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1. 事業目的
 大規模災害時に、船舶を医療支援船に転用し、被災地近くの海域から被災者の救援にあたる計画をより具現化するための調査と訓練、災害時船舶支援についての一般への理解推進、災害時情報としてのネットワークの研究・開発を目的とする。そのために以下の調査・訓練を行う。
(1)災害時医療支援船構想計画準備およびその組織化のための調査
(2)災害時医療支援船プロトタイプモデルを使った運用訓練
(3)災害時医療支援船構想普及のための啓蒙活動
 今年度は慢性腎不全の患者(身体障害者、透析患者全国25万人、災害時3日と治療を休めない切実な問題を抱える患者)を対象とし、それを支援する透析施設の医師、看護師、臨床工学士などの専門職、船舶関係者、医薬・医療機器メーカー関係者の協力を得て検討する。
 
2. 組織及び参加者
本部役員:山崎 親雄(代表者、日本透析医会会長)
押田 栄一(災害時医療連絡協議会会長)
井上 欣三(神戸大学海事科学部教授)
内藤 秀宗(日本透析医学会理事)
杉崎 弘章(日本透析医会専務理事)
 
調査委員:矢野 吉春(神戸大学海事科学部 深江丸船長)
臼井 英夫(神戸大学海事科学部 助教授)
廣野 康平(神戸大学連携創造センター 助教授)
世良 亘 (神戸大学海事科学部 助教授)
山川 智之(日本透析医会常任理事)
水口 潤 (日本透析医学会理事)
武本 佳昭(日本透析医学会理事)
赤塚東司雄(日本透析医会災害時透析医療対策部会)
笛木 久雄(日本透析医会災害時透析医療対策部会)
宮本 孝 (日本透析医会支部長)
武田 稔男(日本透析医会情報ネットワーク本部)
 
記録・広報:花崎 哲(桜映画社ライフサイエンス映像部プロデューサー)
 
事務局:時田 正行(日本透析医会 事務局次長)
神谷 忠明((医)心施会総務部)
 
3. 活動経過
2005.5.17(火) 「災害時医療支援船運用計画策定と実施」委員会開催
(東京、ホテルニュー神田)
 本部役員、調査委員(実行部会)、記録・広報、事務局と役割分担し実施することに決定
 
2005.6.5(日) 第1回実行部会開催(神戸大学海事科学部)
 第1回目の検証航海を2005.7.18(月)〜19(火)を予定。神戸大学海事科学部所属の練習船『深江丸』を使用し、医療スタッフの宿泊体験と検証航海を実施することに決定
 
2005.7.18(月)〜19(火) 第1回検証航海(『深江丸』使用)
 透析施設の医師、看護師、臨床工学技士、機器メーカー技術者の1泊船中泊と検証航海を実施。CHF機器を用いた緊急船上透析の可能性を検討。
 
2005.9.14(水) 第2回実行部会開催(神戸大学海事科学部)
 第2回目の検証航海を2005.10.2(日)を予定。『深江丸』を使用し透析患者の体験乗船を実施、又、日本透析医会の災害時使用「危機管理メーリングリスト(現「災害時情報メーリングリスト」)」と神戸大学「海陸連携支援システム」を同時使用してその運用性を検討することを決定
 
2005.10.2(日) 第2回検証航海(『深江丸』使用)
 『深江丸』による患者移送運用航海(阪神西宮駅より搬送用のバス使用〜神戸大学深江キャンパス〜『深江丸』にて大阪港(天保山岸壁)〜搬送用バスにて白鷺病院へ患者移送)実施。参加患者19名。患者が海上搬送にたえられるかなどを、患者自身および医師、看護師、臨床工学技士といった医療スタッフが個々の職責の視点および職責相互関係の視点から検証。又、船内にて患者情報収集→海陸連携支援システムを使って、受け入れ施設の白鷺病院へ患者データを送信する情報伝達訓練を実施。
 
