2・1・2 ナブテックス受信機
ナブテックス受信機は、518kHzの周波数で狭帯域直接印刷電信により放送される英語の海上安全情報を自動的に受信し、印字する無線設備である。我が国では国際ナブテックス受信機のほか、424kHz周波数で受信する日本語ナブテックス受信機がある。
この受信機(一例を図2・6に示す)は、空中線、受信部、信号処理・制御部と印字装置(プリンター)から構成されており、空中線と受信部は518kHz(日本語放送では424kHz)の固定周波数の受信機で、そのカバレージ内にある各ナブテックス送信局から時分割で送られてくる信号をすべて受信し、信号処理・制御部に送る。信号処理・制御部のコンピュータは、利用者が設定した局(B1、日本語放送ではM1)とメッセージの種類(B2、日本語放送ではM2)と受信したそれぞれのメッセージに前置されている同じ記号とを判定し、必要とするメッセージのみを印字する。コンピュータはまた、そのメッセージがすでに印字済みであるか否かも判定し、同じメッセージは二度印字しない。
また、送信局、情報の内容について航行警報、気象警報及び捜索救助警報を除き選択受信することができる。
ナブテックス受信機の性能要件については、平成14年告示第512号第6条及び関連の船舶検査心得に規程されている。
一方、電波法では電波法施行規則第12条(具備すべき電波等)で、「ナブテックス受信機F1B電波518kHz」受信の規定があり、ナブテックス受信機の要件については、無線設備規則第40条の10(ナブテックス受信機)及び郵政省告示平成6年第544号「ナブテックス受信機の技術条件」に規定されている。
図2・6 ナブテックス受信機
主な性能要件を下表に示す。
日本語ナブテックスは、GMDSSで義務づけられた518kHzの英語による国際的な放送とは別に許可される自国語放送のひとつである。周波数はIMOの提案では490kHzとなっていたが、500kHzの遭難通信波が1999年まで有効なため、日本では424kHzの周波数が割り当てられた。
日本語放送は、基本的には国際的な放送と同じであるが、アルファベット及び数字のみでなく仮名及び漢字を扱うため、技術基準が追加されている。特に、見やすい文字、文書とするため、文字の大きさは10ポイント相当以上、1行あたりの文字数は、最大30文字となる。
デジタル選択呼出装置(Digital Selective Calling System)は、GMDSSに使用される通信設備で、略してDSC装置と呼ばれている。
DSC装置は、デジタル符号化信号を媒体とした通信方式で、MF帯及びMF/HF帯、又はVHF帯の周波数を使用している。
DSC装置は、特定の船舶又は海岸局を選択して自動的に呼出を行う機能と呼出に関する情報を表示する機能とを持っている。
デジタル選択呼出に使用されるデジタル符号は、誤り検出符号を含む10単位の同期信号で構成されている。
表2・2にDSC装置に使用される、10単位の誤り検出コードを示す。
(1)信号の構成
遭難呼出などの呼出信号の構成を、図2・7と表2・3及び表2・4に示す。
(1)呼出信号
最初のドットパターンでは受信の同期をとり次の信号の位置を正しく定めるための0と1の繰返信号である。
MF帯、MF/HF帯では2秒間、VHF帯では1秒間続く。
(2)フォーマット信号
フォーマット信号には、遭難呼出(112)、全船呼出(116)、海域呼出(102)、船団呼出(114)、個別呼出(120)の5種がある。フォーマット信号は2回繰返し送信される。
(3)アドレス、カテゴリー信号
フォーマット信号に続いて、呼出し先のアドレス、カテゴリー信号が入る。
また、呼出しの種類によっては、この後のシーケンスが若干異なる。遭難呼出し以外に入る(通信の)カテゴリー信号には、遭難(112)、緊急(110)、安全(108)、船舶業務優先(106)、通常業務(100)があり、その通信の優先度を指す。
(4)自局の識別符号
アドレス、カテゴリー信号に続く自局の識別符号で、自局の識別符号を5文字の数字に変換した信号を送出する構成となっている。
(2)遭難呼出、その他の呼出情報
遭難呼出の情報は、遭難の種類、遭難位置、時刻及び引き続く送信形式で構成される。
また、その他の呼出では、自局の識別符号の後に送信電波の型式や種類及び送信のチャンネル又は周波数を指定する情報が付加される。
遭難呼出を行う場合の、遭難の種類の情報は、手動入力でのみ可能となっている。
(1)遭難の種類
遭難の種類には、火災・爆発(100)、浸水(101)、衝突(102)、座礁(103)、転覆の危険のある傾斜(104)、沈没(105)、操船不能と漂流(106)、その他の遭難(107)、船体の放棄(108)、EPIRBの発射(112)がある。
(2)遭難位置の座標
遭難位置の座標(5文字すなわち10桁の数字)は、手動で入力をするが、航法装置からの自動入力も可能である。
(3)通信形式の情報
通信形式の情報は、遭難位置の座標を通知した後に、通信の形式を遭難局が希望する通信の形式を指定する(電話又はテレプリンタ)、1文字の信号である。
その他の呼出内容の構成を表2・4に示す。
(4)DSC設備のクラス
DSC装置には、GMDSSでその装備を要求されているクラスAと呼ばれる装置の他に、最小限の機能を持ったクラスBとがある。
また、船舶の識別のみを送信して、警報を行うためにVHF帯の設備に付加されるクラスCの3種類がある。
(5)DSCの運用手順
(1)呼出の内容
デジタル選択呼出しによる呼出の内容は、呼出し局の宛先(RRで定められている海上移動業務識別番号)、送信局の自局識別及び呼出の目的を示す情報(通常は呼出後に引き続いて行う通信の優先度、通信のタイプ、通信周波数のいずれかの情報)を含んでいる。
(2)DSCの呼出
DSCの呼出は、遭難及び安全関連の呼出や通常の呼出に利用することができる。適切な設備を有する海岸局を通じて公衆通信網に自動接続することもできる。
(3)DSC呼出の受信
受信局においてDSC呼出を受信したときは、呼出の内容が表示されるとともに、可視及び可聴の警報で知らされるようになっている。
(4)DSC呼出の変調速度
DCS呼出の変調速度は、MF帯及びMF/HF帯が100ボー、VHF帯で1200ボーである。
DSCの呼出は、送信される呼出の種類によって、MF帯及びMF/HFでは6.4〜11.6秒の間で行われ、VHFでは0.45〜0.82秒の間で行われる。
(6)DSC装置による遭難警報等の誤発射について
DSC装置による遭難警報等の誤発射については、整備等を実施する場合には誤発射した場合に備えて処置の方法を予め熟知しておくことが肝要である。
(1)遭難警報等の操作
遭難警報等を発射する操作を実行する場合は、誤発射を未然に防ぐ為に警報を発射する装置(警報送出釦)は、少なくとも2つの独立した操作を行うことにより送信される方式となっている。
(2)誤発射した場合
DSC装置等により遭難信号等を誤発射した場合は直ちに発射を停止させ海上保安庁に届けること。
(3)海上保安庁の電話番号等
誤発射に備えて、予め届け出の必要がある海上保安庁の電話番号等を調査しておくこと。
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