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講演2
災害時の慢性疾患患者、障害者、要支援者に対する対応についての国の施策
内閣府政策統括官(防災担当)付
災害応急対策担当参事官補佐
丸山 直紀
 
【講演の要約】
 2004年の一連の風水害、新潟県中越地震、またアメリカのハリケーンカトリーナ被災等の実災害を通して、「災害への備えの重要性」が痛感された。ハリケーンカトリーナ被災でも「まさか」と思っていたことが多く、災害時における活動計画が定められてなかった。そこで「日頃から我々個々人が住んでいる地域に於いてどのような災害が想定されるか、例えば他の地域の災害の状況をもとに、我々の地域ではどのような形で対応が出来るのかなと、いろんな事を考えながら、日頃の備えに反映させていくことが、すごい重要であると実感しました。」ミシシッピ州の場合1148人が船上避難していてこのことは「災害の場において船を使おう」という発想や災害医療船の活用の話としてこれから進むと考えられる。
 また、内閣府の防災への取り組み、とくに災害時の要援護者支援の取り組みとして(1)情報伝達体制の整備、(2)災害時要援護者情報の共有、(3)避難支援計画の具体化、の三つの課題を挙げている。(1)情報伝達体制の整備、の中ではとくに具体的なものとして「避難準備情報の発令」を新たに設けたことをあげ、「車椅子の方々など要援護者は、避難勧告、避難指示を待たずに避難準備情報の発令の段階で逃げてほしい」と強調された。また(2)災害時要援護者情報の共有、については、「災害時要援護者支援班の設置」「福祉関係部局と防災関係部局の連携」とともに、個人情報保護との関連で、これらの情報を把握することは難しいが、災害時要援護者支援においてはより積極的に取り組んでいかなければならない、そのため支援に必要な第三者、自主防災組織などに情報を提供する「共有情報方式」が現実的との見方をしている。
 また(3)避難支援計画の具体化、においては「避難支援プラン」「避難支援ガイドライン」「福祉避難所の設置」などとともに「医療担当者、看護師、保健師、障害者団体、行政もそうですし、いろんな方がございますけれども、そういった方々の間の連携というのを如何に構築するかということが非常に課題になっております。」
 災害時の要援護者支援の具体化のポイントとして、(1)福祉サービスの継続、(2)避難支援関係者連絡会議(3)情報伝達情報収集の関係の3点を上げている。
 またネットワークづくりの重要性について「透析医会を中心とした形で今構築されているネットワーク、こういったものの概念を他の障害者団体、他の障害の種別の方々に於いてもやはり活用出来るように取り組んでいくことが大切」とし、要援護者対策の課題に対し「アメリカの関係者の方々とも要援護者対策の関係を話をさせていただいたが、やはり彼らの口から出て来るのも『要援護者対策というのはチャレンジ』だということ。やはり難しいんだけれども取り組まなければいけない課題であるとした熱意、共通の考え方を持っていることを改めて感じた。そういった意味合いでも情報の共有、そして関係する関係機関との間との連携、これが重要であると考えています。」
 
災害時要援護者の避難支援ガイドライン
(平成17年3月)
 
