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5・5 プロッテイング装置
 昔はCRT面上にハーフミラーとプラスチック製プロット面を重ねたものの上に、映像の位置を一定時間ごとにグリルスペンで描いた。しかし、この装置は煩雑であり、しかも多数の他船をプロットすることには限界があった。
 デジタル方式のレーダーでは、映像が記憶されていることを活用し、新たなメモリーに画面の映像全体を一定時間間隔(例えば1分、5分間隔で6回など)で記憶して重畳させる方式や、あるいは連続的に記録を重ねて航跡を表示する(trail display、トレール表示)を行う機種もある。最近のラスタスキャン方式のレーダーには、ほとんどの機種がこの機能を持っている。他船の航跡が表示されるので動静やおおよその進路を判断できるので有効である。この機能では指定した時間間隔で物標の過去の位置を白色等のドット(点)や線で表示できる。しかし、混雑した海域では航跡が多くなり他船のレーダー映像が見づらくなるが、機種によっては航跡を細線化する機能を持つものもある。一部の機種では手動プロット用のスイッチがあり、カーソルの位置を記憶させたい位置に移動させ、そこでスイッチを操作するとその点が記憶され目印をつけることができる。
 電子プロット(EPA)として、電子的に手動でターゲットの位置を指定する操作は昔と同様だが、計算は自動的に行われる機能がある。操作は、カーソルを物標の映像上に合わせて捕捉キーを押し、次に番号キーを操作して物標番号を指定するように行う。この操作を一定時間間隔で繰り返すことで自動的に針路や速度が計算され、物標番号を指定するとプロットデータが数値で表示される。最大10個の物標をプロットできる。
 他船の映像を自動的に捕捉してプロットする装置(ARPA)については第6章でまとめられている。
 
5・6 レーダー・パフォーマンス・モニタ
 この装置はレーダーアンテナの近くに設置し、マグネトロンの劣化や受信感度の低下等を検査・監視する用途に使用される。また、レーダー・アンテナのふく射面への結露、降雪、氷結、アンテナふく射面へのペンキ塗布の過ち、導波管内部への水の侵入やケーブルの状態等による送受信性能の劣化も判断できる。この装置は、図5・12に示すようにレーダー本体とは離して設置し、レーダー送受信機の送信出力の低下状況の監視と受信回路の受信感度の状態を判断するための極微弱なマイクロ波を送信する機能を持っている。
 
図5・12 レーダー・パフォーマンス・モニタの取り付け図
 
 レーダー・パフォーマンス・モニタはレーダーの性能を判断するものなので、レーダー本体側を所定の動作状態に設定しておくことが必要である。そのため、レーダー本体側は次に示すように設定する。
・レーダーの距離レンジは24マイルに設定する。
・輝度は中程度とし、上げ過ぎないように調整する。
・感度は画面上に雑音が少し映る程度に設定する。
・STC及びFTCは「最小」若しくは「断」の状態とする。
・同調を調整し最良状態にしておくこと。
 レーダー・パフォーマンス・モニタの構成の概要を図5・13に示す。
 
図5・13 レーダー・パフォーマンス・モニタの構成の概要
 
 レーダー・アンテナから放射されたレーダーのパルス波は、レーダー・パフォーマンス・モニタのアンテナから入り、結合回路(あるいは別のアンテナ)を通じて調整用の減衰器を経て、増幅された後にレベル検出回路で送信レベルが測定される。同時に検出された信号はレーダー・パフォーマンス・モニタの動作のためのトリガ信号となる。機種によっては、レベル検出、保持回路では近隣の他船のレーダーからのパルス波で誤動作しないようにレーダー本体からの送信トリガを受けて、信号レベルの保持動作を行わせるものがある。レベル検出回路の測定結果が所定のレベルに達しているならば、機種によるが12マイルあるいは14マイルの距離にレーダー・パフォーマンス・モニタからの信号が現れるように遅延時間が設定される。遅延されたトリガ信号で周波数掃引信号電圧発生回路と振幅変調信号電圧発生回路を起動させる。発振周波数を掃引する理由は、船舶用レーダーに許可されている周波数帯のすべてのレーダーにも対応できるように周波数帯の全域を掃引するためである。
 この周波数掃引信号電圧で、VCO(Voltage Controlled Oscillator: 電圧制御周波数可変発振回路)は周波数帯の全域にわたって周波数を変えながら発振する。その出力は初期調整用の減衰器で所定の強度に工場出荷時に調整されている。この出力はさらにPIN1)減衰器で振幅変調される。
 
1) PINとは、Positive-Intrinsic-Negativeの頭文字をとったマイクロ波領域で動作できる極めて高速な半導体素子の名称である。その構造はP型半導体層とN型半導体層の中間に通常の半導体層を挟み込み、バイアス電圧でインピーダンスが変えられるようになっており、減衰器や移相器として応用されている。
 
 遅延抑制回路からの遅延トリガで振幅変調信号電圧発生回路が起動されその制御電圧(バイアス電圧)によって3〜4dBずつ強度が減衰させたパルス列がPIN減衰器で作られている。その結果、何番目のパルス列まで観測できるかを見ることで、受信回路の感度の低下状況を判断できる。PIN減衰器を経たマイクロ波の出力は設置調整用の減衰器を経て、アンテナからレーダーのアンテナに向けて送信される。
 設置調整時には所定の距離に表示されるように遅延時間の調整を行い、表示位置の調整を行わなければならない。その理由は発振器が周波数掃引している関係で、レーダーの受信帯域内に入るまでに若干の時間的なずれが生じるので調整を要するためである。
 レーダー・パフォーマンス・モニタからの送信信号について説明する。
 図5・14の(1)に示すように、レーダーからの送信パルスが受信されレーダー・パフォーマンス・モニタの受信部で送信レベルが測定される。
 送信レベルが低下していなければ12マイルあるいは14マイルの距離に相当する所定の遅延時間の後に、(2)に示したように診断用の信号が送信される。このときレーダーからの送信レベルが低ければ、遅延時間を短くして(3)、(4)のように送信する。この結果、レーダーのPPI表示画面では正常時よりも近いところに最初の円弧が表示されるので送信レベルが低下していることがわかる。一般に円弧の数は4個位で構成されており、それぞれが3〜4dBずつ順に弱く発信させられているので、レーダーの受信機の感度が悪くなっていると、その分だけ画面の中心から遠い円弧から見えなくなるので受信感度が低下していることが判断できる。
 
図5・14 レーダー・パフォーマンス・モニタからの送信信号
 
 このようにして、レーダーのPPI表示画面に現れる最初の円弧までの距離と円弧の数で送信レベルの低下状況と受信感度の低下状況とを判断することができる。
 レーダーの送受信機の状態が判断する例を表5・1に掲げ、また、レーダーのPPI表示画面での表示状況の例を図5・15に示す。
 
表5・1 レーダーの送受信機の状態が判断できる例
送信レベルの状態 受信感度の状態
最初の円弧の距離 低下状況 円弧の数 低下状況
12マイル 0dB 4 0dB
9マイル 3dB 3 3dB
6マイル 6dB 2 6dB
3マイル 10dB以上 1 9dB
    0 12dB
 
図5・15 PPI画面での表示状況の例
 
練習問題
(問1)真方位装置の基本構成図を示し、動作原理について述べよ。
(問2)雨雪除去にレーダー電波の偏波を利用した方法がある。それは何か。また、その除去できる理由を簡単に述べよ。
(問3)レーダー・パフォーマンスモニターとは何か。また、測定するためにレーダー本体ではどのような設定が必要か。


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