日本財団 図書館


1・4 GMDSSの概要
 このシステムの基本的な概念は図1・1に示されているが、捜索救助当局が最小の遅延時間で協同的捜索救助活動を行って援助できるように、陸上や遭難船の近傍に居る船に遭難の発生が素早く通報されると共に、遭難者の発見を迅速に行うことを目指している。
 GMDSSにおいては船に搭載することが要求される装置は、原則的にその船の行動水域によって定められるとした。そしてその行動水域は次のように定められた。
A1水域−陸上にあるVHF海岸局の通達範囲(20〜30海里)
A2水域−陸上にある中波(MF)海岸局の通達範囲、ただしA1水域を除く(150海里程度)
A3水域−静止型通信衛星の通達範囲、ただし、A1とA2水域を除く(約70°Nと70°Sとの間)
A4水域-A1、A2、A3水域以外の全水域(極地)
 そしてこれらの水域で用いられる主要な設備は、
(1)コスパス・サーサット(COSPAS・SARSAT)衛星による非常用位置指示電波標識(通稱406MHz EPIRB)、インマルサット衛星による非常用位置指示電波標識(通称Lバンド EPIRB)、VHF非常用位置指示電波標識(VHF-EPIRB)
(2)9GHz捜索救助用レーダー・トランスポンダー(Search and Rescue Radar Transponder)(通称 SART)
(3)VHF/MF/HFのデジタル選択呼出装置(Digital Selective Calling System)(通称 DSC)
(4)遭難通報聴守装置
(5)無線電話並びに印刷電信装置
(6)INMARSAT衛星による遭難通信
(7)狭帯域直接印刷電信装置(Narrow Band Direct Printing)(通称 NBDP)等で、その機能は遭難通報(Alerting)、捜索救助協力通信、現場通信、位置表示信号、海上安全情報放送、一般通信、船橋対船橋通信となっている。
 そして、GMDSSに於ける船舶設備の搭載要件は、次のような原則に立って策定された。
(1)各船は、その航行水域に適したところの、既に述べた機能の夫々を前述の無線通信技術の少なくとも1つを使用して遂行できる装置を搭載すること。
(2)各船は少なくとも2つの別々で互いに独立した、遭難通報機能を遂行するための無線設備を搭載すること。
(3)上述のもの以外で、船に備えられる1つの装置が1つ以上の機能を遂行できるものでもよいし、1つ以上の無線通信設備が組合わされたものでもよい。
(4)船舶に搭載される装置は操作が簡単でかつ、適切である限り保守作業の必要のないように設計されていること。
(5)生存艇には現場通信機能を果たすことができるように、VHF無線電話装置を備えること。
(6)生存艇にはまた、捜索救助用の9GHzレーダー・トランスポンダーを備えること。
 そこで、海上における遭難及び安全に関する世界的な制度の各水域を航行する船舶に対しての搭載要件は、次のように集約することができる。
イ. A1水域航行船はVHF装置を持つこと。
ロ. A2水域航行船はVHFとMF装置を持つこと。
ハ. A3水域航行船はVHFと、MFと、HF又は衛星装置のいずれかの3つの装置を持つこと。
ニ. A4水域航行船はVHFとMFとHF装置を持つこと。
ホ. A2、A3、A4水域航行船は衛星系EPIRBを持つこと。
ヘ. A1水域航行船は衛星系EPIRB又はVHF EPIRBのいずれか1つを持つこと。
ト. NAVTEXサービスを受けられる水域で行動する全船は、NAVTEX受信機を持つこと。
 以上の搭載要件を、SOLAS条約では表1・1の一覧表のように定めている。
 GMDSSはこのようにして船舶遭難時の通信だけでなく一般通信も含まれることになったので、搭載設備も非常に種類が多くなった。その結果、遭難時に船長はどの装置を使って、どのように送信すればよいか判断に迷うことが予想された。そこで日本船長協会では、船舶遭難時にGMDSSを使用する上で船長のなすべき処置の指針を与えるべく、国際船長協会を通じて1990年12月の第36回無線通信小委員会に「GMDSS operating guidance for shipmasters in distress situations」として流れ図形式の指針案を提出した(COM 36/3/11)。
 この案は、1991年の救命捜索救助小委員会及び無線通信小委員会で審議され図1・2のような流れ図が採択された。各船はこの図を参考にしてその装備状況に応じた流れ図を作成して、船橋に掲示するよう勧告されている。また、この流れ図はMERSAR Manual(Merchant Ship Search and Rescue Manual)に付加されることになった。
 この流れ図によれば、遭難時緊急の場合はEPIRBのスイッチを入れSARTと双方向無線電話を持って救命筏に乗り、SARTのスイッチを入れて救助を待てばよいだけであることが分かる。
 
図1・1  海上における遭難及び安全に関する世界的な制度の基本的概念図
(拡大画面:50KB)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION