(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月31日10時28分
徳島小松島港
(北緯34度00.6分 東経134度35.3分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船淡州丸 |
総トン数 |
142トン |
全長 |
37.0メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
3 事実の経過
淡州丸は,平成9年6月に竣工し,セメント輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で,A及びB両受審人が乗り組み,出渠後の海上試運転のため徳島県小松島市のC造船所の作業員5人を乗せ,空倉のまま,船首0.45メートル船尾2.00メートルの喫水をもって,平成15年10月31日09時30分同造船所を発し,徳島小松島港小松島区第3区において主機の試運転を行ったのち,係留予定の同第1区のポートサービスふ頭に向かった。
淡州丸の主機は,定格回転数毎分600の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を装備し,操舵室から空気式遠隔操縦装置(以下「遠隔操縦装置」という。)によって操作されるようになっていた。
遠隔操縦装置は,操舵室にある1本の遠隔操縦ハンドルで逆転減速機(以下「クラッチ」という。)の前後進と主機回転数を制御できるもので,その制御空気は,主空気槽から減圧弁を経て供給される,圧力が7キログラム毎平方センチメートル(以下圧力単位については「キロ」という。)の圧縮空気で,遠隔操縦ハンドルを中立位置から前方または後方に操作することにより,クラッチ内の空気シリンダのピストンが移動して前後進を制御するもので,圧縮空気圧力が2キロ以下に低下するとクラッチが切り替わらなくなり,操縦不能に陥るおそれがあった。
また,操舵室には,制御空気圧力計,主機の非常停止スイッチ,制御空気圧力低下警報装置(以下「警報装置」という。)などが備えられ,機関室には,警報装置が組み込まれた機関室警報盤の電源投入スイッチが備えられていた。
警報装置は,前示減圧弁にドレンが混入するなどして,圧縮空気の供給が阻害され制御空気の圧力が5キロ以下に低下すると,機関室のベル及び操舵室のブザーで,異常を知らせるものであった。
ところが,B受審人は,発航準備作業を行うにあたり,機関室警報盤に関わる工事がなかったので,同電源は入っているものと思い,機関室警報盤の電源が投入されていることを確認しないまま,海上試運転の作業にとりかかり,制御空気圧力低下の警報装置が作動しない状況となったことに気付かなかった。
A受審人は,10時20分小松島南防波堤灯台から100度(真方位,以下同じ。)480メートルの地点に達し,機関回転数毎分750の10.0ノットの対地速力で,290度の針路で防波堤入口に接近していたとき,主機遠隔操縦盤の制御操縦空気圧力計が通常よりかなり下がっていることに気付いたが,警報装置が作動していないので大丈夫と思い,速やかに安全な海域において錨泊するなど入港を中止し,制御空気圧力低下の調査をB受審人に指示することなく,進行した。
A受審人は,南防波堤を通過し,10時22分小松島南防波堤灯台から320度170メートルの地点に達したとき,機関を微速力前進に減じ,機関回転数毎分420の5.0ノットの対地速力で適宜ポートサービスふ頭に向かう針路で続航中,10時25分少し過ぎ,予定着岸地点の250メートル手前で主機操縦ハンドルを中立の位置に操作したが,制御空気圧力が低下していてクラッチが中立に切り替わらないまま進行中,10時26分半予定着岸地点を通過した頃,甲板上で待機していたB受審人に投錨を指示して右舷錨6節を投入したが効なく,淡州丸は,10時28分小松島南防波堤灯台から284度890メートル地点の岸壁に原速力のまま,000度の針路でほぼ直角に衝突した。
当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,潮候は高潮時であった。
衝突の結果,淡州丸は船首部外板に数箇所の凹損等を生じ,岸壁はコンクリートを一部欠損したが,のちいずれも修理された。
(原因)
本件岸壁衝突は,徳島小松島港において,出渠後の発航準備作業を行う際,機関室警報盤の電源投入の確認が不十分で,空気式遠隔操縦装置の制御空気圧力低下警報装置が作動しなかったことと,操舵室制御空気圧力計の圧力低下を認めた際,速やかに錨泊するなど入港を中止し,制御空気圧力低下の調査をしないまま進行したこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,操舵室において入航操船中,制御空気圧力計の圧力低下を知った場合,制御空気圧力が低下すれば主機は操縦不能となって危険であるから,岸壁に衝突しないよう,速やかに錨泊するなど入港を中止し,制御空気圧力低下の調査を機関長に指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,警報装置が作動していないので大丈夫と思い,速やかに錨泊するなど入港を中止し,制御空気圧力低下の調査を機関長に指示しなかった職務上の過失により,クラッチが前進位置のまま進行して,岸壁衝突を招き,船首部外板に凹損を生じさせ,岸壁のコンクリートを一部欠損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,出渠後の発航準備作業のため空気式遠隔操縦装置を備えた主機を始動する場合,制御空気圧力が低下すれば主機は操縦不能となって危険であるから,機関室警報盤の電源投入を確認すべき注意義務があった。しかるに,同人は,機関室警報盤に関わる工事がなかったので,電源は入っているものと思い,機関室警報盤の電源投入を確認しなかった職務上の過失により,空気圧力低下の異常に気付かず,そのまま進行して岸壁衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。