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6・4 プロッティング機能
 ARPAは、IMOの決議によって、1984年9月以降順次10,000GT以上の船に装備することが強制され、同時にその性能要件などが定められた。これは、また、昭和58年3月8日の運輸省令によって日本の国内法規にも取り入れられ、昭和58年3月15日から施行された。また、2000年12月にIMOの第73回海上安全委員会(MSC73)にてSOLAS条約第V章が改正され、ARPAはもとより、2002年の7月以降500トン以上の新造船についてはATAを、また、500トン未満の旅客船及び300トン以上500トン未満の旅客船以外の貨物や漁船などの新造船にはEPAを装備することが義務付けられた(現存船については追加装備や換装の際に適用)。ここでは、このIMOに定める性能要件及び船舶設備規程を中心にプロッティング機能の概要を示すことにする。
 表示器は、表示面の有効直径がARPAでは340mm以上、ATAでは船舶の総トン数により異なり、総トン数500トン以上1,000トン未満の船舶が180mm以上、総トン数1,000トン以上10,000トン未満の船舶が250mm以上、総トン数10,000トン以上の船舶が340mm以上、EPAは180mm以上(注)を要す。ARPAはレーダーの表示器を兼ねたものでもよいが、レーダーの表示器と別に設けたものでもよい。
 しかし、どちらの場合でも、レーダーの表示器に要求されているすべてのデータが表示できなければならないことになっている。ARPA、ATA、EPAいずれの表示器も、3海里と6海里及び12海里が表示でき、0.5海里、1.5海里、24海里は表示可能ならば備えてよいことになっているが、普通はそのほかの距離レンジも備えている。
 ARPA、ATAの表示器への入力には、レーダーからのビデオ信号、空中線の回転角度信号、船首輝線(SHM)信号、トリガ信号等のほかに、シャイロコンパスからの方位角信号とログからの速度信号を必要とする。
 ARPA、ATAに要求されている機能の基本的な要件は、航海者がレーダーの画面を見ながら手動でプロッティングをすることによって衝突する危険のある船を見いだすのと同じ信頼度と同じ精度で、自動的に、あらかじめ設定されたある距離範囲に他船が入ってきたこと及び衝突のおそれのある危険船の存在を警報することである。このためには、自船周囲の船舶の航行状況を、手動によるプロッティングなしで判断ができる画面を作成して表示し、かつ、ARPAに関しは模擬操船によるシミュレーションができる手段を持つことが要求される。したがって、ARPA、ATAは、他船のエコーを雨雪反射や海面反射から分離して検出し、その検出した船舶のエコーが、操作者があらかじめ設定しておいたある距離範囲に近寄ったときにはそれを検知して音響警報を出し、表示器上にも表示しなければならない。更に、検出したエコーはある優先順位に基づいて捕捉をするが、この捕捉を自動的に行っても、あるいは人がその順位を判断して手動で捕捉してもよい。また、陸地のエコーとの混乱を防ぐためには、捕捉の範囲を手動で限定させる必要もある。相対速度100ノットまでの船舶を捕捉できる数は、ARPAでは自動的叉は手動により20物標以上、ATAでは手動により10物標以上と決められている。
 捕捉した物標は、その後の動きを連続的に自動追尾され、その追尾の結果として求められる自船に対する方位と距離の変化情報をCPUに取り込むとともに、ある条件の下に、過去の位置データも記憶しておく。このとき、図6・7に示すように、自船Oから相手船Tの相対針路TC上に垂線を下ろしてその足をCとすると、OT、OC及びTCで三角形が構成されるが、このときの点Cを物標の最接近点=CPA(Closest Point of Approach)といい、この最接近点に到達するまでの時間、すなわち距離を、相対速力VRで割ったもの(/VR)をTCPA(Time to CPA)という。また、OCは最接近点までの距離で、RCPA又はDCPA(最接近点距離)というが、一般的には単にCPAということが多い。また、このようにして作られた三角形を“衝突三角形”と呼んでいる。
 実際には、このときCPUに入れられた自船に対する方位と距離の変化データから、捕捉した相手船の真の針路と速力及び自船に最も近づく距離(CPA)とそれまでに要する時間(TCPA)等が計算される。その結果は、操作者の求めに応じてデジタルで表示されるとともに、相手船の針路と速力は表示面上にベクトルの線等で表示される。
 
