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平成16年神審第84号
件名

油送船第二十一栄丸灯標衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年1月20日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一,甲斐賢一郎,中井 勤)

理事官
阿部直之

受審人
A 職名:第二十一栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第二十一栄丸甲板員 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
第二十一栄丸・・・左舷船首ハンドレール曲損及び船首ブルワークに凹損
灯標・・・頭標取付金物など曲損

原因
船位確認不十分

主文

 本件灯標衝突は,船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月7日20時40分
 兵庫県姫路港
 (北緯34度43.9分 東経134度37.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船第二十一栄丸
総トン数 199トン
全長 45.81メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット
(2)設備及び性能等
 第二十一栄丸(以下「栄丸」という。)は,平成7年6月に進水し,限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型鋼製油送船で,バウスラスターを有し,操舵室前面から船首端までの距離が約35メートル,本件当時の喫水で眼高が約4メートルで,船首方に死角を生じさせる構造物はなかった。
 操舵室には,前壁中央にジャイロコンパスのレピータが設置され,その後方には,ジャイロコンパス及び舵輪が,中央から左側には操舵切替器,GPSプロッタ及びレーダー2台が,中央から右側には機関操縦ハンドル及び機関室監視盤がそれぞれ設置され,後部壁中央に配電盤とともに船長室への呼出しベル用ボタンが,後部左舷側には海図台が設置されていた。

3 事実の経過
 栄丸は,A及びB両受審人ほか1人が乗り組み,A重油約150キロリットルを積載し,船首1.3メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,平成15年12月7日15時15分水島港を発し,播磨灘北航路を経由し,姫路港沖の錨地に向かった。
 A受審人は,出航にあたり,姫路港広畑区に錨泊し,翌日着桟する予定で出入港操船を行うこととしていた。
 広畑航路第1号灯標(以下「第1号灯標」という。)は,広畑区に位置し,東西に広がる姫路港へ向け南から北に設定された幅350メートル長さ4キロメートルの広畑航路の南西端に設置された東方位標識で,その灯質は白色の毎10秒に3急閃光で,海図W1113(播磨灘北部)にはその灯質及び位置が記載されていた。また,同航路南西端の西側には,東西に2.5キロメートル南北1.3キロメートルの範囲にのり養殖施設(以下「養殖施設」という。)が設置されていた。
 栄丸には,姫路港付近の海図として,大尺度海図W134B(姫路港西部)が備えられず,海図W1113は備えられていたが,他の海図とともに未整理のまま納められたうえ,海図台の上は荷物置き場として使用されていたので,海図W1113を海図台から出していなかった。
 A受審人は,夜間,姫路港に接近する際,陸の明かりで灯標が紛れやすかったので,余裕をもって昇橋して自ら入港操船ができるよう,船橋当直者に対し,予定針路及び報告地点を海図に書き込むなどして,同港へ近づいたときの報告地点について具体的に指示する必要があった。
 A受審人は,出航操船後,しばらく船橋当直にあたり,17時30分香川県豊島の北西1.8海里付近において,B受審人に当直を引き継ぐ際,同人の乗船経験が長いので任せておけば大丈夫と思い,海図台に置いてある当直者心得に姫路港に近づいたら知らせるよう記載しただけで,具体的な報告地点を指示しなかった。
 B受審人は,船橋中央の舵輪の後方に立って当直にあたり,19時55分尾崎鼻灯台から304度(真方位,以下同じ。)2.6海里の地点で,針路を080度に定め,機関を全速力前進にかけ,8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行した。
 20時28分B受審人は,広畑航路入口まで約2海里の広畑東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から221度3.3海里の地点に達したとき,A受審人へ報告すべき海域に至ったが,報告地点の具体的指示がなかったので,休息時間が十分でなかったA受審人に気を使い,姫路港に接近したことを報告しなかった。
 このとき,B受審人は,左舷方の養殖施設に接近しないようレーダー画面に気を付けていたので,船首左舷方向に白灯を視認したが,一瞥しただけで陸の明かりと思い,海図W1113を海図台から出してその灯質及び位置を確認するなど,船位の確認を十分に行うことなく続航中,20時38分東防波堤灯台から200度2.4海里の地点に達したとき,白灯を認めたまま自動操舵で針路を035度に転じ,第1号灯標に向首したことに気付かず進行した。
 転針後,B受審人は,A受審人に姫路港に近づいたことを報告するため,船橋後部壁に移動して呼出しベル用ボタンを2回押して,前方を振り返ったところ,20時40分少し前左舷前方至近に第1号灯標の急閃光を認めたが,どうすることもできず,栄丸は,原針路,原速力で20時40分広畑東防波堤灯台から198度2.15海里の地点において,その左舷船首部が同灯標に衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 自室で書類整理にあたっていたA受審人は,呼出しベルが鳴ったので直ちに昇橋したところ,第1号灯標との衝突に気付き,事後の措置にあたった。
 衝突の結果,栄丸は,左舷船首ハンドレールに曲損及び船首ブルワークに凹損を生じ,第1号灯標は,頭標取付金物などに曲損を生じたが,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 海図W134Bを備えていなかったこと
2 海図が未整理で海図W1113が海図台から出されていなかったこと
3 A受審人が,船橋当直を引き継ぐ際,船橋当直者に対して姫路港に接近したときの報告地点について海図を利用するなどして具体的に指示せず,自ら操船できなかったこと
4 B受審人が,姫路港に接近した際,船長が入港操船できるよう,余裕をもって船長にその旨を報告しなかったこと
5 B受審人が,船位を確認することなく,進行したこと
6 B受審人が,転針方向に白灯を視認した際,その灯質を確認しないまま転針したこと

