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平成15年第二審第3号
件名

貨物船東広丸貨物船マチルデ衝突事件[原審・神戸]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年1月17日

審判庁区分
高等海難審判庁(上野延之,平田照彦,上中拓治,井上 卓,保田 稔)

理事官
喜多 保

受審人
A 職名:東広丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)
補佐人
B,C
受審人
D 職名:マチルデ水先人 水先免許:大阪湾水先区
補佐人
E
受審人
F 職名:マチルデ水先人 水先免許:内海水先区
補佐人
G

第二審請求者
受審人 A

損害
東広丸・・・船首部を圧壊
マチルデ・・・右舷船首部に破口を伴う凹損

原因
東広丸・・・動静監視不十分,船員の常務(前路進出)不遵守

主文

 本件衝突は,東広丸が,動静監視不十分で,無難に航過する態勢であったマチルデの前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月6日01時54分
 明石海峡東方の神戸灯台南西方沖合
 (北緯34度35.2分 東経135度38.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船東広丸 貨物船マチルデ
総トン数 498トン 81,329トン
全長 74.72メートル 280.28メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 22,920キロワット
(2)設備及び性能等
ア 東広丸
 東広丸は,昭和63年10月に愛媛県今治市で建造された船尾船橋型鋼製貨物船で,船首端より船橋前面までの距離が約60メートルであった。
 旋回性能は,主機回転数毎分370の状態から,舵角35度で右舵一杯として,右転の最大縦距が286メートル,最大横距が384メートルで,左転の値もほぼ同様であった。
 当時,喫水は空倉状態で,船首1.85メートル船尾3.70メートルで,眼高は,約9.8メートルであった。船橋では2台のレーダーのうち1台が作動中,1台が作動準備中で,自動操舵装置,GPSが稼働中であった。また,表示中の各灯火の水面上の高さは,前部マスト灯が船首端から後方約9メートルの約17メートル,後部マスト灯が船首端から後方約65メートルの約20メートル,左右舷灯が船首端から後方約60メートルの約8メートルであった。
イ マチルデ
 マチルデは,西暦1997年に韓国で建造された船尾船橋型鋼製貨物船で,船首端より船橋前面までの距離が,約240メートルであった。旋回性能は,主機回転数毎分90の状態から,舵角35度で左舵一杯として,左転が,最大縦距640メートル,最大横距680メートルで,右転の値もほぼ同様であった。
 当時,喫水は,石炭約126,800トンを載せ,船首尾とも15.11メートルのほぼ満載状態で,眼高は約21.6メートルであった。船橋では2台のレーダー,GPS,音響測深機,コースレコーダーなどが稼働中であったが,コースレコーダーに関しては,時刻が5分遅れの世界時で表示されていた。
 また,表示中の各灯火の水面上の高さは,前部マスト灯が船首端から後方約15メートルの約22メートル,後部マスト灯が船首端から後方約245メートルの約33メートル,両舷灯の位置が船首端から約240メートル後方でボートデッキ上左右端前面約13.5メートル,巨大船表示灯が後方マスト上の約36メートルで,舷灯の高さについては,マスト灯の高さとの対比において標準的な船舶に比較してかなり低い位置となっていたものの,法規上の規定は満たしていた。

3 発生海域
 水先交代地点海域は,神戸港検疫錨地などに向かう船舶,明石海峡と大阪港,阪南港及び関西国際空港などとを往き交う種々の船舶で交通が輻輳しており,このため,同海域では,総トン数500トン以上の船舶が,明石海峡方面と大阪港,尼崎西宮芦屋港又は神戸港方面との間を東行または西行しようとするときは,当分の間,神戸沖第1号灯浮標及び神戸沖第2号灯浮標を左舷に見て航行すること,また,総トン数5,000トン以上の船舶が,明石海峡航路を出航して当該海域に向かう,又は当該海域から同航路に入航しようとするときは,明石海峡航路東方灯浮標を左舷に見て航行する旨の海上保安庁による航行安全指導が出されていた。

