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平成16年仙審第33号
件名

漁船第三十五神栄丸漁船第十一勝栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年1月27日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(勝又三郎,原 清澄,内山欽郎)

理事官
西山烝一

受審人
A 職名:第三十五神栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第十一勝栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第三十五神栄丸・・・右舷船首部外板に亀裂を伴う破口
第十一勝栄丸・・・左舷側船尾に亀裂を伴う凹損,船長が約3週間の加療を要する右手,右肘及び右肩に各打撲,同人の妻が同様の加療を要する頸椎捻挫及び腰部挫傷の負傷

原因
第三十五神栄丸・・・居眠り運航防止措置不十分,船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は,第三十五神栄丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,第1種区画漁業区域内のかき養殖施設に係留してかき採取漁業に従事していた第十一勝栄丸を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月25日04時30分
 宮城県田代島東方沖合
 (北緯38度18.4分 東経141度25.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三十五神栄丸 漁船第十一勝栄丸
総トン数 19トン 7.9トン
全長 27.00メートル 16.96メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 603キロワット  
漁船法馬力数   90
(2)設備及び性能
ア 第三十五神栄丸
 第三十五神栄丸(以下「神栄丸」という。)は,平成14年2月に進水した一層甲板型のFRP製漁船で,沖合底びき網及びさんま棒受網各漁業の用途並びに小型第1種で登録され,最大とう載人員8名に定められていた。
 同船は,船首楼に探照灯及び法定灯火等を設けた前部マストを,その後方に集魚灯を取り付けたマストを設置し,船体中央に操舵室があって,その上部に法定灯火及び2台のレーダースキャナーを設けた後部マストを設備していた。
 操舵室前方には,前記マスト等が設置されていただけだったので,船首方向の見通しに支障はなかった。
イ 第十一勝栄丸
 第十一勝栄丸(以下「勝栄丸」という。)は,平成11年9月に進水したFRP製漁船で,採介藻,刺網,はえなわ,敷網及び雑各漁業の用途に定められていた。
 同船は,船首部にバウスラスタと甲板上前部にかき網巻揚機を,船体後方に舷灯と両舷に通路灯を取り付けた操舵室をそれぞれ設置し,同室上部に法定灯火を装備したマスト及び1台のレーダースキャナーをそれぞれ設け,同室前部甲板上の上部に出力500ワットの,下部に出力200ワットの作業灯各2個を取付け,後部甲板上も同配列とし,夜間の作業時には合計8個の作業灯を点灯していた。

