舷船首部を圧壊して廃棄処分され,B受審人が前胸部打撲などを負った。
(本件発生に至る事由)
1 俊栄丸
(1)A受審人が,レーダーを休止していたこと
(2)A受審人が,見張りを十分に行わなかったこと
(3)A受審人が,中丸の進路を避けなかったこと
2 中丸
(1)B受審人が,見張りを十分に行わなかったこと
(2)B受審人が,警告信号を行わなかったこと
(3)B受審人が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
俊栄丸は,A受審人が,十分な見張りを行っていれば,中丸の進路を避けることは可能であったと認められる。
したがって,A受審人が十分な見張りを行っていなかったこと及び中丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
中丸は,B受審人が,十分な見張りを行い,汽笛が使用可能な状態であったならば,警告信号を吹鳴し,その後,俊栄丸の動静に応じて,機関を後進にかけて行きあしを止めるなど,衝突を避けるための協力動作をとる手段があり,衝突を回避することは十分に可能であったものと認められる。
したがって,B受審人が十分な見張りを行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,レーダーを休止していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,装備された機器の有効利用については,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,関空東方海域において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北上中の俊栄丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る中丸の進路を避けなかったことによって発生したが,西行中の中丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,俊栄丸との衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,関空東方海域を北上する場合,右舷方の泉佐野市方面に多数の明かりが存在していたから,接近する中丸を見落とさないよう,レーダーを活用するなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,右舷方を一瞥して接近する他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,中丸に気付かず,その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き,同船の左舷船首部を圧壊させ,B受審人に前胸部打撲などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,夜間,関空東方海域を西行する場合,左舷前方の関空に多数の明かりが存在していたから,同空港に沿って北上する俊栄丸を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷前方を一瞥して接近する他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,俊栄丸に気付かず,警告信号を行うことも同船との衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して俊栄丸との衝突を招き,前示のとおり損傷を生じさせ,自身が負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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