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平成16年第二審第8号
件名

油送船第十六大徳丸漁船美幸丸衝突事件[原審・広島]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年3月9日

審判庁区分
高等海難審判庁(上野延之,吉澤和彦,上中拓治,井上 卓,保田 稔)

理事官
工藤民雄

受審人
A 職名:第十六大徳丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
指定海難関係人
B 職名:第十六大徳丸甲板長
受審人
C 職名:美幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

第二審請求者
理事官 村松雅史

損害
第十六大徳丸・・・左舷後部外板及び同舷船尾外板に擦過傷
美幸丸・・・船首圧壊,操舵室破損

原因
美幸丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第十六大徳丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,美幸丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る第十六大徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第十六大徳丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月27日06時04分
 周防灘東部
 (北緯33度51.7分東経131度45.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船第十六大徳丸 漁船美幸丸
総トン数 199トン 4.73トン
全長 47.93メートル 12.83メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 40キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第十六大徳丸
 第十六大徳丸(以下「大徳丸」という。)は,平成3年9月に進水した一層甲板の船尾船橋型油タンカーで,甲板下に船首方から船首タンク,錨鎖庫,左右に区画されたバラストタンク,1番から3番までの貨物油タンク,ポンプ室,機関室及びアフターピークタンク,上甲板上に船首楼及び船尾楼,船首楼内に甲板長倉庫及び甲板倉庫,船尾楼内に操舵機室,船尾甲板上に乗組員居住区並びにその上段に船橋がそれぞれ設けられていた。
 大徳丸の運航については,九州一円及び瀬戸内海等の沿海区域で,主にC重油の輸送に従事していた。
 大徳丸の航海当直体制については,船長と甲板長による単独交替制で,当直時間帯を出航時に定めていた。また,当直者が食事のときには,司厨長を当直に立たせていた。
イ 美幸丸
 美幸丸は,昭和44年10月に進水した主にふぐ延縄漁に従事する木製漁船で,船首甲板上にかんぬき及びたつ,船体中央部甲板上に操舵室,同室内にレーダー及びGPS,同室下方に機関室並びに甲板下にいけすをそれぞれ設けていた。
 美幸丸のふぐ延縄漁は,直径2ミリメートル(以下「ミリ」という。)の化学繊維製幹縄とこれに8.55メートル間隔で取り付けた直径1ミリ長さ0.1メートルの枝縄及び枝縄先端の釣針からなる一連の漁具を延縄と称し,木製円形容器(以下「鉢」という。)に納めた延縄を船尾から繰り出しながら釣針に餌(えさ)を掛けて投げ縄をして距離9.5海里にわたって海底をはわせ,一定時間の経過後に揚げ縄をする漁法であったが,投げ縄時及び揚げ縄時も船舶の操縦性能を制限するものではなかった。

3 野島付近海域の船舶交通状況
 野島南方の周防灘東口付近海域は,関門海峡,伊予灘,豊後水道及び徳山下松方面へ向かう航路が収束して複雑に交差し,また,漁船が密集していることは少ないが,東西に航行する船舶の通航路を横断する漁船が多いところであった。

