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平成16年横審第72号
件名

貨物船聖麗丸灯標衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年1月14日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(竹内伸二)

副理事官
入船のぞみ

受審人
A 職名:聖麗丸次席一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)

損害
聖麗丸・・・ボートデッキ右舷側ハンドレールが曲損
灯標・・・ガードリング脱落及びレーダーリフレクター破損など

原因
進路選定不適切,航泊禁止区域う回時の操舵不適切

裁決主文

 本件灯標衝突は,進路の選定が適切でなかったばかりか,航泊禁止区域をう回する際の操舵が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の主旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月5日00時45分
 東京湾中ノ瀬航路

2 船舶の要目
船種船名 貨物船聖麗丸
総トン数 446トン
全長 68.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 聖麗丸は,船首部にジブクレーン1基を装備した船尾船橋型の砂利採取運搬船で,三陸沿岸,京浜,瀬戸内海の各方面で砂利及び鋼材の輸送に従事し,船長B及びA受審人ほか2人が乗り組み,砂利1,300トンを積んだ満載状態で,船首3.4メートル船尾4.4メートルの喫水をもって,平成16年2月4日05時40分福島県久之浜港を発し,千葉港千葉区の南袖ヶ浦地区今井ふ頭に向かった。
 B船長は,船橋当直を4時間交替の3直制とし,自身が07時から11時及び19時から23時,A受審人が11時から15時及び23時から03時,一等航海士が03時から07時及び15時から19時の単独当直に就き,以前は6人が乗り組んでいたので当直体制に余裕があったが,4人乗組み体制となってから,出入港時を除き,東京湾など船舶が輻輳(ふくそう)する海域でも原則としてこの時間割に従って前示3人が船橋当直を分担し,狭視界時などには自ら操船指揮をとるようにしていた。
 A受審人は,同8年にC社に入社して以来,専ら聖麗丸に乗船し,ほぼ3箇月ごとに20日間の陸上休暇をとっていたところ,同16年2月2日に陸上休暇を終えて京浜港で乗船した後,前示当直時間割に従って船橋当直に就いていた。
 ところで,中ノ瀬航路では,同13年以降毎年2月から8月の間航路浚渫工事が行われ,同16年2月1日から中ノ瀬航路第2号灯浮標(以下,中ノ瀬航路各灯浮標については,「中ノ瀬航路」を省略する。)付近のE南区域で同工事が始まるとともに,同灯浮標が一時撤去され,同灯浮標の西側約400メートルの航路部分と航路の東側約150メートルの海域が南北約1,100メートルにわたって航泊禁止区域に設定され,同区域西側の航路幅が300メートルに狭められていた。
 前示航泊禁止区域の境界には,光達距離3.5ないし5海里の航路標識14個が240ないし280メートル間隔で設置され,西側境界には赤色単閃光を発する灯標5個,北側,東側及び南側各境界に黄色単閃光を発する灯浮標9個がそれぞれ配置されて,いずれもレーダーリフレクターを有し,各標識には南西端のA灯標から右回りにアルファベット順で記号が付けられており,周辺に警戒船3隻及び情報提供船1隻が配備され,工事区域,期間及び作業の概要については,海上保安庁告示,水路通報及び国土交通省関係機関からのポスターなどによって通航船舶に周知されていた。
 B船長は,運航会社及び船舶所有者から前示航路浚渫工事に関する資料を提供されていなかったが,工事開始日の午後京浜港川崎区に入港する際,中ノ瀬航路を北上中に船橋当直にあたった一等航海士から,第2号灯浮標付近で航路浚渫工事が行われていることを聞き,使用海図に同工事に伴う航泊禁止区域を記入できなかったものの,それまでGPSプロッタに入力してあった中ノ瀬航路のほぼ中央を北上するコースを,第1号灯浮標に接航して航泊禁止区域の西側を通るように修正した。