報告3
阪神地域における災害時医療支援船運用航海事業 船舶側から
神戸大学海事科学部教授
井上 欣三
 
【報告の要約】
 医療支援船構想の基本コンセプトは「透析患者さんの被災地病院から近郊の受け入れ施設に船を使って搬送しよう」ということ、如何に統率の取れた運び方をするか、ここのしくみを他の地域の方々にそのマニュアルとして伝達していきたい。
 阪神淡路大震災で被災者だった私は、災害時に船が役に立っていたか、私も含めて学生に調査させた。注目すべきは医療の救助活動という面から船がどれだけ活用されたかという点。しかし内藤先生のチームが六甲アイランドからクルーザーを使って透析患者さんを大阪に運ばれたという1件を除いて初期の3日間では何もなされていなかった。
 「発災から3日間というのは人の命を救う、その3日間であろうというのは誰もが認識するところで、この3日間でどのようにすれば船が人の命を救えるかということをいろいろ考えて来ました。しかし現実には最初の3日間何にも出来ませんでした。これはほんとうに悔しい思いを持っています。」そこで船を活用した海からの支援というものを調査し、大学の練習船深江丸を使って何かの役に立てられないかと考えた。その時、内藤先生と運命の出会いがあった。
 「船に何が出来るかといった時に、思い付くのはやはり救急救命医療の患者の搬送ですが、内藤先生から3日に1度は透析をしなければならない透析患者さんの医療の状態とか、お話をお聞きし、救命救急から少しセカンダリーの場所に置かれたような状態でも、命の重要性はここの方が大きいんだろうという風に感じました。」
 しかし統率の取れた仕組みをどうしても作らないといけないと思い、衛星通信を利用した海陸連携支援システムというものを開発し、16年6月、日本透析医学会主催の「医療と危機管理」企画で、パネリストとして参加し、海陸連携支援システムを展示させてもらった。それがきっかけになって今日に至っている。
 「陸、空、海、それぞれが役割分担できると考え、船で全てとは考えていないんです。船で補完出来れば良いんではないか。例えば救命救急患者には医療設備がある国の船で引き受けられるべきであろうし、そういう救急患者を引き受けられない部分を民間の船が、透析医学会や医会と連携をして、その受け皿になると言う、そういう発想がリーズナブルなのではないのかと思っています」
 基本は船だからこそ出来るというものは何なのか、これを考えればここでの発想が恐らく必然性があり合理性があるというふうに認識して、その結果が透析患者さんの搬送ということだった。
 平成17年3月には災医連事業として医師に、また日本財団の助成事業として7月19日に医療チームに乗ってもらい、深江丸を対象にしたフィージビリティー調査を行った。10月2日に透析患者さんを搬送する訓練ということで、深江から大阪へ航海。また1月の14日に資機材の輸送のフィージビリティーの調査のため懇談会を開いている。
 訓練を通して問題もあがってきた。「お医者さんや看護師さん、カウンセラーや家族の方々、どのようにしたケア体制を取るべきなのか、この辺の問題点もあります。しかし訓練航海の実践を通じて初めて生きた災害対策となる、このような訓練を継続する事ではじめて患者や医療関係者に意識が定着するだろうと、このことが重要な点だと思います。」
 現在、深江丸を対象に検証しているが、どのような船舶でその支援船組織を作るべきか、それらをどのようにコントロールすべきか。支援協力船舶・組織に高いメンタリティーを持って組織に加わって頂きたい。
 またこのプロトタイプモデルを確立して、そのマニュアルを関東圏で、中京圏で、九州圏で活用しそれぞれの仕組みを、地域で作っていくことが重要と思っている。
 「阪神の教訓の悔しさというものをどう活かしていくかという意味で、神戸大学にとっても透析医療界との連携プロジェクトが組めたことは大変良かったと思っています。人の命を救いたいんだという気持ちがここまで具体的になって来たことを大変喜んでいます。特別な装備がなくても、船だからこそできることを考えていくと、ここへ行き着いたというふうに思っています。」
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報告4
「阪神地域における災害時医療支援船運用航海事業 医療側から」
日本透析医会常務理事
山川 智之
 
