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平成16年神審第83号
件名

漁船金比羅丸漁船良福丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年1月21日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學,田辺行夫,平野研一)

理事官
佐和 明

受審人
A 職名:金比羅丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:金比羅丸甲板員 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
金比羅丸・・・船首部外板に擦過傷,右舷中央部外板に凹損
良福丸・・・左舷中央部外板に破口,船首部及び操縦室左舷中央部を圧壊船長が溺死

原因
金比羅丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
良福丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,金比羅丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る良福丸の進路を避けなかったことによって発生したが,良福丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月14日04時55分
 紀伊水道
 (北緯33度45.7分 東経134度54.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船金比羅丸 漁船良福丸
総トン数 13.47トン 2.7トン
登録長 14.87メートル 9.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 30 70
(2)設備及び性能等
ア 金比羅丸
 金比羅丸は,昭和55年10月に進水した船体中央部に操縦室を有する軽合金製漁船で,主として紀伊水道における小型底びき網漁業に従事していた。
イ 良福丸
 良福丸は,昭和57年10月に進水した音響信号装置を有しないFRP製小型漁船で,主として紀伊水道における一本釣り漁業に従事していた。

3 事実の経過
 金比羅丸は,平成15年1月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人,同年2月に交付された同資格免状を有するB受審人ほか1人が乗り組み,小型底びき網漁業に従事する目的で,船首0.2メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,同16年3月14日03時00分和歌山県箕島漁港を発し,紀伊水道南部海域に当たる徳島県伊島南東方沖合10海里付近の漁場へ向かった。
 A受審人は,出港操船に引き続いて船橋当直に当たり,和歌山県宮崎ノ鼻を替わり,紀伊水道の広い海域に達したところで,B受審人に当直を委ね,予め設定しておいた前示漁場に至るGPSの針路に沿って進むように指示したのち,自らは操舵室内後部に設けられた仮眠ベッド代わりの台上に横になった。
 ところで,A受審人は,B受審人が金比羅丸に乗船して以来,見張りや避航方法などについて丁寧な指導を行っていたうえ,同人の紀伊水道における単独での当直が優に100回を越え,航海当直に関する十分な技量を有していたことから,船長として自らが出港操船を行ったのち,十分広い海域に達したところで当直を委ねたのであった。
 B受審人は,A受審人から当直を引き継いだのち,補助見張り員の甲板員とともに船橋当直に当たって紀伊水道を南下し,04時00分紀伊日ノ御埼灯台から298度4.1海里の地点に達したとき,針路を204度に定め,機関を全速力前進の回転数毎分2,500にかけ,11.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,法定灯火を表示して,自動操舵によって進行した。
 そして,04時53分B受審人は,伊島灯台から134度6.7海里の地点に至ったとき,右舷船首24度1,580メートルのところに,良福丸が表示する白,紅の2灯を視認することができ,やがて,同船が自船の前路を左方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,右舷前方20ないし40度の範囲に,見張りの妨げとなる非常に明るい作業灯を点灯した50隻ばかりの漁船が操業していたことから,同漁船群の動静などに気を取られ,見張りを十分に行わなかったので,それらの明るい作業灯に紛れていた良福丸が表示する灯火を見落とし,同船の存在に気付くことなく続航した。
 こうして,B受審人は,その後も,見張りを十分に行わず,良福丸の存在に気付かないまま,同船の進路を避けることなく進行中,04時55分伊島灯台から137度6.8海里の地点において,金比羅丸は,原針路,原速力で,その船首が良福丸の左舷中央部に前方から40度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の西風が吹き,視界は良好であった。
 また,良福丸は,船長Cが1人で乗り組み,たちうお漁の目的で,平成16年3月13日18時00分和歌山県日高港を発し,約1時間半後,伊島南東方沖合5ないし7海里付近の漁場に至り,操業を開始した。
 翌14日早朝,C船長は,操業を終えて帰途につき,04時47分伊島灯台から155度6.5海里の地点で,関西電力御坊発電所にある煙突の航空障害灯を船首目標として,針路を064度に定め,機関を全速力前進にかけ,16.0ノットの速力で,法定灯火を表示して,手動操舵によって進行した。
 そして,04時53分C船長は,伊島灯台から141.5度6.7海里の地点に至ったとき,左舷船首16度1,580メートルのところに,金比羅丸が表示する白,緑の2灯を視認することができ,やがて,同船が自船の前路を右方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,見張りを十分に行わなかったので,同船が表示する灯火を見落とし,その存在に気付くことなく続航した。
 こうして,C船長は,その後も,見張りを十分に行わず,金比羅丸の存在に気付かないまま,同船が間近に接近しても,衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中,良福丸は,原針路,原速力で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,金比羅丸は,船首部外板に擦過傷を生じ,良福丸は,左舷中央部外板に破口を生じるとともに操縦室左舷中央部を圧壊した。また,C船長(小型船舶操縦士免許受有)が海中に転落し,のち溺死体で発見された。
 更に,無人となった良福丸は,衝突後も停止することなく右回りに回頭を続け,しばらくして,再び,その船首が停止していた金比羅丸の右舷中央部に直角に衝突し,両船とも前示損傷に加え,金比羅丸は右舷中央部外板に凹損を生じ,良福丸は船首部を圧壊した。

(航法の適用)
 本件は,夜間,紀伊水道において,南下中の金比羅丸と東行中の良福丸の両船が,互いに視野の内にあり,かつ,互いに進路を横切る態勢で衝突したことに疑う余地はない。
 よって,海上衝突予防法第15条横切り船の航法をもって律することとする。

(本件発生に至る事由)

1 金比羅丸
(1)A受審人が,B受審人に船橋当直を委ねて休息中,当直を引き継いだ同人が,右舷前方の明るい作業灯を点灯した漁船群の動静に気をとられ,見張りを十分に行わなかったこと
(2)B受審人が,漁船群に紛れていた良福丸の存在に気付かず,同船の進路を避けることなく進行したこと

2 良福丸

 C船長が,見張りを十分に行わず,衝突を避けるための協力動作をとることなく進行したこと

(原因の考察)
 金比羅丸は,夜間,紀伊水道において,漁場へ向けて南下中,船橋当直者が,右舷前方に見張りの妨げとなる明るい作業灯を点灯した漁船群を認めたとき,その動静に気を取られることなく,見張りを十分に行っていれば,視界が良かったのであるから,同漁船群の灯火に紛れて接近する良福丸が表示していた灯火を視認することは容易であり,同灯火を見落とすことがなければ,良福丸の存在に気付き,その進路を避けることは十分に可能であったものと認められる。
 したがって,B受審人が,見張りを十分に行わず,良福丸の進路を避けることなく進行したことは,本件発生の原因となる。
 A受審人は,自らが出港操船を行い,紀伊水道の広い海域に達したところで,海技免許を有しているB受審人に船橋当直を委ねたものであり,同人の船長としての職責は十分に果たしていたものと認められる。
 したがって,A受審人が,同海域でB受審人に船橋当直を委ねたことは,本件発生の原因とならない。
 一方,良福丸は,夜間,紀伊水道において,漁場から発航地へ向けて帰航中,法定灯火を表示した金比羅丸が,左舷前方から衝突のおそれがある態勢で接近する状況となった場合,船長が,見張りを十分に行っていれば,同船の灯火を視認することは容易であり,衝突を避けるための協力動作をとることは可能であったものと認められる。
 したがって,C船長が,見張りを十分に行わず,金比羅丸が間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,紀伊水道において,漁場へ向けて南下中の金比羅丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近する良福丸の進路を避けなかったことによって発生したが,東行中の良福丸が,見張り不十分で,金比羅丸が間近に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,紀伊水道において,漁場へ向けて南下中,右舷前方に非常に明るい作業灯を点灯した漁船群を認めた場合,見張りの妨げとなるような状況であったことから,それらに紛れて接近する船舶が表示する灯火を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,同漁船群の動静などに気を取られ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,法定灯火を表示した良福丸が前路を左方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き,自船の船首部外板に擦過傷を生じさせ,良福丸の左舷中央部に破口及び操縦室左舷中央部を圧壊させるとともに,C船長の海中転落を招き,同人を溺死させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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