4 事実の経過
 東広丸は,船長H及びA受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,平成14年3月5日11時00分広島港を発し,大阪港堺泉北区に向かった。
 船橋当直は,単独3直制を採り,A受審人が23時30分から翌朝04時30分まで及び11時30分から16時30分まで,甲板長が04時30分から07時00分まで及び16時30分から19時00分まで,船長Hが07時00分から11時30分まで及び19時00分から23時30分まで,それぞれの時間帯を各人が受け持っていた。
 同日23時30分ごろA受審人は,播磨灘を北上中に船長Hから単独船橋当直を引き継ぎ,翌6日01時25分半神戸灯台から244度6.8海里の地点に達し,明石海峡航路中央第3号灯浮標にほぼ並航したとき,明石海峡航路東方灯浮標を左舷に見る針路とせず,大阪港堺泉北区に向けて針路を096度に定め,機関を全速力前進にかけ,折からの潮流に抗して11.2ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,法定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
 A受審人は,同3号灯浮標航過後,01時32分マチルデの白2灯,紅1灯を右舷船首45度5.0海里に認めたとき,目的地を早期に捕捉するために作動中レーダーの画面表示を3海里レンジから6海里レンジに切り替え,同船の映像を認めたもののこれを一瞥したのみで,昇橋していた機関部当直者の一等機関士と雑談を交わしながら続航した。
 A受審人は,01時40分北上するマチルデを右舷船首43.5度3.0海里のところに,01時43分同船を右舷船首43度2.4海里のところにそれぞれ認め,方位の変化が少なく同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,もう少し接近したのち改めて衝突のおそれがあるようであれば避ければよいと思い,これを一瞥したのみで,継続して同船の監視を続けたり,レーダー映像と目視との比較確認をしたりするなどの動静監視を十分に行わなかったので,この状況に気付かず同船の進路を避けないまま進行した。
 A受審人は,01時48分同船が右舷船首47度1.2海里まで接近し,その後マチルデの方位が徐々に右方に変わるようになったが,同船に注意していなかったので,その方位が右方に変わるようになったことにも同船が巨大船であることにも気付かず,前路に漁船がいないかどうかを主に見張りながら続航した。
 こうしてA受審人は,マチルデの速力が落ちて方位の変化が明確に右方へ変わるようになり,同船が,01時49分右舷船首50度1,950メートル,01時50分右舷船首54度1,550メートルと変化し,01時51分同船が右舷船首61度1,260メートルとなったとき,衝突のおそれがなくなって,同船の船首端を約500メートル隔てその前路を無難に航過する態勢となったが,依然同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま進行した。
 01時52分少し前A受審人は,マチルデの紅灯が接近していることを認めたものの,その位置が低いためにかなり高い位置にあったマスト灯や緑色点滅灯には気付かず,同船が小型船のように見えたことから,左舷対左舷で航過しようと考え,01時52分手動操舵に切り替えて右舵10度とし,間をおかずに右舵一杯をとって右転した。
 A受審人は,01時53分少し前右転により航過距離が若干減少してマチルデの前路を船首端から約400メートル隔てて航過したが,同船の紅灯が見えなくなったことで気が動転して同船との相対関係が分からないまま右転を続けたところ,ほぼ反転するような態勢でマチルデの前路に進出した。
 船長Hは,01時54分少し前たまたま船橋右舷後部海図台で目的地までの状況を海図で検討してふり返ったところ,目前に迫ったマチルデの船体を認め,手動操舵をA受審人に代わってとり,舵を右舵一杯から中央に戻し,機関を全速力後進にかけたが及ばず,東広丸は,01時54分神戸灯台から196度3.8海里の地点において,その船首が245度を向いたとき,船首ファッションプレート部がマチルデの右舷錨ベルマウス部に,8.5ノットの行きあしをもったまま,前方から60度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風はなく,潮候は上げ潮の初期で,付近には0.4ノットの西流があり,視程は良好であった。
 また,マチルデは,船長Iほかクロアチア共和国人など21人が乗り組み,バラ積石炭を満載し,2002年2月21日02時36分(オーストラリア東部標準時)オーストラリア連邦のニューキャッスル港を発し,福山港に向かった。
 越えて,3月5日23時48分船長Iは,友ケ島南方の大阪湾水先区水先人乗船地点でD受審人を乗船させ,以後二等航海士を船橋指揮の補佐に,操舵手を手動操舵にそれぞれ就かせ,コースレコーダーの表示時刻が5分遅れとなったまま,D受審人嚮導のもと大阪湾を水先交代地点に向かって北上した。
 D受審人は,翌6日01時32分神戸灯台から194度7.2海里の地点において,針路を015度に定め,機関を半速力前進にかけて12.3ノットの速力で,折からの潮流により2度左方に圧流されながら実効針路013度で進行した。
 01時36分D受審人は,左舷船首54度4.0海里のところに東広丸のレーダー映像を探知し,01時37分半機関を微速力前進とし,01時38分神戸灯台から194.5度6.1海里の地点に達したとき,左舷船首55度3.5海里のところに東広丸が存在する状況下,以後速力が毎分0.5ノットずつ逓減する状態で続航した。
 01時40分D受審人は,機関を極微速力前進としたとき,左舷船首55度3.0海里のところに白2灯及び緑1灯を表示する東広丸を視認し,その後同船が右方に横切り,その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況下,01時42分機関を停止したが,満載状態であったためその後も速力が毎分0.5ノットずつ逓減しながら進行した。
 D受審人は,01時45分東広丸を左舷船首55度1.9海里に見るようになったとき,速力が8.8ノットまで逓減したところで,機関を極微速力前進にかけたが速力逓減が毎分0.5ノット続くなか,同船が接近するので汽笛信号の代わりに注意を促す目的で,昼間信号灯を同船に向けて長音に相当する発光4回を2回繰り返し,船長Iが同様に1回これを照射し,圧流差が1度増えて実効針路012度となって北上した。