4 事実の経過
 第十六大徳丸(以下「大徳丸」という。)は,A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み,空倉のまま,船首0.6メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成13年9月26日17時50分長崎県松浦港を出港し,関門海峡経由で大阪港に向かった。
 翌27日03時37分A受審人は,本山灯標南方1.2海里沖合を通航し,05時45分周防野島灯台から179度(真方位,以下同じ。)4.1海里の地点で,針路を089度に定め,機関を全速力前進に掛け,8.9ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により,航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
 ところで,A受審人は,B指定海難関係人に平素から視界が悪くなったとき及び船が多いときには知らせること並びに大型船及び漁船等を早めに避航すること等の航海当直中の注意事項を指示していた。
 05時50分A受審人は,B指定海難関係人が昇橋してきたので,漁船が多かったことから,改めて平素と同様に具体的な注意事項を指示したうえ,船位及び針路を同人に引き継ぎ,05時52分周防野島灯台から165度4.2海里の地点で,航海当直を交替して降橋した。
 05時56分B指定海難関係人は,周防野島灯台から157.5度4.4海里の地点に達し,左舷船首2度1.3海里のところを南方に向首した美幸丸を初めて視認し,双眼鏡により乗組員が船尾に身体を屈(かが)めて作業していることを認めて同船が停止しているものと思い,美幸丸の船首から遠ざかる針路111度に転じた。
 転針した直後,B指定海難関係人は,美幸丸を左舷24度1.3海里に見るようになり,その後同船が前路を右方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,依然,同船が停止しており,また,発進しても自船を避けると思い,美幸丸の動静監視を十分に行わなかったので,この状況に気付かなかったことから,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作もとらないまま続航した。
 06時04分少し前B指定海難関係人は,突然左舷船首至近に迫った美幸丸を視認して衝突の危険を感じ,直ちに手動操舵に切り換えて右舵一杯をとり,次いで汽笛により短音1回を吹鳴したが効なく,06時04分周防野島灯台から148度5.3海里の地点において,大徳丸は,171度に向首したとき,原速力のまま,その左舷後部に美幸丸の船首が後方から25度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の初期にあたり,日出時刻は06時04分であった。
 A受審人は,居室で衝撃を感じ,直ちに昇橋して衝突を知り,事後の措置にあたった。
 また,美幸丸は,C受審人が単独で乗り組み,船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,ふぐ延縄漁の目的で,同月27日03時10分山口県粭(すくも)大島漁港を出港し,04時00分同漁港南方沖合の漁場に至って漂泊し,操業の準備を整えて04時30分に発進した。
 04時50分C受審人は,周防野島灯台から090度4.1海里の地点で,針路を196度に定めて自動操舵とし,機関を半速力前進に掛け,3.8ノットの速力で,白色前部マスト灯,両色灯,船尾灯を点灯し,また,自船の漁法が操縦性能を制限するものではないと認識していたが,マスト灯の上方に黄色回転灯を点灯し,鼓形の形象物を前部マストに掲げて進行した。
 定針したのち,C受審人は,投げ縄を始める前にレーダーで周囲を一瞥(いちべつ)して自船の近くに他船がいないものと思い,船尾甲板右舷側で後方を向いて椅子に腰掛け,足元に置いた鉢から延縄を繰り出し,ほぼ4秒毎釣針に餌を掛け,一鉢を終えるごとに身体を屈めて鉢を交換し,投げ縄に専念して見張りを行わないで続航した。
 05時56分C受審人は,周防野島灯台から144度5.0海里の地点に達したとき,右舷船首71度1.3海里のところに大徳丸を視認することができ,その後同船が右転して前路を左方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが,依然投げ縄作業に専念して見張りを十分に行うことなく,この状況に気付かず,大徳丸の進路を避けないで進行し,06時04分突然汽笛を聞いたとき,美幸丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,大徳丸は左舷後部外板及び同舷船尾外板に擦過傷を生じ,美幸丸は船首を圧壊したほか,操舵室を破損したが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は,日出前の薄明時,周防灘東口付近において,東行中の大徳丸と,南下中の美幸丸とが,互いに進路を横切る態勢で接近して衝突したもので,適用航法について検討する。
 周防灘東口付近は,海上交通安全法が適用されるところであるが,同法には,本件に対し適用する航法がないので,海上衝突予防法を適用する。
 海上衝突予防法では,漁ろうに従事する船舶を船舶の操縦性能を制限する網,なわその他の漁具を用いて漁ろうをしている船舶と定義している。
 しかし,美幸丸の形象物及び灯火表示については,日出前の薄明時,黄色回転灯,白色前部マスト灯,両色灯及び船尾灯を点灯しており,また,C受審人に対する質問調書中,「相手船を認めたら延縄を投入することをやめ,船を止めるか,後進を掛けても延縄を巻き込むことなく,遠隔操舵で左右に舵をとって避航する。」旨の及び同人の原審審判調書中,「投げ縄中のときの舵効きはよく,操縦性能に影響を及ぼすようなことはない。」旨の各供述記載並びに,美幸丸のふぐ延縄漁は,直径2ミリの幹縄を船尾から繰り出して投げ縄をしており,船舶の操縦性能を制限するものでなかったことから,美幸丸は操縦性能を制限しない漁法により操業しており,漁ろうに従事している船舶とは認め難い。
 よって,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 大徳丸
(1)A受審人が衝突時に船橋で操船指揮を執っていなかったこと
(2)B指定海難関係人は美幸丸が停止しており,また,発進しても自船を避けると思い,その後美幸丸に対する動静監視を十分にしていなかったこと
(3)警告信号を行わなかったこと
(4)美幸丸が間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 美幸丸
(1)延縄を始める前にレーダーで周囲を一瞥して自船の近くに他船がいないものと思い,C受審人が投げ縄に専念して見張りを十分にしなかったこと
(2)鼓形の形象物を掲げていたこと
(3)避航動作をとらなかったこと
(4)見張りの補助者がいなかったこと

3 その他
(1)日出直前の薄明時であったこと
(2)野島付近が船舶の輻輳する海域であったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,美幸丸が見張りを十分に行っていたら,大徳丸を視認することができ,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することが分かり,同船の進路を避けることにより,避けることができると認められる。
 したがって,C受審人が,見張りを十分に行わなかったこと及び避航動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 美幸丸が鼓形の形象物を掲げていたことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,漁法が漁ろう中の船舶に該当しないことから本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から鼓形形象物を揚げないよう是正されるべき事項である。
 見張りの補助者がいなかったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 また,本件衝突は,大徳丸が美幸丸の動静監視を十分に行っていたら,その後同船の前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することが分かり,美幸丸に対する警告信号を行うことができ,間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることができたものと認められる。
 したがって,B指定海難関係人が,美幸丸の動静監視を十分に行わなかったこと,美幸丸と衝突のおそれのある状況になったときに警告信号を行わなかったこと及び間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が衝突時に船橋で操船指揮を執らなかったことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 また,本件発生前が日出直前の薄明時であったこと及び野島付近が船舶交通の輻輳する海域であったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,日出前の薄明時,周防灘東口付近において,大徳丸及び美幸丸両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中,南下する美幸丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る大徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが,大徳丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 C受審人は,日出前の薄明時,周防灘東口付近において,単独でふぐ延縄漁の投げ縄をしながら南下する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,投げ縄を始める前にレーダーで周囲を一瞥して自船の近くに他船がいないものと思い,投げ縄作業に専念して見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,右舷船首方から前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する大徳丸に気付かず,同船の進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き,大徳丸の左舷部外板及び同舷船尾外板に擦過傷を,美幸丸の船首圧壊及び操舵室破損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告

 B指定海難関係人が,日出前の薄明時,周防灘東口付近において,単独の航海当直で東行中,左舷船首方に前路を右方に横切る美幸丸を認めた際,同船の動静監視を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告しない。
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成16年3月16日広審言渡
 本件衝突は,第十六大徳丸が,動静監視不十分で,漁ろうに従事している美幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが,美幸丸が,見張り不十分で,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。


参考図
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