3 事実の経過
 神栄丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,沖合底びき網漁の目的で,船首0.7メートル船尾2.2メートルの喫水をもって,2台のカラーレーダーを作動させ,航行中の動力船が表示する灯火を点灯し,平成15年12月25日03時30分石巻漁港を発し,金華山南方沖合の漁場に向かった。
 発航後,A受審人は,単独で操舵操船にあたり,沖合の灯浮標を替わしたのち,田代島と牡鹿半島の間を航行する予定で南東進し,04時16分半二鬼城埼灯台から324度1.7海里の地点で,針路を田代島寄りになる140度に定め,機関回転数毎分1,100の全速力前進にかけ,10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵として進行した。
 A受審人は,平素,航行中に無線電話を使用して僚船と操業場所等の連絡を取り合って気を紛らわせていたものの,定針時に僚船が付近にいなかったのでいすに腰掛けたままでいたところ,連日の操業の疲れと睡眠不足から眠気を催したが,田代島東方沖合に向首したことで安堵し,休息中の甲板員を昇橋させ2人当直とするなどして居眠り運航の防止措置をとることなく,船橋当直を続けた。
 04時19分A受審人は,二鬼城埼灯台から326度1.3海里の地点に達したころから,いつしか居眠りに陥り,同時22分少し前針路を宮城県網地島と牡鹿半島の間に向首する予定転針地点に達したが,このことに気付かないまま同一針路で続航した。
 04時27分少し前A受審人は,二鬼城埼灯台から072度250メートルの地点に達したとき,ほぼ正船首1,000メートルのところに停泊灯及び8個の作業灯等を点灯した勝栄丸を視認することができ,その後方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,居眠りしていたのでこのことに気付き得ず,同船を避けることができないまま進行した。
 こうして,A受審人は,居眠りを続けて続航中,神栄丸は,04時30分二鬼城埼灯台から128度1,100メートルの地点において,原針路,原速力のまま,その右舷側船首部が勝栄丸の左舷側船尾に後方から30度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の西北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 A受審人は,衝突の衝撃で目覚め,事後の措置にあたった。
 また,勝栄丸は,B受審人と同人の妻が乗り組み,養殖かき採取の目的で,船首0.3メートル船尾1.6メートルの喫水をもって,航行中の動力船が表示する灯火を点灯し,同日03時10分宮城県給分漁港を発し,同時30分田代島東方沖合の区画漁業区域に設けたかき棚の,前示衝突地点付近に至り,付近に3隻の同業船がかき採取をしていたのを認め,船首を170度に向け,かき採取作業をしやすいようにして左舷側船首部と船尾部から同棚に係留索を取ったのち,停泊灯,作業灯及び通路灯等をそれぞれ点灯して機関を停止し,同作業に取り掛かった。
 B受審人は,平素,他船が田代島と牡鹿半島の間を通航するときには,区画漁業区域から離れて航行していたものの,航行する際に生じる波で自船が動揺して作業に影響することから,かき網を1本揚げるごとに周囲の状況を確認していた。
 また,B受審人は,操舵室前部でかき採取作業を行っていたので,作業灯や同室周りの灯火等で後方の見通しが困難な状況だった。
 こうして,B受審人は,妻と共にかき採取作業を続けていたところ,04時30分わずか前船尾方向に神栄丸の機関音を聞き,その船首部を初認したものの,どうする暇もなく,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,神栄丸は右舷船首部外板に亀裂を伴う破口を生じ,勝栄丸は左舷側船尾に亀裂を伴う凹損を生じたが,のちいずれも修理され,かき棚用ロープと引揚げ中のかき網を切断したうえ,浮子6個を破損した。また,B受審人が約3週間の加療を要する右手,右肘及び右肩に各打撲を,同人の妻が同様の加療を要する頸椎捻挫及び腰部挫傷をそれぞれ負った。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,田代島東方沖合にかき養殖施設を設置した区画漁業区域が設けられていたことを知っていたのに,同島寄りに定針したこと
2 A受審人が,出港から帰港するまで単独で操船にあたっていたうえ,睡眠時間も短かく疲労が蓄積されていたこと
3 A受審人が,船橋当直を2人にしなかったこと
4 A受審人が,田代島と牡鹿半島の間に針路を向けたことで気が緩み居眠りに陥ったこと
5 A受審人が,居眠りに陥っていて転針予定地点で転針できなかったこと

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,田代島東方沖合において,神栄丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,設定されていた区画漁業区域内のかき養殖施設に係留してかき採取漁業に従事中の勝栄丸を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,田代島東方沖合において,単独でいすに腰掛けて操船にあたり,金華山南方沖合の漁場に向けて航行中,眠気を催した場合,連日の操業で疲れと睡眠不足になっていたのであるから,居眠り運航とならないよう,休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,同島東方沖合に向首したことで安堵し,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,いつしか居眠りに陥り,区画漁業区域内でかき採取漁業に従事していた勝栄丸を避けることができないまま進行して同船との衝突を招き,神栄丸の右舷船首部外板に亀裂を伴う破口を,勝栄丸の左舷側船尾に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じさせ,かき棚用ロープと引揚げ中のかき網を切断し,浮子6個を破損させたうえ,B受審人の右手,右肘及び右肩に各打撲を,同人の妻に頸椎捻挫及び腰部挫傷をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1
項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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