 01時48分D受審人は,神戸灯台から195度4.5海里の地点に達し,速力が7.3ノットとなり,東広丸を左舷船首53度1.2海里にみる態勢となったのち,速力の更なる逓減もあって同船の方位変化が明確に変わるようになったのを認めた。
 このころD受審人は,F受審人が水先艇から乗船したのを認め,01時50分東広丸を左舷船首46度1,550メートルにみる態勢で速力が6.3ノットとなったとき,圧流差が更に1度増加して4度となって実効針路011度で進行し,01時51分同船が左舷船首39度1,260メートルと更にその方位が大きく右方に変化する態勢で続航した。
 D受審人は,東広丸が前路を750メートル,すなわち船首端から500メートルばかり隔てて無難に航過する態勢となったものの,I船長から距離が近すぎるのではないかと指摘があったことから,同船を少しでも早く航過させるため,01時52分神戸灯台から195度4.1海里の地点で,10度ステディーとの操舵号令を発して006度の実効針路とし,速力が極微速力前進本来の5.3ノットに落ち着いたとき,F受審人が船橋に入ってきたのを認めた。
 D受審人は,東広丸が前路を航過したばかりの状況下,F受審人と水先業務の引き継ぎを始め,01時53分東広丸が右舷船首6度600メートルとなったとき,同船が大角度の右転をしていたことに気付かないまま,マチルデの船橋を離れて水先艇が待機する船体中央部やや前方右舷側甲板上の水先人用梯子に向かった。
 こうしてF受審人は,進路警戒船を前路遠方に配置し,水先業務を引き継いだ直後,平素は下船する水先人の安全を船橋ウイングで確かめたのち左転するところ,東広丸が右転を続けそのマスト灯の間隔が狭まっていることに気付き,左舵一杯をとり,やがて同船の両舷灯を認めるに至り,機関を停止したが及ばず,船首が回頭を始めて005度に向いたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突後,東広丸は,その場に停止して事後処置に当たり,マチルデは,そのまま左転を続け再度機関をかけて明石海峡を通過して播磨灘において錨泊して事後措置に当たった。
 衝突の結果,東広丸は,船首部に圧壊を,マチルデは,右舷船首部に小破口を伴う凹傷をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,海上交通安全法が適用される明石海峡東方の神戸港南西方沖合の海域で,東行する東広丸と北上するマチルデが衝突したもので,適用すべき航法について検討する。
 まず,海上交通安全法には,同海域における灯火形象物に関する規定のほかに,2船間に適用される航法の規定はないから,航法に関しては,海上衝突予防法が適用されることになる。
 当時,マチルデの進路警戒船が1隻,水先艇が2隻それぞれ付近に存在したが,進路警戒船についてはマチルデの進路方向遠方におり,また,2隻の水先艇については,東広丸及びマチルデいずれにもその操船に影響を与えたこと,両船とその他船舶との衝突のおそれが生じたことが認められないから,その他船舶の存在については,東広丸,マチルデ2船間の航法を判断するうえで考慮する必要はない。
 東広丸,マチルデの両船が互いに接近し,01時40分両船間の距離が3海里となった以降,東広丸は,マチルデを右舷船首43.5度3.0海里に見たのち,01時43分右舷船首43度2.4海里となり,その後その方位が右方に変化し始め,01時48分同船を右舷船首47度1.2海里に見るまで,8分間の方位変化が3度以内となっているが,対象が巨大船であるからこれは極めて方位の変化が少なく,衝突のおそれがある状況があったものと認められる。また,この間マチルデにおいては,01時40分東広丸を左舷55度に見てから,01時45分まで同方位に同船を見る態勢で進行しており,01時48分同船を左舷船首53度に見るまで,8分間の方位変化は2度であり,東広丸が総トン数498トンの船舶であることを考慮してもなお衝突のおそれがある状況であった。また,この間マチルデにおいては機関操作が行われているが,石炭を満載した巨大船においては極端な機関の使用をしない限り,急激な速力変化は起こらないことから,僅かな速力逓減があることをもって,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を排除する理由とならない。
 したがって,01時48分に至るまでの一定の時間においては,横切り船の航法を適用すべき状況にあったものと認めることができる。
 ところが,事実の経過で述べるように東広丸は,01時51分にマチルデの前路をその船首端から約500メートル隔てて無難に航過できることが明らかとなり,また,動静監視を行っていればこのことを知ることができ,01時53分少し前東広丸は,すでに右転を開始していたので直進したときよりマチルデの船首に多少接近する状況となったものの,この時点でその船首前方を約400メートル隔てて航過したのである。
 一方,マチルデは,01時51分には速力が更に逓減していたため,結果的に衝突を避けるための協力動作がとられたのと同じ状況となって東広丸が前路を航過することが明らかとなっていたから,この時点では衝突のおそれが解消されたものと認めることができる。
 これ以降,東広丸はマチルデの前路を右方に航過したのちも更なる右転を続け,最終的には150度ばかり右転してマチルデの前路に進出する態勢となった。
 海上衝突予防法上,このような関係となった際にとるべき具体的な航法の規定がないから,本件は,同法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 東広丸
(1)船長が自ら操船しなかったこと
(2)明石海峡航路東方灯浮標を左舷に見る針路としなかったこと
(3)A受審人が衝突のおそれを接近してから判断すればよいとしたこと
(4)A受審人がレーダーで,マチルデの映像を目視と比較確認しなかったこと
(5)A受審人がマチルデを巨大船と認識しなかったこと
(6)A受審人が昇橋していた一等機関士と雑談を交わしていたこと
(7)A受審人がマチルデに対する動静監視を行わなかったこと
(8)A受審人がマチルデと無難に替わる態勢となったことに気付かなかったこと
(9)A受審人がマチルデの紅灯のみを視認して同船との相対位置関係が分からないまま右転を続けて同船の前路に進出したこと

