(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月28日01時20分
紀伊半島南東岸沖合熊野灘
(北緯33度35.2分 東経136度05.4分)
2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 |
貨物船第十日徳丸 |
貨物船明和丸 |
総トン数 |
748トン |
334トン |
全長 |
84.22メートル |
52.76メートル |
機関の種類 |
ディーゼル |
機関ディーゼル機関 |
出力 |
1,368キロワット |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第十日徳丸
第十日徳丸(以下「日徳丸」という。)は,平成8年11月に進水した船尾船橋型の貨物船兼砂利運搬船で,主に石灰石や砕石の輸送に従事し,船橋にレーダー2台,GPS及びジャイロコンパスを装備していた。
試運転最大速力は13.66ノット,最短停止距離は548メートルで,旋回径は,左旋回が234メートル,右旋回が221メートルであった。
イ 明和丸
明和丸は,平成4年2月に進水した,液体化学薬品のばら積輸送に従事する船尾船橋型貨物船で,主に水島,徳山下松,宇部,四日市,京浜及び鹿島各港に寄港し,船橋にレーダー,GPS及び磁気コンパスを装備していた。
試運転最大速力は11.47ノット,最短停止距離は298メートルで,旋回径は,左旋回が172メートル,右旋回が146メートルであった。
3 事実の経過
日徳丸は,船長D及びA受審人ほか3人が乗り組み,空倉で,船首1.95メートル船尾3.20メートルの喫水をもって,平成16年7月27日17時30分三重県松阪港を発し,高知県高知港に向かった。
23時30分A受審人は,三木埼灯台から128度(真方位,以下同じ。)12.0海里の地点で,単独の船橋当直に就き,針路を230度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,13.3ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
定針したときA受審人は,右舷船首方向視界内に明和丸が同航中で,その後次第に同船と接近する状況であったが,使用中のレーダーを見なかったうえ,肉眼による見張りを十分に行わず,同船の存在に気付かないまま,窓やドアを閉めて冷房した船橋内に漫然と在橋し,翌28日01時00分梶取埼灯台から073度10.4海里の地点に達したとき,右舷船首方830メートルに明和丸の船尾灯を視認することができたものの,依然見張り不十分で同船に気付かず,操舵室右舷側後部にある海図台の前に船尾方を向いて立ち,書類の記載を始めた。
01時08分A受審人は,梶取埼灯台から077度8.8海里の地点に達したとき,明和丸の船尾灯を右舷船首17度500メートルに認めることができ,その後同船を追い越し衝突のおそれがある態勢で接近したが,海図台で書類の記載に専念し,見張りを十分に行わなかったのでこのことに気付かず,同船を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行中,01時20分日徳丸は,梶取埼灯台から088度6.5海里の地点において,原針路,原速力のまま,その右舷船首部が明和丸の左舷後部に後方から2度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
A受審人は,直ちに機関を中立とし,衝突に気付いて昇橋したD船長とともに事後の措置にあたった。
また,明和丸は,B,C両受審人ほか2人が乗り組み,空倉で,船首2.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,同月27日15時10分名古屋港を発し,山口県宇部港に向かった。
B受審人は,船橋当直を一等航海士,甲板長及び自らの3人による4時間交替の単独当直とし,同日20時少し前から船橋当直に就いて紀伊半島南東岸沖合を西行し,23時45分三木埼灯台から154度11.6海里の地点で,次直のC受審人と交替することとし,串本港沖合では船舶の往来が多いものの,以前同人が押船の船長として紀伊半島沿岸を幾度も航行した経験があり,睡眠不足や疲労の様子もないうえ,視界が良く前方3海里以内に他船を見かけなかったことから,三木埼を15分前に通過したことを同人に告げ,針路及び速力を引き継いで船橋当直を交替し,自室に下りて休息した。
交替したときC受審人は,法定灯火が点灯していること及び針路が自動操舵で磁気コンパスの235度に設定されていることを確かめ,機関を全速力前進にかけ,真針路228度及び12.0ノットの速力で進行した。
C受審人は,船舶の往来が多かったものの単独当直に不安を感じることはなく,船橋前面ほぼ中央に立って主に肉眼で見張りを行い,ときどき来航する反航船に留意しながら熊野灘を西行し,翌28日01時08分梶取埼灯台から077度8.5海里の地点に達したとき,左舷船尾19度500メートルに日徳丸の白,白,緑3灯と,右舷正横少し後方約200メートルに同航船の白,白,紅3灯を初認し,いずれも自船より速い同航船と判断し,その後日徳丸が自船を追い越し衝突のおそれがある態勢となり,間近に迫っても避航動作をとらないで接近したが,折から右舷側を追い越す前示同航船と前路に認めた反航船の動向に気を奪われて日徳丸の動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を吹鳴することも,減速するなどして衝突を避けるための協力動作をとることもしないで進行中,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
C受審人は,直ちに機関を減速して休息中のB受審人に報告した。
B受審人は,機関音の変化で目覚め,昇橋しようとしていたところ,C受審人から衝突の事実を知らされ,事後の措置にあたった。
衝突の結果,日徳丸は右舷船首部に凹損を生じ,明和丸は左舷後部外板及び船橋甲板左舷側に凹損などを生じたが,のちいずれも修理された。
(本件発生に至る事由)
1 日徳丸
(1)船橋当直者が,使用中のレーダーを見なかったこと
(2)船橋当直者が,肉眼による見張りを十分に行わなかったこと
(3)船橋当直者が,海図台で書類の記載を行ったこと
(4)船橋当直者が,明和丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまで同船の進路を避けなかったこと
2 明和丸
(1)近くに同航船及び反航船が航行していたこと
(2)船橋当直者が,動静監視を十分に行わなかったこと
(3)船橋当直者が,警告信号を行わなかったこと
(4)船橋当直者が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,両船がほぼ同じ針路で航行中,明和丸を追い越す日徳丸の船橋当直者が,使用中のレーダーを見なかったこと,肉眼による見張りを十分に行わなかったこと,海図台で書類の記載を行ったこと及び明和丸の進路を避けなかったこと,並びに明和丸の船橋当直者が,日徳丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
近くに同航船及び反航船が航行していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められず,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,紀伊半島南東岸沖合の熊野灘において,明和丸を追い越す日徳丸が,見張り不十分で,明和丸を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまで同船の進路を避けなかったことによって発生したが,明和丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,単独の船橋当直に就き,紀伊半島南東岸沖合の熊野灘を西行する場合,先航する明和丸を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,海図台で書類の記載に専念し,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,明和丸を追い越し,衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,同船を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して明和丸との衝突を招き,日徳丸の右舷船首部に凹損を,明和丸の左舷後部外板及び船橋甲板左舷側に凹損などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は,夜間,紀伊半島南東岸沖合の熊野灘を西行中,左舷船尾方に自船を追い越す態勢で接近する日徳丸を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,折から右舷側至近を追い越す同航船と前路に認めた反航船の動向に気を奪われ,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,日徳丸が,自船を追い越し衝突のおそれがある態勢となり,間近に迫っても避航動作をとらないで接近することに気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもしないで同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
(拡大画面:16KB) |
|
|