(原因の考察)
 船長が,船橋当直を引き継ぐ際,船橋当直者に対して姫路港に接近したときの報告地点について海図を利用するなどして具体的に指示していれば,自ら入港操船することができ,本件衝突を回避することは十分可能であったと認められる。
 したがって,A受審人が,船橋当直を引き継ぐ際,船橋当直者に対して姫路港に接近したときの報告地点を具体的に指示せず,自ら入港操船できなかったこと及び,B受審人が,船長が入港操船できるよう余裕をもって船長へ報告しなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,B受審人が,姫路港に接近する際,第1号灯標の灯質及び位置が記載された海図W1113を海図台から出して船位を確認していれば,第1号灯標の急閃光を認識でき,同灯標に向首進行することはなかった。
 したがって,A受審人が,姫路港に接近する際,船位を確認しなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,当時,備えられていた海図W1113には,第1号灯標の灯質及び位置の記載があり,第1号灯標を識別できたので,大尺度海図W134Bが備えられていなかったこと及び,B受審人が,転針方向に白灯を認めた際,灯質を確認しないまま転針したことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件灯標衝突は,夜間,兵庫県姫路港に接近する際,第1号灯標の灯質及び位置が記載された海図を出して船位の確認を十分に行うことなく進行し,転針して同灯標に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直を引き継ぐ際,自ら入港操船できるよう,船橋当直者に対して報告地点について具体的に指示しなかったことと,船橋当直者が,余裕をもって船長へ報告しなかったことと,船位の確認を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,甲板員に船橋当直を行わせる場合,自ら兵庫県姫路港への入港操船ができるよう,船橋当直者に対して報告地点について海図を利用するなどして具体的に指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,船橋当直者が栄丸での乗船経験が長いので任せておけば大丈夫と思い,船橋当直者に対して報告地点を具体的に指示しなかった職務上の過失により,第1号灯標に向首進行して衝突を招き,栄丸の左舷船首ハンドレールに曲損及び船首ブルワークに凹損を,第1号灯標の頭標取付金物などに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,兵庫県姫路港に接近する場合,灯標が陸の明かりに紛れやすかったから,第1号灯標に向首進行しないよう,同灯標の灯質及び位置が記載された海図を出して船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,白灯を一瞥しただけで陸の明かりと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,第1号灯標に気付かず,転針し,同灯標に向首進行して衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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