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平成16年仙審第52号
件名

モーターボート幸雄丸手漕ぎボートスワン4衝突事件
第二審請求者〔理事官 今泉豊光〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年1月27日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原清 澄,勝又三郎,内山欽郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:幸雄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:E学校教諭

損害
幸雄丸・・・船首部に擦過傷
スワン4・・・右舷前部から左舷前部にかけての船側外板及びガンネルなどを圧壊,C,D両部員が頭部裂創などの負傷

原因
幸雄丸・・・過大速力,見張り不十分,船員の常務(前路に進出)不遵守

主文

 本件衝突は,幸雄丸が,速力を減じなかったばかりか,見張り不十分で,スワン4の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月18日17時25分
 宮城県仙台塩釜港
 (北緯38度18.5分 東経141度02.2分)

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート幸雄丸 手漕ぎボートスワン4
全長   9.86メートル
登録長 6.25メートル  
機関の種類 電気点火機関  
出力 29キロワット  

3 貞山運河
 貞山運河は,屈曲しているうえ,その最狭部が約30メートルと狭く,同運河を北上して貞山堀に向かうにあたっては,貞山橋を航過して貞山堀を見通すことができる地点まで約420メートルと距離が短かったうえ,同地点に至るまでの運河の右舷側陸岸が小高くなっていて,全く貞山堀を見通すことができなかったので,貞山橋を航過して貞山堀出入口まで達しないと同堀内の状況が把握できない地形となっていた。また,貞山堀への出入口は,幅が約100メートルで,同堀に向かうには約45度右転しなければならなかったので,航行する船舶は,早めに速力を十分に減じる必要があった。

4 事実の経過
 幸雄丸は,航行区域を限定沿海区域とし,A受審人が1人で乗り組み,友人1人を同乗させ,釣りを行う目的で,船首0.15メートル船尾0.25メートルの喫水をもって,平成16年5月18日14時40分宮城県仙台塩釜港内の係留地を発し,同港の沖防波堤南側の釣り場に向かった。
 15時20分A受審人は,貞山堀及び貞山運河を経由して釣り場に至り,釣りを始めたものの,満潮となって釣果が得られなくなったので,16時55分釣りを止めて帰途に就いた。
 A受審人は,自船の航海速力が30.0ノットであったが,機関回転数を減じて25.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として貞山運河を北上し,17時24分少し前塩釜貞山堀航路第3号灯浮標(以下「3号灯浮標」という。)から212度(真方位,以下同じ。)1,050メートルの貞山橋に至って針路を353度に定めたとき,貞山堀内でE学校のボート部員がダブルスカルなどの手漕ぎボートを使用して練習していることを知っていたのに,貞山運河を経由して帰航する予定であったことから,貞山大橋北方の他船の状況確認に気を取られていて,速力を十分に減じることなく,15.0ノットの速力に減じただけで,手動操舵により進行した。
 その後,A受審人は,貞山大橋北方の貞山運河から出航する他船を認めたことから,貞山堀を経由して帰航することに変更し,17時24分半3号灯浮標から229.5度790メートルの地点に達したとき,右舷船首51度260メートルのところに練習を終え帰航中のスワン4を視認することができる状況であったが,貞山大橋北方の出航船に気を取られ,貞山堀方向の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,徐々に右転を始め,スワン4の前路に進出する態勢となって続航した。
 こうして,幸雄丸は,A受審人がスワン4に気付かないまま右転中,17時25分わずか前スワン4の船体を前路至近に認め,クラッチを後進に入れたが,及ばず,17時25分3号灯浮標から232.5度570メートルの地点において,その船首がスワン4の右舷前部に前方から38度の角度をもって衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の南南東風が吹き,潮候は満潮時であった。
 また,スワン4は,カーボン製のダブルスカル型競技用手漕ぎボートで,E学校の生徒でボート部員(以下「部員」という。)のCがバウとして,同Dがストロークとして乗り組み,練習を行う目的で,同日16時00分3号灯浮標から276度750メートルのところの艇庫前を他の5艇とともに発進し,貞山堀に向かった。
 ところで,E学校は,指導,警戒及び救助にあたる登録長が6.25メートルで,18.40キロワットの船外機を備えたG号と称するFRP製ボートを所有し,ボート部の正顧問としてB指定海難関係人を,他の2人の教諭を副顧問として部員の指導に当たらせ,初心者の練習場として艇庫前の貞山運河を,上級者の練習場として貞山堀を利用していた。また,貞山堀で部員が練習するにあたっては,顧問が乗船したG号が必ず同行し,同堀内に設定した長さ約1,000メートルの練習海域で反時計回りに練習するようにしていた。
 16時10分C,D両部員は,貞山運河を南下して貞山堀の練習場に至り,B指定海難関係人及びF教諭の指導の下,途中5回ほど5分程度の休憩を取りながら,60分ないし90分間ほど連続して漕ぐ練習を行った。
 B指定海難関係人は,部員に対しては日頃から貞山堀では右側を航行すること及び事故防止のためバウで漕ぐ者が10回漕いだら1回程度の割合で前路の見張りをするように指導していた。
 17時20分B指定海難関係人は,3号灯浮標の北西方40メートル付近を航行していたとき,艇庫前で練習中の部員が落水したと艇庫前にいた部員からトランシーバーによる無線連絡を受けたので,同時21分少し前3号灯浮標から250.5度95メートルの地点で,6艇の先頭を漕いでいたスワン4の指導を終えたら同部員の様子を見に行くことにし,同時23分3号灯浮標から233.5度380メートルの地点で,指導を終えたが,自分が戻るまで陸岸に寄せるなどして安全な水域で待機するよう,また,後続艇にもその旨伝えるよう指示しないまま,同時24分少し前3号灯浮標から232.5度460メートルの地点で,スワン4から離れ,F教諭が操船するG号で艇庫前の練習場に向かった。
 17時24分C,D両部員は,3号灯浮標から232度500メートルの地点に達したとき,練習場を3周して予定の練習を終えたことから,このまま帰航することにし,針路を227度に定め,速力を4.0ノットから2.2ノットに減じて進行した。
 17時24分半C,D両部員は,3号灯浮標から231.5度535メートルの地点に達したとき,ほぼ正船首260メートルのところに幸雄丸を視認することができたものの,同船に気付かないまま続航し,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,幸雄丸は,スワン4を乗り切って船首部に擦過傷を生じ,スワン4は,右舷前部から左舷前部にかけての船側外板及びガンネルなどを圧壊したが,のちいずれも修理された。また,C,D両部員が頭部裂創などの傷をそれぞれ負った。

