(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年6月17日06時25分
茨城県日立港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船福栄丸 |
遊漁船友美丸 |
総トン数 |
4.93トン |
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登録長 |
11.62メートル |
12.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
316キロワット |
316キロワット |
3 事実の経過
福栄丸は,船尾甲板に揚網用ボールローラーを装備した,固定式刺網漁業に従事するFRP製漁船で,昭和52年2月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,漁網100キログラムを載せ,ひらめを対象とする刺網漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年6月17日03時30分茨城県磯崎漁港を発し,日立港東方沖合の漁場に向かった。
04時10分A受審人は,海上が明るくなったとき,水深約70メートルの漁場に至り,漁ろうに従事している船舶の形象物を表示しないまま,機関を回転数毎分500にかけてクラッチを中立とし,油圧駆動のボールローラーを運転し,前回操業時に下端を海底に係止した長さ約600メートル幅約2メートルの刺網3張りの揚網を開始した。
A受審人は,船首を北に向け,右舷船尾端のブルワークに左舷側を向いて腰掛け,刺網を船尾から毎分約15メートルの速さで巻き込みながら網にかかった魚を外し,南北方向に入れた網の北端から南方に移動した。
06時21分少し前A受審人は,日立灯台から081度(真方位,以下同じ。)7.2海里の地点で,000度を向首し,3張り目の網を巻き揚げて漁ろうに従事していたとき,左舷船尾78度1.0海里のところに自船にほぼ向首する友美丸を初認し,揚網作業を続けながら同船を監視していたところ,06時24分少し前同船を同方位500メートルに見るようになり,その後衝突のおそれがある態勢で接近していたので不安を感じ,至近に近付いたら機関を使用して移動しようと考え,ボールローラーの運転を止めて操舵室後部に赴いた。
A受審人は,揚網を中断したまま友美丸の監視を続け,同船が自船の進路を避けないで間近に接近するのを認めたが,そのうちに同船が自船を避けるものと思い,備付けの電子ホーンを使用して警告信号を行わず,06時25分少し前同船が100メートルに迫ったとき,危険を感じて操縦ハンドルを前進に入れ,回転を上げようとしたものの,思うように前進できず,福栄丸は,000度を向首したまま停留中,06時25分日立灯台から081度7.2海里の地点において,友美丸の船首が福栄丸の左舷船尾に前方から82度の角度で衝突した。
当時,天候は晴でほとんど風はなく,潮候は下げ潮の中央期であった。
また,友美丸は,旅客定員12人のFRP製遊漁船で,平成7年12月に一級小型船舶操縦士免許を取得したB受審人が一人で乗り組み,釣り客3人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,同日05時50分茨城県久慈漁港を発し,日立港沖合の釣り場に向かった。
B受審人は,港内を低速で航行して防波堤の外に至り,05時56分日立灯台から130度0.6海里の地点で,針路をGPSプロッタに入力した釣り場に向けて078度に定め,全速力で航行すれば約16ノットのところ,急ぐ必要がなかったので減速して14.0ノットの対地速力で進行した。
ところで,B受審人は,全速力で航行すると船首が浮上して船首方向に死角を生じるので,平素船首を左右に振って死角を補うように努めており,このとき減速していたものの船首両舷各7度ばかりの範囲が死角となり,操舵位置から同方向の水平線を視認することができなかった。
06時05分B受審人は,日立灯台から089度2.5海里の地点で,操舵室中央の舵輪後方に立ち,手動で操舵していたとき,6海里レンジで使用中のレーダーをいちべつし,正船首少し左方約5海里に福栄丸ほか2隻の船の映像を探知したが,距離が遠くて肉眼では視認することが困難で,その後これらの船に注意を払わないないまま続航した。
06時21分少し前B受審人は,日立灯台から082度6.3海里の地点に達したとき,正船首方1.0海里に福栄丸が存在し,そのころ船首死角の左右にそれぞれ1隻の漁船を認めたが,レーダーで探知した映像が3隻であったことを忘れ,船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行わなかったので,福栄丸の存在に気付かなかった。
06時24分少し前B受審人は,日立灯台から081度6.9海里の地点で,正船首500メートルに福栄丸を視認することができ,同船が,所定の形象物を表示していなかったものの,船尾甲板のボールローラーに刺網を巻き込んでいる状況から漁ろうに従事している船舶であることが分かり,その後同船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近したが,船首方向に他船がいないものと思い,依然船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,福栄丸の進路を避けないで進行中,06時25分わずか前左舷船首方至近に福栄丸船首部を認め,驚いて右舵一杯とし機関を後進にかけたが及ばず,098度を向首したとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,福栄丸は,左舷船尾甲板が破損してカイシング,船尾マスト及びボールローラーなどに損傷を生じ,友美丸は,左舷船首部に亀裂を生じてハンドレールが曲損したが,のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は,茨城県日立港東方沖合において,友美丸が,釣り場に向け航行中,見張り不十分で,漁ろうに従事している福栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,福栄丸が,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,茨城県久慈漁港から沖合の釣り場に向け航行する場合,船首が浮上して死角を生じていたのであるから,前路の福栄丸を見落とさないよう,船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,船首方向に他船がいないものと思い,船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漁ろうに従事している福栄丸に気付かず,同船の進路を避けないで進行して衝突を招き,福栄丸の左舷船尾甲板を破損してカイシング,船尾マスト及びボールローラーなどに損傷を生じさせるとともに,友美丸の左舷船首に亀裂及びハンドレールに曲損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は,茨城県日立港東方沖合において,刺網の揚網中,衝突のおそれがある態勢で接近する友美丸が,自船の進路を避けないで間近に接近した場合,備付けの電子ホーンを使用して警告信号を行うべき注意義務があった。しかし,同人は,そのうちに友美丸が自船を避けるものと思い,備付けの電子ホーンを使用して警告信号を行わなかった職務上の過失により,友美丸が自船に気付かないまま接近して衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。