2005.11.14(土) 第3回実行部会開催(神戸大学海事科学部)
 第3回検証航海においては『深江丸』は出動せずに「透析医療資機材輸送懇談会」として、医療器材メーカー、医薬品メーカーなどに集まってもらって検討することに決定
 
2006.1.14(土) 「透析医療資機材輸送懇談会」開催
(神戸大学海事科学部)
 大規模災害発生により、透析施設が被災し医療材料や医薬品が不足する事態になった場合、医薬品・医療材料などの企業と医療機関の連携及び海上輸送を含む物品輸送の問題について検討。
 
2006.2.12(日) 講演会「首都直下型地震と医療」開催
(船の科学館マリーンホール、お台場)
 阪神における災害時医療支援船の経験とこの一年間の成果を報告。又、首都直下型地震を想定して、首都圏の医療施設の取り組み、東京都および内閣府から行政の取り組みについて講演を実施。
 
4. 調査・訓練からの問題点および提言
1)患者搬送における問題点
・船舶のある港までの陸送の問題
・乗船する患者選択の問題、乗船するスタッフ数の問題:
 乗船前の患者状態による選択は重要。急変時の対応を考え選択するべきとの意見があった。又、急変時の対応を考えれば医師の乗船を原則的に前提とすべきものであろう。
 
・船舶のハード面の問題:
 タラップの狭さ、階段の急勾配・狭さについては、可能なら車椅子の使用(要介護者)、無理なら毛布、シーツなどで簡易担架など人手を使う提案があった。
 バリアフリーでないことに対しては、船内の移動距離を減らすため天候によりデッキでの収容を考慮。
 トイレ移動の問題が指摘されたが、即席トイレ、簡易トイレ(シーツ、毛布で隔離)が提案された。
 災害時という認識のもと、それぞれ工夫をすることで乗り切れそうである。
 
・ソフト面の問題:
 精神的ケアについては、スタッフから状況をしっかり説明すること、可能であれば患者の家族が同行するべきだという意見もあった。
 
2)多数の患者を支援施設へ送るのを想定して準備すべき問題点(スタッフ側の意見)
・災害時の患者情報伝達に関して「患者情報カード」の必要性を確認。
・「患者情報カード」などの個人情報を持参していれば、船内では「現在の患者の状況と外傷の有無」についてのチェックだけで済む。
 第2回検証航海で情報収集、情報量の問題が指摘され簡素化が必要。
 
3)船内治療における問題点
・船内治療の範囲は、補液、圧迫止血などによって止血可能な創傷処置、酸素投与までを想定、急変時の対応以外の処置は行わないという想定。
・補液については、ひもなどで固定できれば施行可能、酸素投与いついてもボンベの固定が出来れば可能。経鼻カニューレ、パルスオキシメーターがあると良い。
・船内に準備すべき物品は、清潔ガーゼ、消毒薬、包帯、テープ、創部保護シート、ディスポの摂子、血圧計、体重計、聴診器、駆血帯、ディスポシリンジ、注射器、輸液セット、生理食塩水、心電計、血糖測定器、緊急用薬品(内服、注射薬)など。
 
4)船内CHF(持続性血液濾過器)運転の検証
・船舶の発電による電圧の心配があったが、特に問題なくスムースに運転可能であった。今後、船内緊急治療としてのCHFの適応などについては今後検討。
 