図6・7 衝突三角形
 
 衝突の予防には、衝突の予測とその回避の二面が考えられるが、極端にいえば、衝突の予測は複数の船舶が同一点を占有する場合についての予測であり、回避とは、複数の船が同一点を占有しないように操船することである。実際に操船する場合には、単なる点ではなくてある閉塞された領域を考える必要があり、これをCPAという概念でとらえている。また、予測に関してはCPAに到達するまでの時間が必要になり、これをTCPAとして考え、これらによって衝突の危険を判断する。
 このCPAがゼロになるということは、すなわち、両船が衝突をすることであるが、これを避けるために、操作者は現況における自船の能力を考慮して、あらかじめCPAとTCPAとに適当な値(例えば自船の回避能力が1海里以上、30分以上というように)に選定しておくと、この値以下になると音響警報を発するとともに、表示面上でもその衝突のおそれのある船がどれであるかを、点滅などの表示によって知らせる。
 更に、過去における相手船の位置は、少なくとも3、6及び12海里の距離レンジに応じてそれぞれ0.5、1.0及び2.0分の時間間隔で4点以上の等時間間隔の輝点で表示できなければならない。また、更にこれ以外の時間間隔に切り替える機能を備えていてもよい。この表示は、過去にその船が針路又は速力の変更をしたかどうかの判定に使用される。ある種の機器では、上述のベクトル表示のほかに、あらかじめ設定された衝突の危険範囲等の特殊な図形を表示面に出すこともあり、この図形は衝突の危険状態の判定に使用される。
 このように衝突を予測と回避の二つの観点からみると、予測する場合には相対速度のベクトルに対して、また、回避する場合には自船から見えている方位から相手船の船首がどの方位に向いているかなどを知るために、それぞれに真速度のベクトルが必要になってくる。
 
図6・8 相対速度のベクトルと真速度のベクトル
 
 相対速度のベクトルと真速度のベクトルとの関係を図示したのが図6・8である。
 まず、相対速度のベクトルで概略のCPAとTCPAとを知ることができ、これによってその時点におけるレーダー視野にある全船の危険度を一目で把握することができる。次に、真速度のベクトルによって、物標の速力と針路を把握することができるので、自船に対する相手船の動きなどの状況が明りょうに分かる。すなわち、これによって海上衝突予防法等でいう態勢関係(横切り、追越し、同航、反航等)がつかめ、衝突の危険がある場合には、どのルールが適用され、どのように避航すればよいかが分かる。
 衝突する危険のある相手船があるときには、その他の船が新しい危険船にならないようにしながらその危険船を避けるという操船が必要になる。ARPAでは、そのような操船方法を見いだすための模擬操船と呼ばれる操作ができなければならない。これは変針又は変速、あるいはその両方を操作者が仮に設定をして、その設定値による自船付近の未来の状況を表示面上で短時間に変化させて模擬操船によるシミュレーションをすることである。もちろん、このシミュレーション中もARPAによる追跡などの動作は継続され、いつでもシミュレーションを中断し、本来の表示に戻すことができなければならない。
 ARPAでは機能不良が発生すれば警報で観察者に知らせ、システムの動作をモニタできる。更に、ARPAの総合性能が既知の値からずれていないか定期的に検査できる試験プログラムが設けられている。
 EPAは10物標以上を表示面上でプロットすることができ、相対速度75ノットまで対応する。プロットの更新は30秒経過後操作者が行い、CPA、TCPA範囲とベクトル時間の設定値(調整可能)に従い、自動計算により危険性、真針路と真速力をシンボル及びベクトルで表示する。シンボルにはプロット番号を付加し、識別することが可能であり、プロット番号を非表示にすることもできる。10分間プロットを更新しない場合は、プロット番号を含んだメッセージで知らせ、一連のプロットで15分を超えたプロットは消去される。また誤入力したプロットは修正が可能である。
 以上がARPA、ATA、EPAの機能と動作の概要であるが、基本的には、レーダーの映像にプロッターを用い、他船の位置を3分〜6分の間隔でプロットすることによって他船の自船に対する航跡、すなわち、CPAとTCPAを知り、衝突の危険性の有無を判定することにある。このレーダーによる衝突回避のプロセスをチャート化したものが図6・9である。
 ARPAの性能要件についてはIMOの総会で『自動衝突予防援助装置(ARPA)の性能基準』(決議A823(19))として決議されている。また、ATA、EPAの性能要件については、MSC64(67)ANNEX4 APPENDIX1及び2で規定されている。これを受けて国内法規としても「船舶設備規程」及び「無線設備規則」の中に制定されている。詳しくは装備艤装工事編を参照されたい。(既存船は追加装備や換装の際に適用)
 
図6・9 レーダーにおける衝突回避のフローチャート


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