【報告の要約】
 3月の災害医療連絡協議会による航海のレポートの中で「実際患者さん乗せてどこまで出来るんだろうか」というような話が意見としてあった。この辺りの検討をすることが結果として2回目、3回目の航海の内容につながっていった。
 7月は、23名の看護師、臨床工学技士が参加して、単に船に乗せましたということではなく「地震と津波により透析できなくなった透析室が海辺にある」という想定で、そこから患者さんにスタッフが付き添い、透析が出来る施設に船で移動する設定を考えた。更に船上で医療スタッフを4つのグループに分け、いろいろな課題で検討してもらった。またCHF機械を持ち込み、この7月の航海の時に試験運転をし、実際に患者役で寝ていただき、穿刺できるかどうかも検討した。
 10月、いよいよ患者さんに乗っていただこうということで兵庫県の腎友会の方に依頼し15名、大阪からも5名、合計20名の患者さんに乗っていただいた。兵庫の宮本クリニックが被災して、大阪で白鷺病院で透析を受けるという前提で考えた。
 船の中では実際患者情報を支援施設に送るというような想定で患者さんからの聞き取り調査をした。情報通信テストは神戸大学と深江丸を船舶専用回線で繋いでいるので、これを使いメール送信を行い、神戸大学からインターネットで白鷺病院に転送という形で送ってもらった。
 患者さんから聞き取りの中で情報カードを持っている方が実に14名、4分の3の方が持っていた。アンケート調査では「災害支援船は必要だと思われましたか」との問いには、必要が19名と全て肯定的な解答だった。
 「今後の課題は、『透析医会としてどういう事を考えているか』ということです。災害情報ネットワークのシステム強化及び普及ということ。透析医会の災害情報ネットワークの認知度は高まっていると思いますけれども、実際どれくらい使われているかと考えれば、まだまだ使って頂きたいと、頂かなければいけない部分があります。システムの部分でもまだまだ対応しなければならない。地域ごとにやはり災害対策というのをしていかなければいけないということもありまして、災害対策をテコにした医会の支部の機能強化をしていかないといけない。地域単位でネットワークを作っていこうということでありますね。メーカー、流通関係、医者或いは災医連とも連携しまして、流通における災害対策という事についても透析医会として取り組んでいきたいと思っております。」
 
閉会のことば
日本透析医学会
危機管理小委員会委員長
内藤 秀宗
 
 「海からの搬送」ということについて、また、今日の首都直下型地震に対して東京都、それから国の公的支援が今どうなっているか、やや透析患者には冷たいなと思ったら意外と親切に進んでいるなというお話を聞いて安心しております。
 兵庫県はどうも神戸市をあげて冷たいものですから、東京も冷たいかなと思ったらさすが石原知事のあるところで、暖かいお話を聞いて心強く思っております。
 それと内閣府の政策統括防災付の丸山さんからもお話がありましたけれども、万が一に備えて、まさかあるまいというようなことの為に透析医療の患者さん、もしくは他の患者さんも守っていきたいのですけれども、医療費が少ないと言ってゆとりが無くなっていくと、武士は食わねど高楊枝は何時までも出来ませんので、その辺も皆さんどうぞご配慮下さるよう、ご挨拶に代えて本日の閉会の挨拶にさせて頂きます。
 
■日本財団助成事業「災害時医療支援船の運用計画第定と実施」委員会
●本部役員
山崎 親雄 助成代表者 日本透析医会会長
押田 榮一 災医連会長 情報文明研究所所長
井上 欣三 災医連副会長 神戸大学海事科学部教授
内藤 秀宗 災医連副会長 日本透析医学会危機管理小委員会委員長
杉崎 弘章 災医連副会長 日本透析医会専務理事
 
●調査委員(海事関係)
矢野 吉治 神戸大学海事科学部 深江丸船長
臼井 英夫 神戸大学海事科学部 助教授
廣野 康平 神戸大学海事科学部 助教授
世良 亘  神戸大学海事科学部 助教授
 
●調査委員(医療関係)
山川 智之 日本透析医会常務理事
水口 潤  日本透析医学会理事
武本 佳昭 日本透析医学会理事
赤塚東司雄 日本透析医会
笛木 久雄 日本透析医会
宮本 孝  日本透析医会
武田 稔男 日本透析医会
 
●記録・広報
花崎 哲  桜映画社
 
●事務局
時田 正行 日本透析医会事務局
神谷 忠明 (医)心施会事務局


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