第7章 人工衛星による測位の基礎
この章では、人工衛星における測位の基礎として、まず海上における位置(船の位置を含む)の測定原理を説明し、これらの原理を通して人工衛星を利用しての測位の基礎をなるべく平易に解説するものである。
海上における位置は、二本以上の位置の線の交点として求められる。例えば、レーダーである岬の方位を真方位で30度、岬までの距離を10浬と測定したとすれば、図7・1に示すように、岬を真方位30度に見る「方位」という位置の線と、その岬から10浬という「距離円」の位置の線(岬を中心とする円周)の交点がその船の位置ということになる。
このような方位の線や距離の円は、その線の上に船がいると考えられる線で、これを位置の線といっている。
位置の線には次のような種類がある。
(1)方位の線
これには、磁気コンパスあるいはジャイロコンパスによって測定される方位、レーダーで測定される方位、電波の到来方向を無線方位測定機で測定して得られる方位等がある。
コンパスで測定される方位の精度は±0.5°である。方位の精度は同じでも、物標からの距離が遠くなると位置の精度は悪くなり、距離1浬の物標の方位を測定したとき、0.5°の誤差があると距離的には約16mの誤差であるが、距離5浬の物標の方位を測定したときでは約80mの誤差、10浬の物標では約161mの誤差、20浬の物標では約322mの誤差と位置の誤差は増大することに注意を要する。
図7・1 方位線と距離円の交点
(2)距離の線(円)
レーダーで測定される距離の円、測距儀で測定される距離の円等がある。
レーダーで測定される距離の測定精度は概略送信パルスのパルス幅で決まり、パルス幅が0.25μsでは約40m程度である。しかし、ブラウン管の表示画面上で測定するときは、遠距離レンジになると輝点の大きさが占める距離が大となり精度が悪くなり、8浬レンジで約100m、20浬レンジで約250mとなる。
(3)距離差の線 図7・2
二つの無線局からの電波到達時間の差は、それらの局からの距離の差を表し、一定の距離差の線はその二局を焦点とする双曲線群のうちの一本であることから、時間差を測定して得られる双曲線が距離差による位置の線ということになる。
複数の組局から得られた双曲線の交点として、位置を求める航法を双曲線航法といっている。
図7・2 距離差による双曲線
(4)天体の水平線上の高さ 図7・3
天体(太陽、星など)の水平線上の高さを測定すれば、サッカーボールにお茶筒を被せたとき、お茶筒の端がボールに当たる所が円になるように、地球表面に円となって位置の線が得られる。地球は非常に大きいので部分的には太陽の方位に対して直角な線に近似できる。
図7・3 天体の高さの等しい円
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