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相談の技術と基礎知識
社団法人 日本自閉症協会
専門相談員
永井 洋子 氏
武藤 直子 氏
 
ペアレント・メンター養成講座(第1日)
2005年11月19日(名古屋) 12月10日(東京)
 
相談の技術と基礎知識
静岡県立大学看護学部 永井洋子
全国療育相談センター 武藤直子
 
<目的>
 この講座全体としての目的は、ペアレント・メンターとして必要な専門的知識と技術を学び、実際にメンターの役割を自覚して活動できる人を養成することにある。
 このセッションでは、療育相談に必要なメンター側のカウンセリング技術とそこで必要な専門知識・心構え・留意点などについて述べる。療育相談は、子どもの障害という厳しい現状に家族が直面しつつ、障害受容のプロセスの中で家族が自律的に考え、各年齢段階における発達課題をいかにクリヤーしていくかの視点から支援する。
 
1. 面接・相談に必要なこと
1)基礎となる発達に関連する要因
(1)年齢段階的→子どもの各年齢による発達課題がある
(2)歴史段階的→昔と現在とでは社会的な条件が異なる
(3)個人特有性→親と子の各々の特徴と特有な相互関係がある
 
2)インテーク面接
(1)始めに
・始めの挨拶
・相談の際の枠組み→相談対象、場所、時間帯、相談時間
・面接の場合:窓に向かっての席が望ましい
(2)理解の共有→どのように目標を共有するか
(1)本人あるいは家族が何を訴えたいか。
注:本当に心配なことは表現されないことがある
(2)必要な子どもの条件を聞き取る
(3)この問題の経過と緊急性について
(4)家族(親)の実情・性格傾向・心理状態
 
3)信頼関係の確立
(1)ラポールの成立(暖かい心の交流)
(1)共感:同情とか同感ではない
(2)傾聴:相手のものの見方・考え方、気持ちに耳を傾ける
(3)共感を言語化する:要約・言い換え・理解の確認
 
4)相談の深まり
(1)直面化・対決・気づき
(1)モノの見方や行動が偏っている時
(2)自己イメージと行動の不一致の時
(2)目標を定め、実行する
(1)実現可能な目標を定める
(2)確認して意思を問う(例:できそうか否か、どう思うか、等)
(3)実行する→修正実行する
(3)守秘義務
・上司、同僚、外の機関との連携に関連することなどは
特に本人・家族の了承を得る
(4)相談終了
(1)今日の相談のまとめ、今後の相談
(2)相談の終結には至らない→
・専門機関の紹介とその後の連携
・継続相談
 
5)治療者に求められる態度・姿勢(村瀬より)
(1)新鮮な存在としての治療者
(誠実・健全な常識の持ち主でありながらそれにとらわれない自由な思考)
(2)適切な距離・良き客観性・バランス感覚
(3)言葉の表面的意味にとらわれない、的確で細心な観察
(4)実りある退行への工夫、退行的でありながら成長促進的な重層的働き
(5)具体的な意味のある示唆、言葉だけでなくマイナス面も考慮しつつ行動する機動性
(6)加害者や被害者を同定するよりも家族に安らぎを
 
2. 子どもの状態の捉え方
1)発達段階の把握:前言語期から高機能まで
<発達初期のポイント>
(1)言葉と理解
(2)指さし
(3)要求手段
(4)玩具の扱い
(5)動作模倣
(6)絵本への興味
(7)描画
 
【例:ミニカーの扱い】
 
2)年齢段階別の家族と子どもの発達課題
<親としての課題> <子どもへの課題>
乳幼児期 ・子どもの障害と向き合う
・夫婦協力の基礎作り
・母子関係の基礎作り
・良い生活習慣の確立
学齢期 ・学校との良き協力関係
・家族員の協力と再構築
・近隣の理解と融和
・認知・情緒の発達
・各種スキルの獲得
・集団での適応行動
青年期 ・親子関係の質的転換
・将来的見通しをたてる
・社会資源の活用
・自立的行動
・余暇や趣味をもつ
・職場や地域での適応
全年齢 ・家族員相互のバランス ・緊張と発散のバランス
 
3)行動障害への対応
<対処の基本>
(1)こだわりにこだわるよりも趣味やスキルを増やす
(2)生活全体の視点から
(3)成長・発達的視点から
(4)非嫌悪的であること
 
3. 家族の受容のプロセスを支える
 
4. ペアレント・メンターとしての配慮点
(1)客観性を保つ
→自分の経験だけを主張しない
(2)適度な安定的距離
→親(来談者)への心理的な巻き込まれに注意する
(3)発達的視点
→療育や教育的アドバイスには発達的視点が必須
(4)陽性転移・陰性転移
→来談者がカウンセラーに特殊な感情や態度をむける
(5)質問に答えられない場合
→・保留にする(例:次回までに調べておきます)
・逆に相手(来談者)に意見や経験を問う
(6)無意識の世界
→防衛機制の働き
(7)「見守る」ということ
→放っておくことではない
 
5. 受講生のアンケートに答える
* 共感:「共感」とは、相手の心をあたかも自分が感じている気持ちであるかのように感じとり、同時に感情に飲み込まれないこと。「同情」というように、自分の心で感じることではない。同情は相手の心で感じるのではなく、自分がどう感じたかということで、共感とは異なる。相手が表現していることを、無条件で心から大事に積極的に受け止める。そのためには、自分の気持ちや感情に常に気付いていることや、ありのままの自分でいられる「冷静な自己」が必要である。
* エンパワメントアプローチ:相談をしてくる人は、「自己実現や、困難を解決しようという願いを持っているが、厳しい環境の中で自信や希望を失っている(パワーレス)状態にある。条件さえ整えば、自分自身で答えを見つけ出す力をもっている」存在である。メンターが問題解決をするのではなく、「来談者自身が問題解決の主体者」という観点から、パワーを回復し、問題解決の力が高まるように情報提供・知識伝授など援助するアプローチのあり方(援助の基本理念)


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