2 マチルデ
(1)舷灯の位置がマスト灯に比較して相対的に低かったこと
(2)D受審人が汽笛を使用して警告信号を行わなかったこと
(3)D受審人が東広丸の航過距離を大きくするため,機関を後進にかけるなどの最善の協力動作をとらなかったこと
(4)D受審人及びF受審人が東広丸を安全な距離に遠ざけるまで,水先業務の引き継ぎを待たなかったこと
(5)F受審人が衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(6)大阪湾水先区水先人と内海水先区水先人の業務引継地点が船舶交通の輻輳するところであったこと
(7)進路警戒船が衝突回避に関与しなかったこと

(原因の考察)
 東広丸が,マチルデの前路を無難に航過する態勢となったとき,右転を続けなければ本件は発生していなかった。
 A受審人が右転を続けたのは,マチルデを初認した際に接近してから同船を避ければよいと考えたこと,レーダーを3海里レンジから6海里レンジとした際にマチルデをレーダー画面上で確認しなかったこと,同船を巨大船と認識しなかったこと,同船が無難に替わる態勢となったことに気付かなかったこと,相対位置関係を認識していなかったことによるものである。
 そしてこれらは,同人がマチルデに対する動静監視を十分に行わなかったことの態様であり,いずれも本件発生の原因となる。
 船長が自ら操船していなかったこと,明石海峡航路東方灯浮標を左舷に見る針路としなかったこと,A受審人が昇橋中の一等機関士と雑談を交わしていたことについては,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点からいずれも是正されるべき事項である。
 他方マチルデにおいて,D受審人が汽笛信号を行わなかったこと,同人とF受審人との引き継ぎを遅らせなかったこと,F受審人が,衝突を避けるための措置をとらなかったこと,進路警戒船が衝突予防に関与しなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点からいずれも是正されるべき事項である。
 マチルデの舷灯がマスト灯と比較して相対的に低い位置にあったこと,大阪湾水先区水先人と内海水先区水先人の水先業務引継地点が船舶輻輳海域にあることは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,これは環境等が相対的に良好でなかったことを示すのみであり,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,明石海峡航路東方の神戸港南西方沖合において,両船の進路が互いに交差するも,東行中の東広丸が北上中のマチルデの前路を無難に航過する態勢となった際,東広丸が,動静監視不十分で,マチルデ船首方至近で右舵一杯としたうえ船首前方を航過したのちも右転しながら進行して同船の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,明石海峡航路東方の神戸港南西方沖合において,単独で船橋当直に当たって東行中,右舷船首方にマチルデの左舷灯を視認した場合,多種多様な船舶が互いに進路を交差,輻輳する海域であったから,マチルデがどんな船舶であり衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,接近したのち改めて衝突のおそれがあるようであれば避ければよいと思い,同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,そのまま進行すれば同船の船首方を無難に航過する態勢となったことに気付かず,マチルデの船首方近距離で右舵一杯をとったまま右転し,同船の前路に進出して同船との衝突を招き,東広丸の船首部に圧壊を,マチルデの右舷船首部に小破口を伴う凹傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
 F受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成15年1月22日神審言渡
 本件衝突は,東広丸が,動静監視不十分で,無難に航過する態勢であったマチルデの前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。


参考図1
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参考図2
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