(航法の適用)
 本件衝突は,宮城県仙台塩釜港において,貞山運河から貞山堀に向けて転針中の幸雄丸と,貞山堀で練習を終えて艇庫に帰航中のスワン4とが衝突したものであるが,航法については,海上衝突予防法の航法に適用する規定がなく,港則法第17条の規定も築造物,工作物及び停泊船舶を対象としたものなので,いずれも本件の対象とはならない。
 従って,本件は,海上衝突予防法第38条及び第39条を適用して,船員の常務によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 雄丸
(1)A受審人が,貞山運河の方に気を取られ,貞山堀の見張りを厳重に行っていなかったこと
(2)貞山運河を北上して貞山堀に向かうにあたり,運河右側の小高くなっている陸岸が貞山堀の見通しを妨げていたこと
(3)貞山堀で手漕ぎボートの練習をするのを知っていたのに,このことに留意しなかったこと
(4)A受審人が,狭い水路を高速力で航行したこと
(5)A受審人が,貞山運河から貞山堀に転針する際,速やかに転針して貞山堀の右側に寄せなかったこと

2 スワン4
(1)練習場が2つに別れていて警戒船が1艇であったこと
(2)B指定海難関係人が艇庫前で落水者が出た旨の報告を受け,警戒船が警戒を中断したこと
(3)B指定海難関係人がスワン4を離れるにあたって安全確保についての指示をしなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,幸雄丸が,可航水域の狭い貞山運河を15.0ノットの高速力で釣り場から帰航中,貞山堀から艇庫へ帰航中のスワン4の前路に進出したことによって発生したものである。
 A受審人は,貞山運河を経て帰航する予定であったことから,貞山大橋北方の他船の状況確認に気を取られ,貞山堀方向の見張りを厳重に行わず,その後,経路を変更して貞山堀を経て帰航することにしたものの,自らの転針方向の見張りを厳重に行わなかったので,西行するスワン4に気付いていなかった。
 すなわち,本件は,A受審人が,前もって速力を十分に減じ,転針方向の見張りを厳重に行っていれば,スワン4を早期に視認でき,余裕のある時期に同船の進路を避けることができたものと認められる。
 従って,A受審人が速力を十分に減じず,転針方向の見張りを厳重に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,スワン4が,船舶の航行しない水域で待機していれば,本件は発生しなかったものと認められる。
 従って,B指定海難関係人が,艇庫前で練習中に落水した部員の状況を確認するためにスワン4から離れる際,スワン4に対して自分が戻るまで陸岸に寄せるなどして安全な水域で待機するよう指示しなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,宮城県仙台塩釜港内の貞山堀において,釣りを終えて帰航中の幸雄丸が,貞山運河を北上したのち,貞山堀に向かう際,速力を減じなかったばかりか,見張り不十分で,艇庫に帰航中のスワン4の前路に進出したことによって発生したものである。
 ボート部顧問が,安全な海域で待機するよう指示しなかったことは,本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)

1 受審人
 A受審人は,宮城県仙台塩釜港内の貞山運河を北上して貞山堀に向かう場合,地形上,右舷方の見通しが妨げられる状況にあったから,貞山堀内の状況を把握できるよう,速力を減じたうえ,転針方向の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,貞山大橋北方の他船の状況確認に気を取られ,転針方向の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により,貞山堀から貞山大橋の北方にある艇庫に向けて帰航中のスワン4に気付かず,同船の前路に進出して衝突を招き,自船の船首部に擦過傷を,スワン4の右舷前部から左舷前部にかけての舷側外板及びガンネルに圧壊を生じさせるとともに,C,D両部員に頭部裂傷などの傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。

2 指定海難関係人

 B指定海難関係人が,落水者の状況を確認するためにスワン4の警戒を一時中断する際,自分が戻るまで陸岸に寄せるなどして安全な水域で待機するよう指示しなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,本件後,E学校が船外機付きゴムボートを購入して警戒体制を厳重にするなどの安全対策を講じている点に徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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