 久之浜港発航後A受審人は,鹿島灘で船橋当直に就いたあと休息し,同年2月4日23時00分洲埼灯台北西方で前直のB船長と交替して単独の船橋当直に就き,そのとき同船長から中ノ瀬航路で浚渫工事が行われていることを初めて聞くとともに,第2海堡を航過したらGPSプロッタに入力してあるコースラインに沿って中ノ瀬航路を北上すること,不安があればいつでも船長を呼び,必要に応じて機関を使用すること及び同工事区域付近では注意して航行することを口頭で指示された。
 A受審人は,翌5日00時25分第2海堡灯台から170度(真方位,以下同じ。)1.2海里の地点で浦賀水道航路をこれに沿って北上していたとき,3海里レンジのレーダーで,右舷前方に航泊禁止区域を示す灯標を探知し,その後同区域を囲んで設置された航路標識のレーダー映像から同区域の概略を知った。
 00時33分A受審人は,第2海堡灯台から090度600メートルの地点に達したとき,GPSプロッタを見てB船長が入力したコースを確認し,自船が全長50メートル以上で航路航行義務があるにもかかわらず,航泊禁止区域を示す航路標識の東側を航行できるものと思い,同船長から指示された同区域西側の中ノ瀬航路を北上する適切な進路を選定することなく,同区域に近づいてから右転して同区域の東側を航行するつもりで,針路を同区域南東端のL灯浮標にほぼ向首する020度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて10.3ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 A受審人は,操舵室左舷後部に設置されたVHF無線電話を16チャンネルとして同室中央の舵輪後方に立ち,レーダーを見て船位を確かめながら北上を続けるうち,航泊禁止区域を示す航路標識の閃光灯を視認し,00時40分第2海堡灯台から006度1.2海里の地点で,L灯浮標が船首方向900メートルとなったとき,東京湾海上交通センター(以下「東京マーチス」という。)から左転を促すVHF無線電話の音声を聞いてこれに応答し,左転して同区域をう回することとしたが,直ちに手動操舵に切り替えて大きく左転せず,自動操舵のまま針路設定つまみを少しずつ左に回したものの,満載状態で舵効きが遅く,ゆっくりと左転しながら航泊禁止区域に接近した。
 間もなくA受審人は,東京マーチスから大きく左舵をとるようVHF無線電話による注意喚起を受けるとともに,自船に近づいてきた警戒船からも同様に注意され,これらに応答している間に航泊禁止区域に著しく接近して気が動転し,A灯標が船首方向至近に迫っていることに気付かず,00時45分少し前手動操舵に切り替えて左舵一杯をとって回頭中,00時45分聖麗丸は,第2海堡灯台から002度1.9海里の地点において,305度を向首して速力が約8ノットに低下したとき,ボートデッキ右舷側が,航泊禁止区域南西端に設置された水面上の高さ約6メートルのA灯標に衝突し,これを擦過した。
 当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 自室で休息中のB船長は,衝撃を感じて昇橋し,灯標との衝突を知って直ちに機関を止め,その後東京マーチスから停船するよう指示されたものの,千葉港での荷役予定を告げて目的地に向かった。
 衝突の結果,聖麗丸はボートデッキ右舷側ハンドレールが曲損し,灯標はガードリング脱落及びレーダーリフレクター破損などの損傷を生じたが,のちいずれも修理された。

(原因)
 本件灯標衝突は,夜間,東京湾において,航路浚渫工事のため航泊禁止区域が設定された中ノ瀬航路を通航する際,進路の選定が不適切で,同区域に向首して進行したばかりか,同区域をう回する際の操舵が不適切で,同区域を示す灯標に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,東京湾において,航路浚渫工事のため航泊禁止区域が設定された中ノ瀬航路を航行する場合,船長から指示された同区域西側の中ノ瀬航路を北上する適切な進路を選定すべき注意義務があった。しかし,同人は,自船が全長50メートル以上で航路航行義務があるにもかかわらず,航泊禁止区域を示す航路標識の東側を航行できるものと思い,船長から指示された同区域西側の中ノ瀬航路を北上する適切な進路を選定しなかった職務上の過失により,同区域南東端に向けて進行し,東京マーチスから注意喚起されて左回頭中,同区域南西端の灯標との衝突を招き,ボートデッキ右舷側ハンドレールに曲損を生じさせるとともに,同灯標を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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