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6・4 レーダーの機構
 レーダーの機構を原則的に示すと、図6・12のように成り立っている。このとき各部で作られている波形を示すと図6・13のようである。これによって作動の大要を説明することにする。
(1)トリガ発振器ではパルス繰り返し周期に等しい周期で、図6・13の(a)に示すようなトリガ又は矩形波を作り出して、これを矢印で示すように各回路に送り、すべての回路を1周期ごとに同じ作動を繰り返させている。この周期で同じ動作をしていないのは、受信装置とアンテナ回転装置とブラウン管のスイープ同期装置等である。
 
図6・12 レーダーの機構
 
(2)マグネトロン回路では、トリガ信号が入ると定められた出力で、定められた波長のマイクロ波を、定められたパルス幅の時間送信する。
(3)マグネトロンから出たマイクロ波は図6・13(b)に示すようなパルス波に変調され、これが導波管(又は同軸ケーブル)を通って、送受切替装置を経てアンテナ(レーダーではスキャナーともいう。)に送られる。送受切替装置では、送信パルスは受信装置の方には行かず、アンテナの方にのみ行くようになる。受信した物標からの反射信号は逆にマグネトロン回路の方には行かず、受信装置の方にのみ行くことになる。
(4)トリガ信号は、レンジ用矩形波発生回路に入り、図6・13(c)に示すような使用レンジに相当する時間の矩形波を作り出す。この矩形波は、固定距離目盛回路・可変距離目盛回路・表示器電源回路・鋸歯状波発生回路に供給される。
(5)鋸歯状波発生回路では、トリガ信号が入ると図6・13(d)に示すようなスイープをする鋸歯状電流を作成して、ブラウン管の偏向コイルに流す。スイープの速さは、レンジの選定によって定まり、PPI画面の表示範囲(レンジ)が定まる。
(6)STC(Sensitibity Time Control)回路では、トリガ信号が入ると図6・13(e)のように一旦電圧が降下して以後徐々に回復する形の電圧が作成されて、これが中間周波数増幅器に加えられる。このため中間周波数増幅器の感度は、スイープの始めは一旦低下し徐々に回復するから、自船の近くの感度は下がり自船の周囲の海面反射を消すことになる。始めの電圧降下量を変えれば、感度が回復する時間を調節することができ、これが海面反射抑制制御となる。
(7)固定距離目盛回路では、レンジ用矩形波が入ると図6・13(f)に示すような一定の間隔ごとのパルス状の電圧が作成され、これがビデオ増幅器に加えられるので、スイープ上に一定間隔ごとの輝点が発生し、スイープ線の回転(スキャン)とともにPPI画面上に一定距離ごとの同心円が表れる。
(8)可変距離目盛回路では、図6・13(g)に示すようにレンジ用矩形波が入ってから可変距離目盛の距離を変えるつまみで定まる時間だけ遅れたところに、パルス状の電圧が作成され、これがビデオ増幅器に加えられるので、スイープ上のある距離のところに輝点が発生し、スイープ線の回転(スキャン)とともにPPI画面上のある距離のところに円が表れる。
(9)ブラウン管電源回路では、レンジ用矩形波が入ると図6・13(i)に示すようなこれと逆位相の矩形波状の電圧が作成される。これによってレンジの選定によりその時間だけ表示がなされ、スイープの時に受信された反射信号が表示され、帰線や中心でスイープを待っている時に受信される信号は表示されないことになる。
 
図6・13 レーダーの各部における波形関係
 
(10)船首方位線発生器では、アンテナが船首の方向を向くと、スイッチが入り図6・13(h)に示すように電圧がビデオ増幅器に加わり、PPI画面上に船首方位を示す輝線が表れる。
(11)回転周期装置は、アンテナの回転方向とブラウン管のPPI画面上のスイープの方向を同期させるものである。これにジャイロコンパスからの真方位信号を差動的に加えるとスイープの方向は、真方位に同期する。
 
6・5 レーダー操作スイッチとその機能
 次に通常表示器の近くに配置されているスイッチと、その機能について説明する。
(1)電源スイッチ
 オフ(Off)、スタンバイ(Stand by)、オン(On)の位置がある。
 スタンバイの位置では、電動発電機や真空管のヒーターなどに電流が供給される。
 オンの位置では、陽極電圧をはじめ、スキャナーモータなど全装置の電源が与えられて作動を開始する。
 オフから急にオンにされても、機器の保安上約3分間の遅動リレーが入っていて、急に電圧が各部にかかって破損させることのないようになっている。
(2)インテンシティ Intensity
 ブラウン管の陽極電圧(又は陰極負電圧)を調整して、電子流の速度を変え輝点の明るさを調節するもので、PPI画面の明るさを調節する。これは、必要最小限の明るさであるようにするとよい。
(3)フォーカス Focus
 フォーカスコイルの電流を調節するもので、輝点が最小になるように調節すべきである。
(4)ビデオ Video
 映像増幅回路の増幅度を調節するもので、信号の増幅比率を変えるものである。
(5)ゲイン Gain
 中間周波増幅器のグリッドバイアスを変えて、微小な反射信号を見つけるようにするものであるが、上げ過ぎると飽和を起こし雑音が一面に出て、見えにくくなるし、下げ過ぎると小物標が見つけられなくなるので、適正にすることを心掛けなければならない。
(6)レンジ Range 測定範囲
 スイープの速さを切り替えて、PPI画面の測定範囲を選定するものである。
 適正に選んで必要な物標を見逃すことのないように注意しなければならない。特に捜索救助目的でレーダー・トランスポンダーの映像を探すときは、10海里以上としてSART信号を発見しやすくしなければならない。
(7)STC 海面反射抑制
 6・4の(6)項で述べたように、PPI画面の自船近くの感度を落として、海面反射雑音をなくするものである。しかし、海面反射を消すとともに、小物標からの反射も消すことになるので下げ過ぎないように注意しなければならない。
(8)FTC 雨雪反射抑制
 雨や雪の反射を小さくする調節のことで、反射信号増幅回路の接続時定数を小さくして信号の変化分だけを増幅するものである。微分回路ともいわれ時定数を小さくする、すなわち早くすることから、FTC(Fast Time Constant)といわれている。
(9)距離測定
 6・4の(7)項及び(8)項で述べたように、固定距離目盛又は可変距離目盛によって、物標までの距離を測定する。固定距離目盛による場合は、スイープの直線性がよくないと比例部分が等しくないことがあるから注意が必要である。可変距離目盛は、時々固定距離目盛と合わせて調整しておくことが大切である。
(10)方位測定
 物標からの反射映像に方位カーソルまたは電子的カーソル線を合わせて測定する。点物標にあっては、映像の中央にカーソルを合わせ、陸岸のような場合は、映像がビーム幅の半分づつ左右に拡大されていることに注意すべきである。
(11)同調
 受信する電波の周波数帯をそのレーダーが送信している周波数帯に合わせて、自分のレーダーが送信したパルスの反射波だけを探知するためのものである。通常は自動周波数調節(AFC)によって、自動的に合せるようになっているが、このAFCがないレーダーでは、これによって同調をよくとって(海面反射が最も遠くまで観測される)受信状態を最良にする。特別な周波数のレーダー・ビーコンを受信したいとき、又は特にSART信号を探したいときなどは、この同調つまみを回して調整し、陸地や海面反射の映像を消してSART信号だけ表れるようにすることもできる。このようなときは、海岸線や他船の映像が消えるので、そのままにしておかないように注意する必要がある。







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