5)情報伝達訓練の問題点
・患者が多く患者情報を聴取するのに時間を要したり、情報発信のため手間取ったりすることがあり、送信する患者情報に優先順位をつけるべきである。
 緊急性の高くない情報は後でもよく、一律に情報を聴取する必要はないと考えられた。
・最低限必要な情報は「患者氏名」と「ドライウェイト」だけか?
 重症者、合併症のない患者については、それ以外の情報は患者到着後でも遅くない。
・送信手段についての問題点
 今回電子メールで患者情報を伝達したが、患者からの聞き取り→紙に記載した情報を、人手を使って電子化することは、時間も要し効率が悪い。
 更に船舶からの情報を一旦地上で受け取り、そこから地上のインターネットを通じて送られるため、情報量、迅速性に問題がある。患者情報をどのような方法で送信するかについては、今後更なる検討が必要である。
・患者からの聞き取り調査からの問題点
 血液型、透析時間については100%認識。次いでアレルギーの有無、ドライウエイト、血流量については80%認識。透析膜についてはほとんど認識されておらず、膜面積については50%以下の認識。注射薬と内服薬についてはほとんどが認識されていなかった。
 従って、各施設で患者教育の重要性を再認識。重要情報であるドライウエイトについては変更時に認識させる努力が必要。アレルギーについても繰り返し認識させること、循環器疾患や糖尿病の投薬情報も同様で文書で説明している施設もあり通常から携帯するか、メモしておくことを指導しておく必要がある。
・患者アンケート調査からの問題点
 被災したという前提での行動を問うたが、通院している施設に連絡をとると答えた患者が多く、意識レベルが高い。
 被災地から離れた施設で透析をする場合の滞在場所は、過半数が被災地から離れて良い。滞在日数の限度については1週間が最も多かった。
 
6)透析医療資機材輸送懇談会からの問題点
・医薬品は「メーカー ⇔ 卸業者 ⇔ 医療施設」という流れがあり、緊急時でも卸業者が前面に出ることになる。その後ろにメーカーが係っている。
 但し、透析液のような重いもの(薬品梱包27kg)は工場から直接医療施設へ運搬していることが多い。災害時も同様な対応をとることになる。
・医療資機材については、医薬品のネットワークに組み込まれておらず、各メーカーで独自のルートを構築している。従って、物流ルートだけ残っていれば必要なものは被災地まで届く。
・患者の移動、医薬品、医療資機材をコーディネートするシステムが必要である。
・船舶の出航の際、どこに何を集めてどこに運ぶのか、指示がないと船は動けない。
 指揮系統の確立が望まれる。
・メーカーの自己完結の仕組みはできているようであるが、大災害時、首都直下型地震などでどの程度の機能ができるのか?もっと大きな仕組みが必要である。
 警察の協力をはじめ行政の対応も望まれる。
 
5. 日本財団助成事業:災害時医療支援船構想報告講演会
テーマ「首都直下型地震と医療」
1. 開会のことば 日本透析医会会長 山崎 親雄
 
2. ご挨拶「都市型災害対応に望むこと」 日本透析医学会理事長 斉藤 明
 
3. 問題提起
「東京直下型地震とは何か?その時、医療は何をなすべきか?」
日本透析医会災害時透析医療対策部会 赤塚 東司雄
 
4. 報告1「東京都の透析施設における災害への取り組み」
「東京23区における取り組み」
東京女子医科大学腎臓病総合医療センター教授 秋葉 隆
「東京三多摩地域における取り組み」
日本透析医会専務理事 杉崎 弘章
 
5. 講演1
「東京都における災害時の医療に対する取り組み
−都市型災害をふまえて」
東京都福祉保健局医療政策部長 丸山 浩一
 
6. 再び問題提起
「慢性疾患患者に対する災害対策に何がもとめられているか?」
日本透析医会災害時透析医療対策部会 赤塚 東司雄
 
7. 講演2
「災害時の慢性疾患患者、障害者、
要支援者に対する対応についての国の施策」
内閣府政策統括官(防災担当)付災害応急対策担当参事官補佐
丸山 直紀
 
8. ビデオ上映「災害時医療支援船構想」
 
9. 報告2「阪神地域における災害支援船運用航海事業」
「船舶側からの報告」 神戸大学海事科学部教授 井上 欣三
「医療側からの報告」 日本透析医会常務理事 山川 智之
 
10. 閉会のことば 日本透析医学会災害対策小委員会委員長 内藤 秀宗
 
6. 成果物
1. 報告書「災害医療支援船の実現化に向けた調査・運用訓練の実施」
2. 小冊子「災害時医療支援船構想 2005」
3. DVD「災害時医療支援船構想−その運用検証航海−」
4. DVD「首都直下型地震と医療(災害時医療支援船構想報告講演会)」


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